悪性度の高い前立腺がんを診断する新たな高感度測定法を確立 患者負担を少なく、短時間で効率的ながんの検出を可能に

上皮がん細胞
上皮がん細胞

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)泌尿器科学教室准教授の藤田 和利らの研究チームは、大阪大学大学院医学系研究科(大阪府吹田市)との共同研究により、前立腺の上皮細胞から分泌される腫瘍マーカー「血中コア型フコシル化PSA」※1 を測定するシステムによって、高悪性度前立腺がんを診断する方法を確立しました。本研究成果によって、従来の検査では1時間を要していたものを9分に短縮し、かつ高感度の測定が可能となり、不要な生体検査(生検)をなくした効率的ながんの検出が実現します。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)2月18日(木)(日本時間)に、がんの臨床研究を主に掲載する医学雑誌"International Journal of Cancer"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●従来測定できなかった血中コア型フコシル化PSAを、短時間かつ高感度にて測定
●高悪性度前立腺がんでは、フコシル化PSA指標※2 が有意に上昇することを発見
●従来のPSA検査と共に行うことにより、高悪性度前立腺がんを効率的に検出可能に

【本研究の背景】
前立腺がんは、近年高齢化とともに発症数が増加し、国内では男性で最も多いがんと言われており、年間約9万1千人が発症、その種類は、悪性度の低いがんから高いがんまであり、「どのくらい進行しているのか」(進行度)と「どのくらい悪性であるか」(悪性度)によって分類され、5割程度が中高悪性度であると言われています。
悪性度の低いがんに対しては、がんと診断されても治療を行わずに経過観察をすることがある一方で、悪性度が高い場合は、転移がなければ手術(ロボット支援前立腺全摘除術)や放射線治療が行われ、転移があればホルモン療法などが選択されます。ゆえに、治療方法を決める際には、進行度だけでなく、この悪性度を正しく診断することが非常に重要となります。しかし広く行われているPSA検査は悪性度と関連がないため、治療が不要な人まで異常値を示してしまい、不必要な検査が行われ問題となっています。

【本研究の内容】
従来のPSA検査は、前立腺がんの早期診断法として広く行われ、異常値を示した場合、前立腺生検が行われて前立腺がんが確定診断されます。
前立腺生検は、通常12カ所、肛門もしくは会陰部から針を刺して採取するため、患者には疼痛、出血を伴い、感染のリスクが生じます。また、血中PSAは前立腺炎や前立腺肥大症でも上昇するため、癌でない場合も上昇することが問題となっていました。さらに、生命に支障のない低悪性度の前立腺がんまで診断してしまうこともあり、過剰診断、過剰治療も問題となっています。そのため、治療を必要とする悪性度の高い前立腺がんを検出できる新規のバイオマーカーが必要とされていました。
研究チームは、高悪性度前立腺がんでは、フコシル化PSA指標が有意に上昇し、バイオマーカーとなり得ることを発見しました。さらに血中コア型フコシル化PSAをマイクロキャピラリー電気泳動による測定システムを構築し、高悪性度前立腺がんを診断する方法を確立しました。
今回の測定システムの活用により、悪性度の高い前立腺がんを効率的に検出でき、不要な生検を減らすことが期待できます。近畿大学病院においては、本検査の適用を目指し臨床試験を開始すべく準備を進めています。

【論文掲載】
掲載誌 :
International Journal of Cancer
(インパクトファクター:5.145@2019)
論文名 :
Serum core-type fucosylated PSA index for the detection of high-risk prostate cancer
(血中コア型フコシル化PSA indexによる高リスク前立腺癌検出)
著  者:藤田 和利1,2、
     波多野 浩二2、
     冨山 栄介2、
     林裕 次郎2、
     松下 慎2、
     土屋 睦美2、
     吉川 友康3、
     伊達 睦廣3、
     三善 英知4、
     野々村 祝夫2
責任著者:藤田 和利
所  属:1 近畿大学医学部泌尿器科学教室
     2 大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(泌尿器科)
     3 富士フイルム和光純薬(株)臨床検査薬研究所
     4 大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻機能診断科学講座

【本件の詳細】
血中のコア型フコシル化PSAにおけるフコシル化とは、がんおよび炎症における重要な糖鎖修飾※3 の一つであり、フコースという糖の一種が付く部位によって「コア型」「Lewis型」「H型」の3種類が存在します。
研究チームは、これまでに質量分析による血清タンパクの糖鎖構造解析を行い、前立腺がん患者では他のがん種と異なり、フコースが糖鎖の根元につくコア型フコシル化が優位であり、悪性度の指標となるグリソンスコア※4 と関連していることを報告してきました。
※ 論文名:
高グリソン前立腺癌を予測する予後バイオマーカーとしての血清中フコシル化ハプトグロビン(平成26年(2014年)5月)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pros.22824
※ 論文名:
様々な種類の癌患者の血清中のハプトグロビンのフコシル化Nグリカンの構造解析:癌の鑑別診断の可能性(平成28年(2016年)6月)https://link.springer.com/article/10.1007/s10719-016-9653-7
今回の研究では、血中コア型フコシル化PSAに着目し、高悪性度前立腺がんのバイオマーカーとしての有用性を検討しました。
252人のPSA高値で前立腺生検を受けた患者の血清を用いて調べたところ、血中コア型フコシル化PSAとPSA値から得られるフコシル化PSA指標は、がんの悪性度の指標となるグリソンスコアと有意に関連していました。診断能力は、従来のPSA検査よりも性能が良く、90%の高悪性度前立腺がんを検出することができ、36%の不要な前立腺生検を回避することができました。血中コア型フコシル化PSA検査を従来のPSA検査と共に行うことにより、高悪性度前立腺がんの効率的検出に繋がり、患者負担の高い不要な生検を減らすことを実現します。

【用語解説】
※1 血中コア型フコシル化PSA(Prostate-Specific Antigen)(前立腺特異抗原)
PSAは前立腺癌細胞、正常前立腺細胞で産生され、前立腺癌になると血中で高値を示しますが、前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇します。また従来の血中PSAは悪性度とは関連しません。血中にはタンパクと結合したPSAと遊離したフリーPSAがあり、フリーPSAの糖鎖にコア型フコシル化したものをコア型フコシル化フリーPSAと呼びます。
※2 フコシル化PSA指標
血清PSA値をコア型フコシル化していないフリーPSAの比率で割ったもの。
※3 糖鎖修飾
糖鎖とは10種類以上の様々な糖が鎖のように繋がったもので、その形や種類によって様々な生理的作用がおこります。
※4 グリソンスコア
前立腺針生検で採取した組織を顕微鏡で検査し、がんの悪性度を判断する際、悪性度を判断するのに用いられる評価指標。

【関連リンク】
医学部 医学科 准教授 藤田 和利(フジタ カズトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2406-fujita-kazutoshi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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