トウガラシのベゴモウイルス抵抗性に関わる遺伝子領域を特定 農作物のウイルス病被害と農薬過剰投与の低減に期待

2022-02-01 14:00
トウガラシ(Capsicum chinense)に見られるベゴモウイルス抵抗性の違い(A)ベゴモウイルス感受性トウガラシHabaneroでは病気による症状がひどい(B)抵抗性トウガラシGR1では症状が軽い(DSIは病気による症状の程度を示し、数字が大きいほど症状が強く出ていることを示す。)

トウガラシ(Capsicum chinense)に見られるベゴモウイルス抵抗性の違い(A)ベゴモウイルス感受性トウガラシHabaneroでは病気による症状がひどい(B)抵抗性トウガラシGR1では症状が軽い(DSIは病気による症状の程度を示し、数字が大きいほど症状が強く出ていることを示す。)

近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)博士前期課程2年 森 菜美子、准教授 小枝 壮太らの研究グループは、トウガラシのベゴモウイルス※1 抵抗性に関わる遺伝子領域を新たに2つ特定しました。
現在、ベゴモウイルスには445もの種類があり、トウガラシ、トマト、キュウリ、メロン、カボチャ、ズッキーニ、オクラ、マメ類など多くの農産物が、このウイルスに感染すると果実をほとんど収穫できなくなるなど、農業生産において世界的な脅威となっています。同研究チームは、令和3年(2021年)にトウガラシにおいて世界で初めてベゴモウイルス抵抗性遺伝子を特定しましたが、今回の研究ではそれとは異なる2つの新たな抵抗性に関わる遺伝子領域を発見しました。本研究成果をもとに、今後の品種改良によって、トウガラシ生産におけるウイルス病の被害が軽減でき、農薬の過剰投与も抑制できると期待されます。
本研究に関する論文が、令和4年(2022年)2月1日(火)に植物育種学分野の国際学術誌"Euphytica"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●トウガラシにおいてベゴモウイルス抵抗性に関わる新たな二つの遺伝子領域を特定
●トウガラシを含む様々な農作物における抵抗性品種の品種改良に繋がる成果
●世界的に問題になっているウイルス病被害と過剰農薬投与の低減へ期待

【本件の背景】
ベゴモウイルスは、農業生産において世界中で甚大な経済的被害を引き起こしています。ウイルスの感染は、タバココナジラミとよばれる昆虫により媒介されるため、生産現場では殺虫剤の散布によって対策してきました。しかし、過剰な農薬の使用により、現在では農薬が十分に効かないタバココナジラミが世界各地で発生しています。1990年代には、トマトに黄化葉巻病を引き起こすベゴモウイルスが、イスラエルから日本、欧州、北米へ同時多発的に侵入し、生産農家を苦しめてきました。
世界的な研究の推進により、トマトではベゴモウイルス抵抗性遺伝子が植物で唯一特定され、ウイルス抵抗性品種の育種も進んできましたが、他の植物では抵抗性遺伝子が特定できていませんでした。そこで研究チームは、特に被害の大きいピーマン、パプリカ、シシトウなどを含むトウガラシ属の植物について研究し、令和3年(2021年)に世界で初めて抵抗性遺伝子を特定しました。現在、より優れた抵抗性品種の開発を目的として、新たな抵抗性遺伝子を特定する試みを続けており、今回の遺伝子領域の発見につながりました。

【本件の内容】
本研究では、東南アジアでトウガラシの生産に大きな被害を与えているベゴモウイルスに対して抵抗性を示すトウガラシ(Capsicum chinense)を発見しました。さらに、このトウガラシのベゴモウイルス抵抗性を遺伝子レベルで解析することで、抵抗性に関わる新たな遺伝子領域を特定しました。今後、遺伝子領域のなかにある数百の遺伝子から抵抗性に関わる遺伝子を特定する研究を進めていく予定です。

【論文掲載】
掲載誌 :Euphytica(インパクトファクター:1.895/2020-2021)
論文名 :
Identification of QTLs conferring resistance to begomovirus isolate of PepYLCIV in Capsicum chinense
(トウガラシにベゴモウイルスPepYLCIVに対する抵抗性を付与する量的形質遺伝子座の特定)
著者名 :
森 菜美子1、長谷川 翔太2、瀧本 涼太2、堀内 亮2、渡邉 智帆2、鬼﨑 大樹2、白銀 隼人3、永野 惇4,5、Elly Kesumawati6、小枝 壮太1,2
所  属:
1 近畿大学大学院農学研究科、2 近畿大学農学部、3 タキイ種苗株式会社、4 慶應義塾大学先端生命科学研究所、5 龍谷大学農学部、6 インドネシア国立シアクアラ大学農学部
論文掲載:https://doi.org/10.1007/s10681-022-02970-9
DOI  :10.1007/s10681-022-02970-9

【本件の詳細】
ベゴモウイルス抵抗性のトウガラシ(Capsicum chinense)GR1と、ベゴモウイルス感受性のHabaneroから作成した交雑F2集団を用いて、RAD-seq解析※2 による連鎖解析※3 を行ったところ、トウガラシの第4染色体と第11染色体に抵抗性に関わる遺伝子領域を特定しました。さらに、交雑F3集団を用いて、QTL-seq解析※4 による連鎖解析を行ったところ、第3染色体と第11染色体に抵抗性に関わる遺伝子領域を特定しました。特定された遺伝子領域に、抵抗性に関わる遺伝子が存在する可能性が世界で初めて明らかになりました。

ベゴモウイルス抵抗性のGR1と、感受性のHabaneroの交雑F2集団を用いた連鎖解析で、第4染色体と第11染色体に抵抗性に関わる遺伝子領域を検出 縦軸:LOD※5 横軸:Chromosome(染色体)

ベゴモウイルス抵抗性のGR1と、感受性のHabaneroの交雑F2集団を用いた連鎖解析で、第4染色体と第11染色体に抵抗性に関わる遺伝子領域を検出 縦軸:LOD※5 横軸:Chromosome(染色体)

【今後の展開】
今後さらなる研究の継続により、今回発見した遺伝子領域のなかから新たな抵抗性遺伝子が特定できることが期待されます。また、抵抗性遺伝子を特定することで、これまでに研究チームが特定した別のトウガラシの抵抗性遺伝子と組み合わせることにより、より安定した強い抵抗性を発揮する品種が作れる可能性があります。トウガラシを含む様々な園芸作物(ナス、キュウリ、メロンなど)における新たな抵抗性遺伝子の探索も継続し、より強いウイルス抵抗性品種の開発に向けた研究を進めていきます。

【研究支援】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B(19H02950)、国際共同研究強化(B)(21KK0109)および日本とインドネシアの二国間交流事業(研究代表者:小枝 壮太)の支援を受けて実施しました。

【用語解説】
※1 ベゴモウイルス:一本鎖環状DNAをゲノムに持つウイルスで、世界各地での農業生産に大きな経済的被害を与えているウイルス属。

※2 RAD-seq解析:制限酵素で切断したゲノムDNAの末端にアダプターを付加し、その塩基配列を高速シーケンサーで読み取ることにより、ゲノム全域にわたる遺伝子変異を分析する技術。

※3 連鎖解析:生物が持つ特徴とDNAの塩基の違いを調べ、その相関関係から特徴を決めているDNAの塩基を絞り込む手法。

※4 QTL-seq解析:高速シークエンサーを用いた全ゲノム解析により、有用遺伝子領域を迅速に同定する手法。

※5 LOD:対数オッズスコア。抵抗性遺伝子と連鎖していると仮定した場合の尤度と、連鎖していないと仮定した場合の尤度の比の常用対数を取ったもの。LOD値が高いほど、そこに抵抗性に関わる遺伝子がある可能性が高いと考えられる。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 准教授 小枝 壮太(コエダ ソウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1360-koeda-sota.html

農学研究科
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

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