脂肪性肝疾患における大腸癌リスクに関する国際共同研究成果を発表 「Clinical Gastroenterology and Hepatology」誌に掲載
国立大学法人信州大学は、脂肪性肝疾患における大腸癌リスクに関する国際共同研究成果を発表し、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」誌に掲載されたことをお知らせします。
研究成果のポイント
● 脂肪性肝疾患(Steatotic Liver Disease, SLD)は日本国内での有病率が20~30%と推定されており、アルコール摂取やメタボリック症候群に伴う代謝異常を背景に発症します。
● 肝疾患を有しない対照群と比較した場合、アルコール関連肝疾患(ALD)患者は大腸癌のリスクが最も高く、発症リスクが比較群の1.73倍であることが明らかになりました。
● 代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)の患者では1.36倍、代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)の患者では1.28倍のリスク上昇が認められました。
● 本研究は信州大学、武蔵野赤十字病院、そしてUniversity of California, San Diego (UCSD)が共同で実施した国際共同研究です。
概要
脂肪性肝疾患(Steatotic Liver Disease, SLD)は、2023年の国際的な提言により分類基準が改訂され、新しい名称と分類が採用されました。これにより、従来の「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」という概念は、以下のように再定義されました。
● アルコール関連肝疾患(ALD):過剰なアルコール摂取(女性 日本酒2.5合/日以上、男性 3合/日以上)による脂肪肝
● 代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD):中等量のアルコール摂取(女性 日本酒1~2.5合/日、男性 1.5~3合/日)と代謝異常が重複する脂肪肝
● 代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD):代謝異常に起因する脂肪肝
SLDは、肝硬変や肝細胞癌だけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患、さらに肝外悪性腫瘍発生のリスク因子でもあります。
本研究では、改訂されたSLD分類基準を用いて、それぞれのサブタイプにおける大腸癌リスクを全国規模のコホート(638万人)を対象に評価しました。解析は、脂肪肝を有しない群を基準として実施し、年齢、性別、生活習慣、糖尿病などの交絡因子を調整したうえで、発症リスクの上昇度を調整ハザード比(adjusted Hazard Ratio:aHR)として算出しました。
主要結果
● ALD患者の大腸癌発症リスクは、対照群と比較して1.73倍高いことが明らかになりました。
● MetALD患者ではリスクが1.36倍、MASLD患者では1.28倍高くなっていました。
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今後の展望
SLD患者、特に飲酒量が多いALD患者を対象とした大腸癌スクリーニングプログラムの強化が重要です。さらに、MetALDやMASLD患者に対する予防策の確立にも取り組む必要があります。SLD分類の適用拡大により、世界的な癌予防戦略への貢献が期待されます。
論文タイトルと掲載誌
タイトル:Colorectal Cancer Incidence in Steatotic Liver Disease
(MASLD, MetALD, and ALD)
掲載誌 :Clinical Gastroenterology and Hepatology
DOI :10.1016/j.cgh.2024.12.018
https://doi.org/10.1016/j.cgh.2024.12.018