【岡山理科大学】散歩しながらリハビリ治療も可能な車いすを!【いきものQOL #6】

獣工の連携#6

2024-02-02 11:20

岡山理科大学では動物たちにやさしい医療や動物たちの健康づくりに向けて、獣医学部と情報理工学部の工学分野が共同で、デバイス開発に取り組んでいます。総合大学の強みを生かし、学部の枠を超えた“獣工連携”による獣医療の新しいスタイルです。動物たちのQOL(Quality of Life=生活の質)向上は、ヒトのQOLにもつながります。動物とヒトの豊かな生活実現をめざす「いきものQOL」の研究現場を、シリーズでレポートします。


重度脊髄損傷の歩行回復率は50~60%

 けがや椎間板ヘルニアなどで重度の脊髄損傷を負ったペットの介護は大変です。その症状は、椎間板ヘルニアを例に挙げると、軽い方からグレード1~5まで5段階ありますが、最も重いグレード5は後肢が麻痺した状態です。治療による歩行回復率が1~4では90~95%とされるのに対し、5では50~60%にまで下がります。そうなると、自力で排便・排尿ができないので、日常生活に支障をきたすうえ、リハビリ等治療を目的に動物病院に通院する事になり、精神的にも経済的にも負担がのしかかります。散歩などで移動するには車いすが欠かせなくなります。
 「移動に使う車いすをリハビリに活かせないか」。こんな想いを寄せているのが獣医学科の糸井崇将助教です。専門は神経科。後肢に刺激を与えることで機能回復を促したというケースを知り、「車いすに乗って前肢と同じように、麻痺した後肢が動くようにして刺激を与えれば歩行回復率が上がるはず」。散歩とリハビリが同時に行える新しいデバイスです。糸井助教は早速、“獣工連携”している情報理工学部の赤木徹也教授、趙菲菲准教授に相談しました。

SLの駆動輪を参考に「遊星歯車機構」を組み込んだ装置を考案

 この要望を受けて、赤木教授らがまず考えたのは蒸気機関車(SL)の駆動輪の動きが参考にならないか、ということでした。車輪と後肢のステップ部分をロッドでつなぎ、クランク機構で動かす。ただ、そのままつないだのでは後肢部分が遅過ぎる。速度変換のためのギヤボックスを装着すればスペースも必要で、重量が増してしまう。何かいい手はないか――。
 そこで思いついたのが、モーターのトルク(回転する力)を大きくするのに使う「遊星歯車」でした。これは太陽歯車を中心として複数の遊星歯車を組み合わせた機構です。「これならスペースも取らないし、重量も軽減できる」。趙研究室の可部研輔さん(工学プロジェクトコース4年)が後肢を乗せるパーツの設計や遊星歯車機構の加工、蒋承峻さん(知能機械工学科4年)が遊星歯車機構の設計を担当。半年がかりで仕上げた試作機「イヌ歩行機能改善リハビリデバイス」を昨年12月、岡山キャンパスから今治キャンパスに持ち込みました。

「リハビリ機器で重症犬の介護からの脱却」めざす

 ところが、大学で飼育しているイヌに装着してみると、サイズが違ったうえ、イヌはなかなか思う通りには動いてくれません。「想定とは違いました。生き物と機械はやはり違います」と可部さん。趙准教授は「制御と調整はまだこれからです。前肢の歩容に合わせて後肢も動かす仕組みを工夫しないといけない。フレームの強度の問題もあります」と改善点を指摘。可部さんは「できるだけイヌに負担がかからない構造をめざしたい」と意気込み、「自分が作ったデバイスが、イヌにとっても飼い主の方にとっても役立つかもしれないと考えると、やって良かったと思います」と晴れやかな表情で話します。
 一方の糸井助教は「まだ途中段階なのに、この状態まで出来ているのはすごく期待できると思っています。リハビリというものが、治療の補助的な役割に収まるのではなく、他の治療方法と同列の治療方法に昇華できるじゃないかと期待しています」と目を輝かせます。
 続けて、「ヒトと同様にペットにも高齢化社会があります。ヒトもペットも介護となると大変です。このリハビリ機器で脊髄の回復に寄与できれば、介護の部分から脱却でき、一筋の光明になるはず」と力を込め、「ペットのフレイルも含めて、高齢化社会に対して我々獣医師に何ができるのか、という点で一石を投じられればいいと思っています。この新しいリハビリデバイスが、文字通り飼い主とペットの“支え”となってくれたら」と将来像を描きます。
 岡山、今治両キャンパスの連携で、獣医療の新たなフィールドにまた一歩踏み出しました。

完成した「イヌ歩行機能改善リハビリデバイス」の試作機
実習犬に試作機を装着する可部さん(左)と糸井助教(中央)
完成形をめざしてデバイスの製作に取り組む(左から)可部さん、趙准教授
遊星歯車機構の設計を担当している蒋さん
「リハビリを治療方法の一つに」と意欲を燃やす糸井助教(左)

QOL Quality of Life(クオリティー・オブ・ライフ)の略で、本来は人間らしく生き生きと暮らしているかどうかを示す「生活の質」「生命の質」を示します。もともとは医療分野の末期がん患者などの終末期ケアの現場で、快適さなどを取り戻そうとして広がった試みです。福祉や介護の現場にも広がり、最近ではペットについても注目されています。

関連リンク

いきものQOL#5はこちら
https://newscast.jp/news/2640647

獣医学部
https://www.ous.ac.jp/department/veterinary/

情報理工学部
https://www.ous.ac.jp/department/info/

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