【名城大学】海苔のもつ抗酸化作用~季節変動と加工工程による増強を発見~
名城大学 大学院総合学術研究科の景山伯春教授(分子生物学)のグループは、海苔として現在最も広く食用されているスサビノリが示す抗酸化作用が収穫時期によって変動し、加工処理によって増強されることを発見しました。アンチエイジングに寄与する抗酸化作用の増強を活かして、付加価値をプラスした新たな食材開発や調理方法への貢献が期待されます。本研究成果は、2024年7月25日(日本時間)にアメリカの生化学・分子生物学の国際誌「AIMS Molecular Science」に掲載されました。
本件のポイント
・11月/12月に収穫される秋芽網の初摘み海苔が高い抗酸化作用を示した。
・生海苔を加熱して乾燥、焼処理を施すことによって抗酸化作用が増強された。
・増強された抗酸化作用はフェノール類化合物の増加によるものだと推定された。
・海苔の加熱処理により付加価値がプラスされた食材開発や調理方法提案への貢献に期待。
研究の背景
海苔として現在最も広く食用されているスサビノリ Neopyropia yezoensis (*1)の収穫時期は11月/12月から始まって3月/4月まで続きます。11月/12月の収穫を秋芽網とよび、網に種付けして育苗した海苔をそのまま収穫します。この秋芽網の中でも最初に収穫された初摘みの海苔はやわらかく風味がよいとされています。1月~4月の収穫は冷凍網とよばれ、冷凍保存しておいた種網を張って養殖した後に収穫します。収穫した生海苔は食用となりますが、一般的には焼き海苔として加工されたものが流通しています。焼き海苔は、生海苔を約40℃で乾燥加工して乾海苔とした後に、180-200℃で加熱する焼工程を経てつくられます。歯ざわりをよくする、うま味を出す、香りを出す、色を出すといった理由から、乾海苔を焼いて焼き海苔に加工するのが一般的です。
研究内容
海苔はアンチエイジングに寄与する抗酸化活性(*2)を示すことが知られています。我々は、収穫時期によって海苔がもつ抗酸化作用が変化するかを調査する為、伊勢湾で海苔養殖を営む鬼崎漁業協同組合(愛知県常滑市)の中村力男氏の協力により同じ漁場で収穫された12月(秋芽網の初摘み)、1月(冷凍網)、3月(冷凍網)の生海苔サンプルを入手し、その抗酸化能を評価しました。その結果、秋芽網の初摘み海苔が最も強い抗酸化作用を示すことが分かりました(図1)。収穫した漁場周辺における環境要因を調べたところ、強い抗酸化作用を示した12月は1月および3月と比較して水温が高く、栄養塩(窒素、リン)濃度が高い傾向がありました。抗酸化作用を示す物質として、フェノール類化合物(*3)、マイコスポリン様アミノ酸(MAA)(*4)、クロロフィル(*5)、カロテノイド(*6)の含有量を調べたところ、海苔の抗酸化作用の季節変動とフェノール類化合物の含有量に相関があることがわかりました(図1)。
また、同じ生海苔から加工された乾海苔と焼き海苔の抗酸化作用を調べたところ、生海苔と比較して乾海苔では1.2倍、焼き海苔では2.7倍の活性増加が確認されました(図2)。これらの抗酸化作用の増強についても、フェノール類化合物含有量の増加と相関があることが分かりました(図2)。
今後の展開
海苔は日本人にとってなじみの深い食材で、抗酸化物質やMAAなどの有用成分を含有していることが知られていましたが、スサビノリが示す抗酸化作用が養殖環境に影響を受けることが本研究によって明らかになりました。また、スサビノリの有効成分が加熱処理によって増強されることは栄養学の観点からも興味深い知見です。一般的に行われている乾燥および焼き入れ以外にも、加熱を伴う調理方法によって海苔の有用作用が増強される可能性が考えられます。今回増強された抗酸化作用を担うフェノール類化合物の特定が今後の課題です。
用語の解説
(*1)スサビノリ Neopyropia yezoensis
現在日本で流通している海苔のほとんどを占める。日本において過去に海苔として主に養殖されていたアサクサノリは養殖が難しく、現在では限られた生産者しか養殖していない。
(*2)抗酸化活性
活性酸素を補足して消去する活性を抗酸化活性という。動物は生命活動の維持のために酸素を必要とするが、酸素の一部は体内で活性酸素に変化する。活性酸素の蓄積は、細胞膜や蛋白質の変性につながり、老化や様々な疾病に関与している。
(*3)フェノール類化合物
芳香族置換基上にヒドロキシ基を持つ有機化合物。没食子酸やブチレイテッドヒドロキシルアニソールなど多くの抗酸化能を有するフェノール類化合物が知られている。
(*4)マイコスポリン様アミノ酸(MAA)
ラン藻、微細藻類、海藻などがつくる天然のサンスクリーン剤。これまでに、60種類を超える MAA 類の化合物が報告されている。共通の基本構造にアミノ酸類が結合した化合物で、UV-A, UV-B 領域の波長を吸収するという特徴がある。紫外線吸収能の他に抗酸化作用などの有用作用を持つことが報告されている。
(*5)クロロフィル
光合成生物が光合成を行う際に光エネルギーを吸収する色素。抗酸化作用を持つことが知られている。
(*6)カロテノイド
微生物、動物、植物など多くの生物に蓄積する天然色素。抗酸化作用などの生理活性を示すことが知られている。
掲載論文
雑誌名:AIMS Molecular Science
タイトル:Processing-induced changes in components that affect the radical scavenging activity of ethanolic extracts from Neopyropia yezoensis
著者:景山伯春(名城大学)、本田真己(名城大学)、中村力男(鬼崎漁業協同組合)、Rungaroon Waditee-Sirisattha(チュラロンコン大学)、蒲原聡(いであ株式会社)
掲載日時:2024年7月25日に電子版に掲載
DOI: 10.3934/molsci.2024015
お問い合わせ先
名城大学 大学院 総合学術研究科 教授 景山 伯春
TEL:052-838-2609 / E-mail:kageyama@meijo-u.ac.jp