[奈文研コラム]風呂は風呂でも石の風呂
「サウナでととのう」という言葉を耳にしたことはありませんか?「ととのう」とは、2000年代以降のサウナブームとともに使われ始めた言葉で、銭湯などでサウナ(熱気浴や蒸気浴)と水風呂を交互に利用する「温冷交代浴」をおこなうことで得られる爽快感や恍惚感といった感覚を示す造語です。
さて、サウナブームよりもはるか以前から、日本にはサウナに入浴する文化があります。以前にコラム作寶樓で紹介した奈良時代の寺院の「浴室」や、有馬温泉にかつて存在した豊臣秀吉の別荘「湯山御殿」に設けられた蒸し風呂もそのひとつです。
これらの他にもサウナに該当するものでは、京都八瀬の窯風呂や瀬戸内海沿いの石風呂などがあります。今回はこのうち瀬戸内地域の石風呂についてお話しします。
『日本国語大辞典』によると、石風呂(いしぶろ)とは「蒸し風呂の一種で、岩穴をくり抜き、あるいは石で造った密室に蒸気をこもらせて、蒸気浴をするもの」とあります。石風呂は山陽地方や四国地方の瀬戸内海沿いで特に発達し、山陽地方では重源上人が広めたもの、また四国地方では空海上人が開いたものと伝わっており、起源を朝鮮半島や中国大陸に求めることもできます。実際に、朝鮮半島には「汗蒸幕」(ハンジユンマク)という石風呂と酷似した熱気浴施設があります。
それでは石風呂とはどのような構造の入浴施設なのでしょうか。今回は石を積んで築造する石風呂を例に説明します。石風呂そのものは土饅頭のような外観です【写真1】。熱気や蒸気を逃がさないように入り口を小さく造ります。平面は直径4~5mの円形もしくは方形で、切石をドーム状に高さ2m程度積み上げて築きます。石積みの壁は厚さ50cmほどもあり、すき間や外壁を粘土で塗り籠めて気密性や保温性を高めています。内部の床は石敷や土間床を基本とし、内部の壁面は石積みをそのまま露出するものや、粘土や漆喰などで塗り籠めるものもあります。