社会において協力行動が安定的に維持されるには、 応報主義と博愛主義の連携が重要であることを 理論的に示しました

ーイギリスの学術誌 Scientific Reports(Nature社)に論文として公開ー

2017-08-31 15:00

創価大学(東京都八王子市)経営学部の岡田勇准教授は、ウィーン大学の佐々木達矢研究員(当時)と芝浦工業大学の中井豊教授と共同して研究を行い、その成果は2017年8月29日にイギリスの学術誌 Scientific Reports(Nature社)に論文として公開されました。

目には目を歯には歯を、という応報主義は、無条件に他者に貢献するという博愛主義とともに、古来より人間社会の行動規範として広く知られてきました。しかし、これまでの研究では、応報主義こそが重要であり、博愛主義は悪を利することになるため、むしろ抑制すべきであるという知見が主流を占めていました。しかし、ほとんどの研究が前提としていた非現実的な制約を外して分析した結果、応報主義は博愛主義と連帯することで協力的な社会が安定的に維持されることを発見しました。

Scientific Reportsの論文全文(英語)はこちら

1.協力の進化:学問的挑戦

人間はなぜ見知らぬ人々に貢献しようとするのでしょうか。余計なおせっかいと知りつつ損をしてまで他者のために親切にふるまうのはなぜなのでしょう。善人にとっては当たり前の行動も、学問の光を通してみると不可解な現象となります。なぜなら、合理的な判断に基づけば、損をしてまで協力をすることは非合理的な逸脱行動だからです。

もし協力行動を説明する合理的なメカニズムが明らかになると現代社会が抱えている大きな難問に対し処方箋を提示することが可能になります。例えば、環境問題の解決が叫ばれていますが、どうしたら人々が環境にやさしい行動をとるようになるのでしょうか。例えば、国家間の紛争が激化すると軍拡競争に陥りますが、どうしたら協力的な外交へ転換することができるのでしょうか。「協力の進化」研究はこういった問題の解決に直結しています。

2.これまでの研究の問題点

これまで「協力の進化」研究では、実際に人間がどのような行動をするのかといった心理学的実験や、他の生物の協力行動を観察するフィールド調査などが行われてました。その中で、経済学で開発されてきたゲーム理論の枠組みを使ったアプローチでは、自分が最も得をするように行動するという合理的な人間を想定し、数学を用いて分析します。このアプローチでは数学的に解くためいくつかの制約が課せられます。その中には非現実的な制約も少なくなく、そのことでしばしば「経済学が考えている人間は現実には存在しない」などと批判されることも少なくありませんでした。

このような制約の一つに「公的観察仮定」があります。これは、どんな人のどんな行動も直ちに全員に伝えられるという状況を意味しており、このような強い制約は非現実的でありながら、なかなか緩めることのできない仮定となっていました。この制約を外した「私的観察仮定」とは、行為はそもそも目撃されたりされなかったりするものという現実的な状況を表しており、より自然な状況を表現しています。私的観察仮定の分析は、考慮すべき変数が莫大で、これまで特殊なケースしか分析することができず、体系的な検討が行われてきませんでした。

3.応報主義と博愛主義の連帯が重要

今回、研究チームは、コンピュータシミュレーションを用いて進化ゲーム理論の問題を解くという方法で、私的観察仮定のモデルを分析することに成功しました。分析の結果、これまで知られていた協力を達成する応報規範は、それ単独では協力社会を維持することはできず、無条件で協力する博愛規範と連帯することではじめて協力社会を維持することができることが明らかになりました。さらに、規範の連帯による社会は、それまでの応報規範単独による社会よりも協力的であり、優れた社会であることも示すことができました。

これまで、博愛主義は悪を助長させるものとして理論家からは排除すべき対象だったのですが、それは公的観察という非現実的な制約を前提とした議論であったことになります。本研究によって、応報主義と博愛主義は、社会の安定的で頑健な協力行動の維持のために、互いに連帯することが重要であると理論的に明らかになりました。「善と正義の連帯」は単に道徳的な意味を持つだけでなく、学問的な見地からもその重要性が示されたことになります。

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