企業の自主的規制の効果の一方で、 依然として残る課題と法の大きな抜け穴 ~最新のオンライン象牙取引実態調査報告書を発表~
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(所在地:東京都港区、会長:徳川 恒孝、以下 WWFジャパン)内の野生生物取引監視部門であるトラフィックは、2017年に調査を行ったインターネットでの象牙取引について、本年は調査範囲を拡げた上で、その後の変化を調査しました。その結果を、報告書『System Error, Reboot Required:日本におけるインターネットでの象牙取引』にまとめ、本日、公開いたしました。
◆ 2017年に象牙取引の自主的禁止措置を導入した楽天とメルカリのeコマースサイトでは、楽天市場の取扱い店舗が0店舗となり、メルカリの運営するCtoC(個人間)マーケットでも広告数が98%近く減少した。
◆ 国際的には、国内法で最低限求められている以上に厳格な自主的規制を導入している企業が多いのに対し、日本では法規制が不十分な中、問題のある取引を許容している企業が存在する。
◆ 規制の欠如したCtoC取引は、国際的な違法取引にも影響しかねない。企業による自主的禁止措置の導入および、日本政府によるインターネットでの象牙取引を実質的に禁止する手段の導入を提言する。
トラフィックは、2017年に楽天株式会社と株式会社メルカリが象牙を禁止商材とする自主的規制措置を取って以降、オンライン象牙取引の状況変化の把握を主な目的として、2018年6月~7月にかけて再調査を実施しました。本調査は、2017年に対象とした国内の主要なサイバーモール、オークション、CtoCサイトに加え、他のサイトや主要なSNSなどへも対象を拡げ、スクリーンショットによる出店・出品状況の分析と4週間のモニタリング調査を組み合わせて取引の状況を調べました。
調査の結果、楽天株式会社が運営するサイバーモール・楽天市場では、2017年6月時点で55店舗での販売(「本象牙」のキーワードで検索)が確認されたものが、今回はこれが完全になくなりました。また、株式会社メルカリが運営するCtoCサイト・メルカリでは、4週間のモニタリング期間に新たに広告された製品数が、2017年は573個だったのに対し、本年は13個へと98%近くの減少を示しました。これらの結果から、2社の象牙取引禁止方針が特に無規制に行なわれるCtoC取引を縮小させるという点で大きな効果を見せたといえます。一方で、関連するCtoC広告をより細かく慎重に調べたところ、隠れ広告や暗号・隠語を用いた偽造表現が見られ、象牙製品への根強い需要や監視における課題も確認されました。他方、ヤフー株式会社が運営するヤフーショッピングは「本象牙」のキーワードで確認できる店舗が54店舗(2017年調査時は58店舗)あり、また、ヤフオク!では4週間の落札総額が3,780万円で、象牙取引において依然として国内最大のオンライン取引市場であることがわかりました。さらに、国内法では全形牙を除く象牙製品の取引に合法性の証明が求められません。こうした合法性の証明が欠如した取引が、ヤフオク!の落札総額のうち88%、製品数にして4,400点以上に上りました。
国際的には、違法な野生生物取引に対して企業が役割と責任を担うべきと認識されています。GoogleやAmazonをはじめとする世界の多くのプラットフォームでは、各国内法令の遵守以上に、国際的な違法取引撲滅に向けた積極的な取り組みが多くなされており、楽天やメルカリもこれに続いています。一方で、日本では他の主要企業の取り組みが国内規制の求める最低限度にとどまっており、合法性の証明が欠如した製品の取引を相当量許容している状況となっています。
こうした結果をもとに、WWFジャパンは、日本政府が規制のないインターネット上のCtoC取引を実質的に禁止する手段を緊急に導入するとともに、取引の場を提供している企業については自主的禁止措置を早急に導入し、「野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた国際的な連合体(Global Coalition to End Wildlife Trafficking Online)」のもと、業界やNGOと連携して野生生物の違法取引撲滅のための強いコミットメントを国内外に示すことなどを提言します。また本日、この調査結果を受けて、25の国・地域のWWFが連名で、象牙取引において国内最大のオンライン取引市場を運営するヤフー株式会社に対して、象牙製品の取引停止を求める要望書を提出しています。
■添付資料:
・報告書『System Error, Reboot Required:日本におけるインターネットでの象牙取引』(14:00公開)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20180913_wildlife01.pdf