【岡山理科大学】高さだけではない富士山の魅力 若者たちに伝えたい!
富士山ガイドの宮下竣吉客員教授
太古の時代より噴火を繰り返してきた活火山であり、「八」の字の山体の美しさのみならず、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵にも描かれるなど、芸術・信仰・敬愛、そして畏怖の対象として日本人の心に深く刻み込まれた山:富士山(標高3776m)。2013年には「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」として世界遺産に登録されました。
その富士山のふもと・山梨県富士吉田市で生まれ育ち、富士山が持つ多彩な魅力の発掘に取り組んでいる富士登山ガイドの宮下竣吉さん(64)が今年度、岡山理科大学の客員教授に就任、基盤教育科目「文化を読みとくB(富士山の魅力)」の授業を担当します。
父親と小学2年から富士登山
宮下さんは早稲田大学出身。現在は1990年に設立したログホームの販売・施工会社「株式会社ビ・ボーン」(山梨県山中湖村)の代表取締役を務めています。
父親が富士登山をアシストする「強力(ごうりき)」をしていたこともあって、小学2年生から富士山に登っていました。慣れ親しんだ山だけに当初は特別な思い入れはなかったと言いますが、「仕事で海外のログホームメーカーに何度も足を運んでいるうち、フィンランドやカナダの自然もすごいけど、ここってもっとすごいよね」と、地元の自然の素晴らしさを再認識することに。周囲には次第に自然志向のメンバーが集まり、6、7年前から富士山ガイドをするようになりました。
富士山の自然と歴史に魅了され
富士山ガイドは、山小屋の推薦状と救急救命士の資格に基づき、富士吉田市の公認ガイドとして認定。ガイドに必要な知識を習得していくうち、「その奥深さにのめり込んでしまいました」と言います。江戸期には各地に存在した富士山信仰集団「富士講」、登山客に宿を提供して道案内のほか富士講の普及にも努めた「御師(おし)」という存在、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)を祭神とした北口本宮冨士浅間神社の歴史的経緯や登山口に今でも残る史跡――。こうした人々の連綿とした営みを背景に、現在ではリゾートや首都圏機能、先進テクノロジーを含めた「富士五湖自然首都圏構想」も動き出しています。
「自分の足で、自分の五感で歴史と自然を感じて」
授業はオンラインを使ったハイブリッド形式の座学講義と、現地演習の2本立てで行われ、理大の講師とともに宮下さんのほか、現役で活躍中の代表的な富士山登山ガイド3人が講義と演習に参加。8月に実施される現地演習では、宮下さんをはじめ、高尾晋悟さん、渡邉守さん、千代(ちしろ)慧さんの4人のガイドが講師となり、富士吉田市や周辺地域で富士山信仰の歴史や文化遺産などに触れ、富士山5合目までの登山を通じて富士山の大自然と歴史を感じてもらいます。また、この演習では地元の山小屋経営者や御師の家の管理者など、現地の多くの方に協力していただく予定です。
「世界にも名の知れた日本一の富士山に、若い人たちに一緒に登ってもらって、歴史の道をたどることによって、文化の継承にもつなげていきたいと思っています。自分の足で自分の五感で歴史と自然を感じてもらうだけで、ものすごいアピールになるはずです」。宮下さんの言葉に力がこもります。