「闇営業問題」で揺れた吉本興業。組織の問題解決は『明確化』がカギ

Goalousを使った『明確化』が問題の闇を照らす

2019-08-22 12:40

経済や社会の「時事問題」など幅広く扱う週刊誌を中心に活動するフリーランスライター、末並俊司氏が今回取り上げたのは、吉本興業やワタナベエンターテインメントに所属の芸人が、事務所を通さずに反社会勢力組織が関連するイベントや忘年会に出席し、ギャランティーを受け取っていたいわゆる「闇営業問題」。
雨上がり決死隊の宮迫博之氏と、ロンドンブーツ1号2号の田村亮氏が電撃的な記者会見を行ったおかげで事態は急展開し、ちょっとした社会現象を巻き起こした。日本の芸能界のひとつの側面をあぶり出してくれた今回の騒動から組織運営とはなにかを、弊社中村が語ります。

末並俊司
福岡県生まれ、日本大学芸術学部出身。
週刊誌を中心にフリーランスライターとして活躍。

吉本芸人たちの闇営業問題や、元ジャニーズ事務所所属の稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾を出演させないよう、民放テレビ局に圧力をかけたとして公正取引委員会が事務所に対して注意するなど、最近なにかと芸能事務所がらみの騒動が続いている。
どんな組織も人が人を管理するのだから、人の数だけ迷いや間違いはあはずだ。
そうしたものを乗り越えてこそ、生産性を追求する強い組織に成長する。

役職や部署など、組織のあらゆる階層を取り払い、プロジェクトごとにチームと個人が機能する“バリフラット”を導入することで、株式会社ISAO(以下ISAO)を高い競争力を持つ集団に成長させた同社代表の中村圭志さん。
ISAOは過去5年間で、倍の売上げを達成する会社に生まれ変わった。
『バリ(超)フラット(階層のない組織)』という大鉈をふるい、組織の問題を断ち切った中村さんに、吉本興業の組織運営の問題点を聞いた。

中村「まず組織的なことでいえば、吉本興業がすべて悪いとは言えないと思います。よしもと芸人と呼ばれる人は6千人いるとのこと。もしこれらすべての芸人さんとかっちりした契約を結んで、それぞれの生活を守らないといけないような取り決めをすると、運営が難しくなる実態があるのかも知れません。」

よしもと芸人といえば「売れないうちは居酒屋でアルバイト」が定番となっている。先輩芸人が経営する店で働いてチャンスをうかがっているという者も多い。そうした芸人同士の結びつきの強さも吉本興業の特徴といえる。

中村「自前の劇場を持ち、若手たちに舞台に立つチャンスを作り出す努力を惜しまない吉本興業のやり方は、お笑い業界のひとつの形を作り上げているのでしょう。そしてたぶん個人の直営業に関しても、暗黙の了解で許されていたのだと思います。そうした時代を下積みと呼び、よしもとの舞台に立ち続けて這い上がった芸人は多いのではないでしょうか。」

今回の騒動は、暗黙の了解と言われる部分に光が当たることで問題が大きくなったように思われる。

中村「暗黙を残さないために考えたいのが『明確化』です。明確にしないことには大きな問題があります。いちばんの罪は誰かの裁量や気分で、物事がその時々の状況で変わってしまうということ。誰かの裁量が入り込む余白を残すことでその誰かの利権が増す。世の中にはあえてグレーゾーンを残し、権力者の裁量任せにしている事例がたくさんあります。」

ストライクゾーンを明確に決めず、アンパイアの時々の気分でカウントされたのではたまったものではない。しかし、吉本興業はストライクゾーンをあえて曖昧にしておくことで、彼らの言う『家族的』な経営を実現してきた部分もありそうだ。
7月22日に行われた岡本昭彦社長の会見では、これが浮き彫りになったのは記憶に新しい。

同社の創始者、吉本せいの半生を描いたNHK朝の連続テレビ小説『わろてんか(2017年下半期)』はまさにそうした家族的な繋がりをドラマの軸に置いていた。しかし、時代は変わり、吉本興業自体も変わった。

中村「吉本興業がここ20〜30年、急激に大きくなり、関西だけではなく日本のお笑い産業として成長しました。現在の経営陣は会社と所属の芸人が共に大きく成長する時代のなかで生きてきた人たちです。今の吉本興業は、所属芸人のトップたちと経営陣がまさに家族のように繋がり合いながら成長させてきたのだと思います。ただ、その後に入ってきた数千人とは溝があったのかもしれません。」

その溝はどうやれば埋まるのだろうか、中村さんの言う『明確化』がヒントになりそうだ。

中村「組織運営で完全な正解はありません。結果的にみんなが納得して気持ちよくいられるのがニアリー正解かなと。多くの人が集まれば、全ての不満を解消することは不可能です。皆なにかしら『ちょっと違うな』と思っていることがある。そこをどれだけクリアにし、ある程度理解して、100%の満足じゃないかもしれないけど、納得できるような運営にしていく。この『正解に近づく努力』の根底に『明確化』があるのだと思います。」

明確化というキーワードは、中村さんがISAOの代表として、会社の舵取りを任されたときから常に意識されているものだという。

中村「かつてのISAOはみんなが納得している組織だったかというと、そうではなかったと思います。表面的には階層ごと、部署ごとの団結があるように見えてはいました。ただ、内側から見れば、働いている人、チームの中にいる人たちが、十分納得できる運営になっていなかったのです。うまくいかない理由を、他人や他部署のせいにするような空気も一部にはあった。それを納得できる状況にしましょう、ということでキーになったのが情報をオープンにしていくこと。つまり情報を明確化し、誰からも見えるようにするということでした。」

情報をオープンにすることで、なにが起こるのか、中村さんの説明はまさに「明確」だ。

中村「まず情報の定義です。究極をいえば全てということになるのですが、一般的に会社運営における情報は、財務情報や進行中の事業の内容。それが今どういうステイタスにあるのか、などです。また人事的なことであれば、誰がどれくらい給料をもらっているのかとか、誰がどういう評価を受けているのかとか。こうした情報を社内に公開するかしないか。たぶん吉本興業だけでなく、多くの会社ではやっていない。こういった情報をISAOでは全てを公開しています。」

隣の席の◯◯さんの給料、やっている仕事、その進捗状況……などなど。これらの情報を社内のスタッフ全員が知っているということだ。かなり大胆な発想と言えそうだが。

中村「情報をオープンにすると、それを知ったときに疑問が湧いてきます。そうした疑問が湧いたら誰にでも『どうしてこうなっているの?』と質問できるフラットな環境が大切です。そうでなければ、フラストレーションだけが溜まっていく。ですから情報のオープン化は、フラットな関係にしていくことを同時進行でやっていかなければなりません。」

そう言えば、中村さんの名刺に肩書は記載されていない。またスタッフの誰からも「中村さん」もしくは「圭志さん」と呼ばれている。「中村社長」と呼ぶ者はいない。こうした空気を彼はわざと作っているのだろう。

中村「聞かれた方はすべての質問に答えなければなりません。例えば、給料ってどうやって決まっているんだろうという根本的な質問にももちろん答える。ちなみにISAOでは、給料はその人自身の『役割』と、設定した『目標』。またそれに対して行っている『活動』。この掛け合わせがその人の価値であり、給料を決めるベースとなっています。こうした考え方もオープンにして明確化しています。」

こうした情報のオープン化、明確化を可能にしているのがコミュニケーション型目標達成サービス『Goalous(ゴーラス)』の存在だ。

中村「情報のオープン化は、僕がISAOに来た9年前から徐々に進めていきました。ただ、会社の情報をオープンにするだけでは不十分だと感じていました。
各社員が、事業を成功に導くためにどう活動しているのかを共有するプラットフォームが必要だと感じていました。そこで、海外のサービスを含め使えるものがないか探したのですが、こちらの要望に足るものはありませんでした。
どうしたらいいかと思ったのですが、よく考えてみれば、ISAOはITサービスをつくる会社だし、自分たちでつくればいいじゃないか、ということに気がつきました(笑)。我々が必要としているものは世の中にとって必要なものだろう、ということで、Goalousのプロダクトづくりが始まりました。以来ずっと試行錯誤を続けながらやっています。すでに有料サービスとしてリリースされていますが、今後もまだまだ進化し続けていきます。」

Goalousの顔写真のアイコンを備えた各々ページには、中村さんの言う『役割』『目標』『活動』という情報が公開されている。

中村「例えば給料の決め方の定義だけわかっていても、中が見えないと問題が起こります。Goalousを使って各々の情報を公開することで、全てが明確化されるのです。
繰り返しますが、こうした情報の公開には『関係のフラット化』が必須です。つまり『どうしてこうなっているんですか』と上下左右に質せる環境ですね。」

吉本興業の騒動は、トップに情報が集中し、各芸人にまで降りてこなかったことが問題を複雑にした。
ロンドンブーツ1号2号の田村亮は「社長に何度も謝罪会見させてくださいとお願いした」と涙ながらに語った。ところが吉本興業のトップは「全て会社仕切りでやるから」と情報を遮断したという。

中村「重要な情報を握っているトップが下す判断は、それなりに妥当である可能性が高いはずです。ただ、現場では判断できずに、常に役職が高い人が判断をしなければならない組織は、判断するスピードが圧倒的に遅くなる。また現場で判断した方が良い場面でも、結局トップに判断を仰がなければならないことで、間違った判断になることもあるでしょう。
フラットな組織は、スタッフ全員がそれぞれに判断しなければなりません。その判断の質には当然ばらつきも出るでしょう。
例えば、業務経験の浅いスタッフの判断は間違う可能性も高い。しかし、情報のオープン化が徹底していれば『そこ間違っていますよ』と、即座に誰かが指摘する。そうしたエコシステムが働くのです。」

吉本興業という組織がもし「情報の明確化」と「関係のフラット化」を整備できていれば、今回のような騒動はなかっただろう。
芸人の世界は「笑わせてなんぼ」の実力主義社会だ。これは極めてバリフラットな世界といえる。そんな芸人たちを会社という組織で縛るのは、そもそもの間違いなのかもしれない。
それよりGoalousのような組織内SNSで繋がり合い、情報を共有することでお互いに切磋琢磨しながら個人のゴール達成やスキルアップを目指したほうがストレスのない活動が実現できそうだ。

株式会社ISAOについて

東京・秋葉原にあるIT企業、株式会社ISAO(https://www.isao.co.jp/) 。 ”世界のシゴトをたのしくするビジョナリーカンパニー”を中長期ビジョンに掲げています。 日本初のバリフラットモデルを導入し、管理職0(ゼロ)、階層0(ナシ)、 チーム力∞(無限大)の組織運営をおこなっています。

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