[奈文研コラム]古代北方騎馬民族の彩色文化
2024-01-15 09:00
ユーラシア大陸の東北部に位置するモンゴルでは、古代から遊牧を生業とする騎馬民族が栄えました。その中で匈奴(きょうど)民族は、紀元前3世紀から紀元後1世紀頃までの約400年間(日本では弥生時代)勢力を維持し、中国北部にまで影響を及ぼす巨大な勢力として発展をとげました。遊牧民族は、頻繁な移動により一ヶ所に定住しないため、定住民に比べて安定した文化を保有することが難しいという認識が一般的です。これはある程度正しい部分もありますが、考古学と歴史学による調査の積み重ねにより、最近は遊牧民族が使っていた文化の実態が少しずつ明らかになってきました。ここでは古代の匈奴民族が備えた彩色美術文化についての最近の文化財科学の調査内容を簡単にご紹介しましょう。
今まで匈奴時代の遺跡で発見された遺物で、なんらかの彩色が施されたものは漆製品の食器類(図1)がほとんどでした。このような食器類は黒漆器に赤色で文様を施したもので、中国の秦(しん)(紀元前905~206)や漢(かん)(紀元前206~紀元後220)でも類似の遺物が確認されていることから、国家間の交流を示す重要な資料といえます。ここに使用された赤色顔料は蛍光X線分析(XRF)による元素分析とX線回折分析(XRD)による結晶構造分析の結果から、朱(しゅ)(HgS、いわゆる「水銀朱」)が使用されたことが明らかになりました。
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