[奈文研コラム]ラクダとカエル
建築部材にみる多様で個性的なネーミング
2022-12-15 09:00
木造の建築は、天然の素材を様々なかたちに加工して、組み合わせて造られています。細部のかたちは、建築の見せ場であり、時代や地域の特徴がよくあらわれます。奈文研が建造物調査に取り組んでいる高野山の壇上伽藍に建つ国宝不動堂は、緩やかな勾配の檜皮葺の屋根をもつ鎌倉時代の優美な建物です。細部では、軒を支える桁を受ける部材の流麗な曲線が際立っています【図1】。
私たちはこの部材を「蟇股(かえるまた)」と呼んでいます。カエルが両脚を開いて、ぐっ、と力を入れたかたちを表した、絶妙なネーミングでしょう。室町時代にはそう呼ばれていたようです。組物の間に据えられる中備えのほかにも、梁の上などに据えて、上部の荷重を下部へと分散させながら伝えます。なかでも、不動堂のようにくり抜くものを本蟇股(ほんかえるまた)と呼びます。かたちは時代により異なり、平安時代のものは、内部をくり抜かないで用いており、これを板蟇股と呼びます。
板蟇股のような部材は、海を越えた中国でも確認できます。たとえば、日本の平安時代にあたる1020年に建てられた中国最大級の木造建築である奉国寺大雄宝殿ではやや扁平なかたちをしています【図2】。
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