[奈文研コラム]飛鳥資料館前庭の石造物

2024-12-13 17:00
写真1 前庭の須弥山石

一堂に会する飛鳥の石造物

 古代飛鳥は石の都ともいわれることがあります。酒船石(さかふねいし)などの石造物や、古墳・寺院などで多くの石材を用いたことが、飛鳥時代の特色の一つでしょう。

 飛鳥めぐりをすればいくつかの石造物や古墳などの実物を見ることができますが、点在する遺跡をつぶさに見てまわるのはたいへんです。また、高取城跡の猿石や出水(でみず)の酒船石のように遠くへ運び出されたり、見学の機会がほとんどなかったりするものもあります。飛鳥の石造物が博物館にまとめて展示されていたら便利なのに・・・と思いませんか?

 じつは、飛鳥資料館の前庭には移設した実物をはじめ、精巧な複製など、さまざまな飛鳥の石造物を展示しています。

 実物としては、酒船石の近傍で見つかったという車石(くるまいし)、奥山廃寺講堂の礎石、八釣マキト5号墳の石室があります。石材を用いた複製としては、須弥山石(しゅみせんせき)と石人像、亀形石槽、出水の酒船石、亀石、猿石などがあり、樹脂・擬石による複製は山田寺と法輪寺の塔心礎、酒船石などがあります。

須弥山石で古代の祭祀空間を体感

 前庭の須弥山石は4石を積み上げていますが、館内に展示している実物は3石しかありません。これは、実物3石では文様がつながらず、本来はもう1石あったと推定されることから、下から2石目を推定復元して4石の姿に再現したものです。塔のようにそびえる須弥山石は、古代の祭祀空間を体感できる前庭のシンボルとなっています。

猿石は両面が別の姿

 また、猿石は表と裏がまったくことなる二面の造形になっていることが重要な特徴ですが、現地に行っても実物の裏面は見えません。飛鳥資料館前庭の複製なら両面を観察できるので、ぜひ不思議な造形を確認していただきたいと思います。

写真2 猿石(男)の表面(左)と裏面(右)

石造物を石工の技で再現

 石材を用いた複製はすべて、石工の左野勝司さんによって製作されたものです。左野さんは、イースター島のモアイ像の修復をはじめ高松塚古墳石室解体など、数多くの文化財にも関わっておられます。飛鳥資料館前庭における石材を用いた複製の展示は、1980年代から少しずつ増やしてきました。近年では亀形石槽・二面石・高松塚古墳解体実験用石室が加わっています。複製は観覧に便利なだけでなく、「再現実験」の観点から、詳細に観察して製作することで新たな気づきがあったり、実物で失われた部分を補ったりすることもできます。

写真3 亀形石槽の製作(作業を行っているのは左野 勝司さん)

未来への継承

 最近では石工も減っているそうですが、手作業で石造物を製作する技術が継承されていくことを願っています。硬質の花崗岩で製作された石造物はとても頑丈なので、前庭の石造物はきっと1,000年後も形を保っていることでしょう。その時、飛鳥資料館はどうなっているでしょうか。

※本稿の脱稿後、石造物を製作した左野勝司さんは2024年7月に逝去されました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

(飛鳥資料館学芸室長 石橋 茂登)

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