[奈文研コラム]育成林業に関する文化的景観
2024-04-17 09:00
森林資源を暮らしの中で積極的に利用してきた日本列島において、文化的景観の対象に森林が加わることは、必然と言って良いでしょう。国土(3,779万ha)に占める森林の割合は時代によって変化しながら、現在の日本では約7割(2,502万ha)が森林となっています。その森林の多くは山地にあります。日本列島の地形は起伏にとみ、国土の4分の3が山地(火山や丘陵を含む)という中で、森林といえばまず山の風景を思い浮かべることもまた、日本の文化的景観ではごく当たり前のことと言えるでしょう。
こうしたことから、文化的景観の概念が文化財保護法に加わる以前、文化庁での検討段階から、森林に関する景観はすでにその1種別とされました。また、令和6年(2024)3月現在までに選定されている重要文化的景観72件の中で、19件が森林の利用に関する景観地の要件を含んでいます。
この19件を詳細にみてみると、9件が育成林業に関わるものでした。育成林業とは、植林して育てた木を収穫する林業のことを指します。日本の森林の約4割が人工林(1,009万ha)ですが、その人工林の内、スギやヒノキ、カラマツといった針葉樹林が9割以上(975万ha)を占めています。つまり、人の手で植えられた針葉樹林が、国土の4分の1を占めているということになります。真っすぐに伸びた円錐形の針葉樹が山一面を覆う風景と、その風景を創り上げてきた育成林業は、日本を代表する営みのひとつとなっているのです。
こうした背景を受けて、景観研究室では育成林業に関わる文化的景観の調査研究をおこなってきました。
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