【名城大学】全日本大学女子駅伝6連覇へ準備着々
今年の夏も猛暑となったが、秋の訪れとともに駅伝シーズンの到来が近く感じられる気候となってきた。宮城県仙台市で実施される全日本大学女子駅伝(10月30日)まで残り1ヵ月余り。名城大学女子駅伝部は昨年、全日本大学女子駅伝と全日本大学女子選抜駅伝(通称・富士山女子駅伝)の「学生二大駅伝制覇」を4年連続で達成し、今年の全日本では史上初の6連覇がかかっている。そんな名城大学女子駅伝部の今季の足跡と夏合宿を振り返り、駅伝シーズンへの展望をお届けする。
女子駅伝部から日本代表が誕生 トラックレースで躍動
今年は女子駅伝部から世界大会の代表が誕生した。8月1日~6日のU20世界選手権(コロンビア・カリ)の1500mに柳樂あずみ選手(1年)が出場。自身初の海外レース参戦となった。
現地時間8月4日に行われた予選では4分27秒81の組7着となり、決勝進出はならなかった。「自己記録から考えて、決勝に進めるチャンスはあるはずだと思っていましたが、力を出し切れる強さが足りませんでした。早めに渡航して状態も万全でしたが、緊張しました」。しかし、大きな経験をチームに持ち帰ったことは間違いない。「悔しさから学べたことを今後に生かさなければいけないと感じています」と前を見つめる。
また、7月に米国オレゴン州ユージンで開催された世界選手権には、小林成美選手(4年)が10000mの代表に選出されている。残念ながら、日本出国時に受けた新型コロナウイルス感染症の検査で陽性が判明し、派遣は見送りとなったが、
「選考レースでうまく走れなかったので複雑な思いもありましたが、世界選手権で走りたいと感じ、選ばれたのはうれしいと思っていました」と話す小林選手。幸い発熱等の症状はなく、療養期間を経てチームの練習へ復帰。「周囲からの温かい言葉を受けて、気持ちを立て直しました」と話した。
そのほかの選手もトラックレースで躍動。毎年、好記録を目指して臨むホクレン・ディスタンスチャレンジで今年も健闘した。7月9日の北見大会では、3000mで山本有真選手(4年)が8分52秒19の日本学生新記録を樹立した。
6月の日本選手権では前年4位だった1500mで予選組8着、5000mは13位と満足のいく結果が出せていなかった山本選手。「自分のコンディションに不安要素はなかったのですが、合わせても走れないことがあるのだなと思いました」と振り返る。その悔しさから3000mでの学生新をターゲットに取り組み、狙い通りに成し遂げて改めてその力を示した。
7月13日の網走大会では、増渕祐香選手(3年)が10000mで32分55秒48と自己記録を更新。「ベストがようやく出せました。目標にしていた32分台は達成できましたが、チームを引っ張っていけるようもっといいタイムを出したいです」と向上心をもって話した。同大会の5000mでは、原田紗希選手(1年)も16分19秒34の自己ベストをマークしている。
7月下旬から8月末にかけては恒例の夏合宿を実施した。お盆休みの期間を挟み、前半は長野県・富士見高原でクロスカントリーコースなどを使った走り込み、後半は岐阜県・飛騨御嶽高原でより質を高めた実戦的なメニューがメイン。昨年までと同じ流れが踏襲され、各選手が自身の課題に向き合い、練習に取り組んだ。
練習以外の面も一層充実している。毎日の寮生活の食事は、昨年度までの名古屋学芸大学の南ゼミに代わり、今年度から同大学の福岡恩ゼミが献立の考案や調理を担当してサポートしてきた。夏合宿にも同行し、栄養を考慮したメニューを提供している。ゼミ生にとっても貴重な学びの場だ。
加えて、今春にスポンサー契約を結んだコメダ珈琲店を展開する株式会社コメダが、富士見高原合宿で「サプライズ」。キッチンカーを出して、昼食やドリンクをふるまった。選手たちもこれには喜色満面で、厳しい合宿中の貴重なリフレッシュの時間となった。
たくさんの支援を受け、充実した夏を過ごした選手たちは、いよいよ「勝負」の秋へ突入していった。
課題と収穫の見えた日本インカレ
9月9日から11日まで、京都・たけびしスタジアムで日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)が開催された。学生日本一を競うこの大会に、名城大学女子駅伝部からは1500m、5000m、10000mに3選手ずつが出場した。複数種目に出場可能な選手もいたが、1人1種目に限定。それでも、標準記録を破りながらも1種目3名の出場枠に入れなかった選手がいるほどで、例年以上に層の厚さが際立つ。
大会1日目の1500mにはルーキー3名が出場。明貝菜乃羽選手、柳樂あずみ選手、大河原萌花選手がそろって予選を着順で突破した。同日の決勝では柳樂選手が4分26秒95で7位、大河原選手が4分27秒63で8位とダブル入賞。明貝選手は4分29秒48で11位だった。
同じく初日の10000mでは高温多湿のコンディションのなか、1年生の原田選手が33分09秒65の自己新で殊勲の準優勝。原田選手は高校時代には全国高校駅伝の出場経験はあるものの、
個人での全国大会出場実績はなく「日本インカレに出られることがそもそもうれしいと思っていました。入賞を目標にしていましたが、2位という結果には自分が一番びっくりしています」と初の舞台での好成績を喜んだ。小林選手は33分32秒91で5位。「今年はケガや体調不良があって継続して練習ができている期間が短く、体力が落ちてしまっていたな、と感じました」と最後の日本インカレを振り返った。増渕選手は34分33秒29で、入賞まであと一歩の9位だった。
出場した9名のうち、入賞が6名、そのうち2名が表彰台に上ったというチーム全体の結果について、米田監督は「完璧とは言えませんが、良い材料と修正すべき部分の両方が見えた日本インカレだったと思います」と総括した。
その中でも5000m優勝の山本選手については「負けていられないというレースで、彼女の力からすれば予定通りだったとは思いますが、いい勝ち方をしてくれました」と高く評価した。
今年度の主将・小林選手はチームの成績について「『全員入賞』を目指していましたが、それには少し届きませんでした。日本体育大学さん(※1500m2位、5000m3位・4位など3種目で5つの入賞)と比べても上位入賞ができていなかったと思うので、一層気を引き締めたいと感じています」。駅伝シーズンでもライバルとなりそうな他大学の活躍に刺激を受けたようで、高いモチベーションを得る機会となった。
豊富な人材で区間配置のバリエーションも例年以上
これからいよいよ本格的な駅伝シーズンに向かっていく。目指すは5年連続となる「学生二大駅伝制覇」。その第一歩、6連覇を目指す全日本については、エントリー期日の9月末までに10名の選手が選ばれ、登録される。日本インカレで入賞した選手を中心に構成される予定だ。
今後は10月1日に新潟・デンカビッグスワンスタジアムで実施される日本グランプリシリーズ「Athletics Challenge Cup 2022」のグランプリ5000mに主力選手の多くが出場予定。10月6日~10日にカンセキスタジアムとちぎで行われる栃木国体の成年女子5000m(10日)に柳樂選手、小林選手、山本選手がエントリーしている。これらの競技会での結果や練習での様子で、駅伝での具体的な構想が固まっていくことになる。
1年時から駅伝皆勤の小林選手、山本選手は最上級生としてチームの中心となる存在で、駅伝でも重要な役割を担うことになるのはまず間違いない。小林選手は「最長区間の5区(9.2km)に挑戦したい気持ちはありますが、どこでも任せてもらえるような状態にして、区間賞を取りたいです」と活躍を誓う。山本選手は「全日本駅伝では2年前の2区(3.9km)で区間賞を逃し、悔しい経験もしました。最後の年に区間賞と区間新記録で走ることができれば、そういう気持ちも吹っ切れると思います」と集大成への意気込みを語る。
頼れる上級生の背中を追って、新人たちも駅伝メンバー入りへ向けて意識を高めている。先述のケガからの復調が期待される米澤選手は「(シーズン前半では)トラックの大会に出られなかった分、駅伝でしっかり走って、悔いなく今シーズンを終わりたいです」
と話し、高校時代(宮城・仙台育英高校)を過ごした仙台の地で勇姿を見せられるよう意気込んでいる。
今季1500mを中心に取り組んできた柳樂選手は、「長い距離に対応できるようにしたいです。これから距離も踏みつつ、ポイント練習でしっかり走れるようにすることを目指しています」。U20世界選手権後に体調を崩した時期があり、夏合宿でも高地への順応に時間を要したという。それも踏まえ、長い距離への対応を今後のテーマに掲げている。
一方、スピードを課題に挙げたのが原田選手。「私は5000mのタイムがまだまだ。10月に最低でも15分台、できれば15分50秒を切ることが目標です。同級生のみんなに負けないようにしたいです」とさらなる飛躍を目指す。駅伝では持ち味がより生きる長距離区間に起用される可能性がありそうだ。
日本インカレに出場した大河原選手、明貝選手や、石松愛朱加選手も、駅伝出場を目指して邁進する。石松選手はホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会(7月16日)で転倒し、右足首をねんざ。その後にケガは癒えていたものの、夏合宿の前半期はクロカンコースでの練習は避けるなど、米澤選手とともに別メニューで汗を流してきた。
成長著しい1年生に負けじと、2、3年生も気合十分。2年生の軸は谷本選手、3年生の中心は増渕選手だ。昨年、1年生ながら二大駅伝を経験した谷本選手は、「駅伝メンバーに入り、自分の走りをまっとうしてチームに貢献したい。そのためにも目の前のことに集中するのが大事だと思っています」と地に足をつけて日々を過ごしている。
1年時から学生駅伝出場を続けてきた増渕選手も「後輩は速いですが、今年は先輩として、私が優勝をたぐりよせるような走りがしたいです。大事な区間を任されたいという思いがあります」と意気込む。インカレでは惜しくも入賞を逃し、「このままではいけないという危機感を持っているはず」と米田監督もこの先に期待を寄せている。
米田監督は全日本大学女子駅伝に向けて、「これまでは、区間配置のパターンも1つか2つくらいでしたが、今年はいくつも考えられそうです」と各選手の持ち味を生かせる最適解を探っているそうだ。本番までの期間で、選手たちに望むことはコンディショニング。「最も恐れるべきなのは感染症や体調不良。気をゆるめず、本番で勝つために細心の注意を払って過ごしてほしい」と語る。その思いに応えるかのように、主将の小林選手も「駅伝は一人で走るものではないので、全員がベストな状態で臨むことが理想であり目標です」と話す。
学生女子駅伝の歴史に「名城大学」の名を刻むべく、残りの日々を大切に過ごしていく。