2020年度 薬剤耐性問題を総括 AMR臨床リファレンスセンターの4年間の取り組み
AMR臨床リファレンスセンターは、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づく取り組みを行う目的で 2017年4月に厚生労働省の委託事業として設立されました。薬剤耐性に関する情報を広く集め問題を分析し結果をわかりやすく示すこと、国民の皆さんと医療従事者の方々にAMR対策に必要な知識を伝えることが、AMR臨床リファレンスセンターの役割です。
当センターは、全国レベルの大規模な調査を行い、薬剤耐性の現状を数字として表してきました。4年目の2020年度には、今後のAMR対策を考える上で基礎となる現状を表し、薬剤耐性がどれほどの問題なのか、医師や一般国民は何にどう気を付けたらよいのか、浮き彫りにすることができました。ここでは各室の取り組みを紹介します。
薬剤耐性菌については未知の部分が多く、すべてを把握するのには時間がかかるかもしれません。難しい側面が多々ありますが、あきらめずに今後も調査を続けてまいります。
AMR臨床リファレンスセンター センター長
大曲 貴夫
●薬剤疫学室 :継続的な抗菌薬使用量のサーベイランスで現状を知り課題を抽出
●臨床疫学室 :J-SIPHEの公開で医療機関のAMR状況の把握とフィードバックで活用
●情報・教育支援室:一般の方へAMRをわかりやすく啓発、医療従事者へは教育資材の提供
薬剤疫学室の取り組み
薬剤疫学室では、日本の抗菌薬使用量を集計する仕組みを整備してきました。薬剤耐性(AMR)対策アクションプランができた2016年は、販売量による抗菌薬使用量サーベイランスが研究として行われているのみでした。しかし、現在は当室がそれを事業として引き継ぎ、年1回、継続的なサーベイランスを実施しています。販売量サーベイランスは3-4月には前年のデータが公開可能であるため、年次抗菌薬使用量の速報値として利用しています(図1)。
一方、保険診療情報(匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース:NDB)を利用したサーベイランスも2018年から公開しています。こちらは販売量サーベイランスよりも公開時期は遅れてしまいますが、実際に使用した抗菌薬の量がわかるため、販売量サーベイランスよりも値が正確であると考えられます。さらに販売量と異なり、抗菌薬をどのような患者に使用したかまでわかるため、より適正使用を推進するためのターゲットを明確にすることができます(例えば、図2であれば、15-64歳に投与された抗菌薬使用量は減少していないことが明らかです)。
当室では、今後もこのようなサーベイランスを続け、日本の抗菌薬使用量を経時的に追跡するとともに、適正使用のターゲットを明らかにしていきたいと思います。また、今後は、診療所に抗菌薬使用量をフィードバックできるような仕組みを作成したり、経年的な気道感染症への抗菌薬使用率を公開したりする計画も立てています。
臨床疫学室の取り組み
〇AMR対策を担う感染対策連携共通プラットフォーム“J-SIPHE”
(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology)を構築
臨床疫学室では、病院・高齢者施設におけるサーベイランス・プラットフォームを構築してきました。2019年1月、病院におけるAMR対策情報を包含したWebシステムJ-SIPHEを公開しました。データの登録は一部自動化されており、参加医療機関は、より効率よくデータを集計できます。登録後に可視化されたデータは、感染対策における重要な意思決定を促すことができます。
参加施設は全国で、711施設(加算1:504施設、加算2:99施設、加算なし:8施設)が参加しています。(2021年3月10日時点)項目は任意で登録が可能です。
本システムに蓄積されたデータは病院間で比較可能な数値として集計されるため、各利用施設だけでなく地域のAMR対策にも活用することができます。2020年10月6日、初年度のJ-SIPHE年報を公開し、本邦病院の感染対策および感染症診療の現状を把握し、ベンチマーク作成へ第一歩を踏み出しました。
・J-SIPHEの仕組み:地域での活用
J-SIPHEは診療報酬の感染防止対策加算で連携している病院(基本グループ)での活用を基本としています。
複数の基本グループの情報をまとめて地域全体の状況を知るために活用したり、独自のネットワークや関連病院による任意グループを作って情報共有と感染対策の向上に活用することができます。
情報・教育支援室の取り組み
情報・教育支援室では、一般市民・医療従事者を対象とした教育啓発活動を行ってきました。
一般市民向けにはウェブサイトやSNSを通じた情報提供に加え、薬剤耐性対策啓発月間(毎年11月)に合わせたキャンペーンを中心に行ってきました。
市民レベルでのAMR対策への理解は深まったのでしょうか。AMR臨床リファレンスセンターが行ったネット調査では、かぜやインフルエンザに抗菌薬は効果的ではないと理解している割合はこの4年間で大きくは変わりませんでした(図1)。一方で、薬剤耐性の原因についてわからないと回答した割合は徐々に下がり、抗菌薬の不必要な使用など正しい選択肢肢を選ぶ人が増えていました(図2)。これらの結果より、市民レベルでの意識が大きく変わるには至らないものの、徐々に理解が深まっているものと考えられます。
医療従事者向けには各種資材の提供、セミナーやeラーニングによる教育啓発活動などを行ってきました。抗菌薬使用量の変化などから、AMR対策が医療従事者の間に浸透しているものと考えられます。
当室では、これまでの活動を踏まえて教育啓発活動を継続し、AMR対策の認知度をより一層高めるとともに行動変容につなげていくための取り組みを続けて参ります。