全世界の淡水生物のうち4分の1が絶滅の危機に

-国際自然保護連合(IUCN)がネイチャー誌に発表-

名城大学人間学部の谷口義則教授が、淡水魚類専門家グループの日本地域副チェアとして参加した国際自然保護連合(IUCN)の研究グループは、淡水にすむ2万3千種以上の魚類などの生息状況を世界で初めて地球規模で網羅的に評価しました。その結果、実に4分の1が絶滅の危機に瀕していることが明らかになりました。この研究成果は、2025年 1月 8 日(日本時間同9日午前1時)に国際科学誌「Nature」に掲載されました。

本件のポイント

・2万3千種以上の淡水生物の生息状況を世界で初めて地球規模で網羅的に評価
・世界の淡水魚類、トンボ類、エビ・カニ類の24%が絶滅の危機に瀕していることが明らかになった
・主なリスク要因は、生息地の汚染、ダム建設、取水、農業用地への転換、外来種の侵入や乱獲と考えられる
・世界中の1,000人以上の専門家による20年以上にわたる研究の成果である

研究の背景

地球上に存在する水の97.5%は海水であり、残る2.5%の大半は地下水と氷河です。湖や川、湿地などの淡水の生態系は、全体の表面積で言えば1%未満とごくわずかしかありません。しかし、その空間には世界的に知られている魚種のおよそ半分を占める淡水魚類がひしめき、陸域にあるがゆえに人間活動の影響を強く受けてきました。

研究内容

淡水は、人間生活や経済発展に欠かすことができない資源ですが、そこにすむ生物たちは常に多大なストレスに晒されています。本研究では、20年以上かけ、世界で初めて地球規模で網羅的に 魚類、甲殻類、トンボ類を含む2万3496種の淡水動物相について、詳細な生息・保全状況の調査を行いました。絶滅危惧か否かを評価するためには、各生物種の分布域、個体数の変動状況、減少スピード、減少の要因などを明らかにする必要があります。しかし世界中でこれらのデータを集めることは容易ではありません。そのため、IUCN本部のあるロンドンから研究者らが毎年のように世界各地に赴き、地域の生物の生息状況に詳しい研究者らに詳細な聞き取りを行いました。日本では、淡水魚類の専門家である京都大学の渡辺勝敏教授や本学の谷口教授を含む10名以上の研究者が情報収集にあたり、IUCNによる地球規模で行う絶滅危惧種の評価プロジェクトに参画しました。

研究の結果、評価の対象とした世界の淡水生物種の約4分の1が絶滅の危機にあることが明らかになりました。それらの割合は、エビ・カニ類等の節足動物で約30%、魚類で26%、トンボ類で16%でした。西暦1500年以降、淡水生物は89種以上が絶滅し、さらに178種がいつ絶滅してもおかしくない状況にあります。さらに恐ろしいことに、詳しい分布や生息状況がほとんど分かっていない種も存在するため、これらの数字は過小評価である可能性が高いのです。

この研究では、多くの淡水生物が絶滅危機に陥っている要因が、気候変動(地球温暖化)や異常気象による水位低下、農業・工業目的の過剰な取水、無秩序な漁業や観賞魚販売等を目的とする乱獲、ダム開発、汚染、外来種による捕食や競争等による個体群の減少にあることを明らかにしました。たとえば、1970~2015年の期間だけで、世界の沼地や湿地、池などの湿地帯の約35%が失われました。これは森林喪失の実に3倍のスピードにあたります。

淡水生態系は、淡水生物の重要な生息地ですが、気候の調整装置としても重要な機能を果たします。その重要性にもかかわらず、ほとんどの場合は私たちの目に触れず、意識すらされないまま傷つき、また失われてきました。今後、種の減少や喪失を防ぐことが急務ですが、そうすることは私たち人間の生活を守ることにもつながるのです。

今後の展開

2010 年、ここ名古屋で開かれた生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)を受け、「愛知ターゲット」と呼ばれる世界目標が採択されました。生物多様性の損失を食い止めるために、各国が優先して取り組むべき20の個別目標がまとめられました。その後、「愛知ターゲット」の達成に向けて、「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」 (2015 年)、「パリ協定」(2015年)が採択され、さらにSDGsの国際目標も設定されました。IUCNは、自然保護活動を通じて、これらの国際目標の達成に向けて取り組んでいますが、それは持続可能な開発、気候変動の緩和とそれへの適応、さらには生態系を活用した防災・減災への貢献につながります。世界の様々な環境問題に統合的に取り組んでいくことが求められる中で、淡水生態系の研究者としてIUCNと協力関係をとりつつ、愛知・名古屋から情報を発信していきます。

掲載論文

タイトル:One-quarter of freshwater fauna threatened with extinction
著者名: Sayer, C.A., Fernando, E., Jimenez, R.R. et al. ※本学の谷口教授も共著者
掲載誌:Nature
掲載日:2025年 1月 8 日(日本時間同9日午前1時)

IUCNプレスリリース

お問い合わせ先

名城大学 人間学部 教授 谷口義則
TEL:052-832-1151(大学代表番号)
E-mail:ytani@meijo-u.ac.jp

NC動画生成サービス
Copyright 2006- SOCIALWIRE CO.,LTD. All rights reserved.