[奈文研コラム]奈良でも群馬でも

2024-03-01 09:00

 群馬県でこれまで仕事をしてきた私ですが、今年度から奈良文化財研究所に移ってきました。旧石器時代に人々はどのように生活していたのかを研究してきましたが、その中で奈良と群馬を結ぶものに瀬戸内技法があげられます。

 瀬戸内技法とは今から2万9000年前頃に現れた石器の製作技術の一種です。原礫と呼ばれる大きめの丸い石を板状に打ち割ったあと、刺身の切身のように薄く割っていくことで石器の素材を作ります(図1)。この瀬戸内技法で製作された素材から、「国府型ナイフ形石器」と呼ばれる特徴的な石器などが作られました。

図1 瀬戸内技法概念図(松藤和人1986「旧石器時代人の文化」『日本の古代4』中央公論社から一部改変)

 奈良県と大阪府の境にある二上山は、サヌカイトと呼ばれる石材の原産地です(写真1)。二上山周辺からは、瀬戸内技法に関連する遺跡が数多く発見されました。サヌカイトは板状に割れる性質があるため、瀬戸内技法はサヌカイトから効率的に石器を製作するために発達した技術であると考えられます。

 その反面、瀬戸内技法、もしくはその影響を受けて製作された石器は本州・四国・九州の広い地域で発見されています。関東平野でも以前から国府型ナイフ形石器は出土していましたが、瀬戸内技法が石器の製作に用いられた確たる痕跡は長らく発見されていませんでした。それが初めて確認されたのが、群馬県にある上白井西伊熊遺跡です。

写真1 二上山(北から、筆者撮影)
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