生物の種の壁を乗り越えたミトコンドリアDNAの移入を確認 人為的な生物の移動が遺伝子レベルで進化に影響

愛媛県久万高原町で定着しているカラドジョウ
愛媛県久万高原町で定着しているカラドジョウ

近畿大学農学部(奈良県奈良市)環境管理学科研究員の岡田 龍也と准教授の北川 忠生は、愛媛県水産研究センター(愛媛県宇和島市)の清水 孝昭博士と共同で、愛媛県の久万高原町で定着している外来種のカラドジョウの一部個体が、2つの異なる近縁種のドジョウを経て二次的に遺伝子移入したミトコンドリアDNA※1 を持つことを明らかにしました。このミトコンドリアDNAは現在生息する地域のドジョウのものではなく、遠くはなれた台湾やオーストラリアのドジョウのものと近いことも分りました。
これは、二次的遺伝子移入が輸送や養殖の過程でもたらされたことを意味しており、人為的な生物の移動が遺伝子レベルで自然界の生物の進化に重大な影響を与えることを示しています。
本研究に関する論文が、令和2年(2020年)8月3日(月)に、魚類学の国際誌“Journal of Applied Ichthyology”に掲載されました。

【本件のポイント】
●外来種のカラドジョウの一部でみつかったミトコンドリアDNAは、シマドジョウの仲間からドジョウを経てカラドジョウに二次的に移入したものであることを確認した
●ミトコンドリアDNAが種の壁を乗り越えて移入すること自体がまれであるが、このように2種にまたがり移入したミトコンドリアDNAの確認は、脊椎動物ではいままで報告がない
●この特異なミトコンドリアDNA移入現象は輸送や養殖などを要因とすることが考えられ、人為的な生物の移動が生物の進化にまで影響していることを示した

【本件の内容】
ミトコンドリアは、真核生物※2 の進化の過程で細胞内に寄生した原核生物※3 に由来する細胞小器官であり、その名残として、生物種そのものの情報が含まれている核のDNAとは別に、母系遺伝する独自のミトコンドリアDNA(mtDNA)を持っています。そのため、mtDNAは異なる生物種の間での交雑を経て、核DNAには痕跡を残すことなく生物種に移入するmtDNA遺伝子移入という現象がまれに生じることがあります。
コイ目ドジョウ科の淡水魚であるカラドジョウは、アジア大陸の東部に分布し、日本の水田や水路などでみられるドジョウと近縁な純淡水魚です。日本では外来種であり、1960年代に食用に輸入された中国産のドジョウに混入して侵入し、現在では日本各地に定着しています。
本研究では、愛媛県の久万高原町で定着しているカラドジョウについて調査した結果、一部の個体が近縁種のドジョウから種の壁を乗り越えて移入したmtDNAを持っていることを明らかにしました。また、このカラドジョウに移入したドジョウのmtDNA自体が、過去に近縁な別種(シマドジョウの祖先種)から種を乗り越えて移入したものであり、2つの異なる種を乗り越えて移入してきたものであることが確認されました。脊椎動物ではまれにmtDNAが異種間交雑をきっかけとして別の種に移入する現象は報告されてきましたが、今回のように一度別の種に移入したmtDNAが、さらに別の種に移入した二次的遺伝子移入はきわめてまれな現象といえます。さらに、カラドジョウに移入したこのmtDNAは、現在生息する地域のドジョウではなく、遠く離れた台湾やオーストラリアのドジョウのものと近縁であることも分りました。
このことは、ドジョウからカラドジョウへのmtDNAの二次的遺伝子移入が、輸送や水産養殖などの人為的影響による交雑を介して発生したことが示唆されます。生物の移殖などによって、本来出会うことがない種や集団同士が出会い、不自然な進化を引き起こして遺伝子レベルでの撹乱が引き起こされているという事実は、他地域からの生物の移動に対して警鐘をならす結果であるとも言えます。

mtDNAの二次的遺伝子移入
mtDNAの二次的遺伝子移入

【論文掲載】
雑誌名 :魚類学の国際誌“Journal of Applied Ichthyology”
     (インパクトファクター:0.910 2019-2020)
論文名 :Evidence of a secondary interspecific mitochondrial DNA introgression
     in the pond loach Misgurnus dabryanus (Teleostei: Cobitidae)
     population introduced in Japan
     (日本に移入されたカラドジョウMisgurnus dabryanus(ドジョウ科)
      がもつミトコンドリアDNAの二次的な種間移入の証拠)
著者名 :岡田 龍也(1)、清水 孝昭(2)、北川 忠生(1)
著者所属:(1)近畿大学農学部環境管理学科
     (2)愛媛県水産研究センター
論文掲載:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jai.14079

【研究の詳細】
愛媛県の久万高原町に定着しているカラドジョウの集団の中には、本来のカラドジョウのmtDNA(Group I)を持つ個体と、カラドジョウとは大きく異なる塩基配列をもつmtDNA(Group II)を持つ個体が混在していることが確認されていました。本研究では、Group II のmtDNAを持つ個体と、日本を含むアジア大陸に生息するドジョウの仲間のDNAの塩基配列を比較して、その起源を調べました。
核DNA上の遺伝子のDNA塩基配列を用いた系統解析では、カラドジョウはどちらのGroupのmtDNAを持っているかにかかわらずドジョウの仲間全体の系統樹の中で一つにまとまりました。一方、mtDNA上の遺伝子の塩基配列を用いた解析では、カラドジョウのGroup I は核DNAの結果と同様に系統樹の中で一つにまとまったのに対し、Group II は近縁種のドジョウのほぼ同じ塩基配列を持っていることが分かりました。このことは、Group II のmtDNAがドジョウから移入したものであることを示しています。さらにGroup II のmtDNAのルーツをたどると、ドジョウを経て別種のシマドジョウの仲間の祖先種にたどり着きました。このことは、過去にシマドジョウの仲間の祖先種がもっていたmtDNAが、ドジョウを経てカラドジョウに二次的に移入していたことを意味しています。
また、本研究で得られたGroup II のmtDNAは、現在生息している愛媛県のドジョウではなく、遠くはなれた台湾とオーストラリア産のドジョウのmtDNAに極めて近い塩基配列を持っていることが示されました。このことは、ドジョウからカラドジョウへのmtDNAの二次的遺伝子移入が、輸送や水産養殖などの人為的影響による交雑を介して発生したことが示唆されます。

【用語解説】
※1 ミトコンドリアDNA:細胞内の小器官であるミトコンドリアが保有する独自のDNA。DNAの二本鎖が環状のつながった構造を持つ.ミトコンドリア自体が卵の細胞質に含まれており、精子のミトコンドリアは受精の際に排除されるため、母親のミトコンドリアDNAだけが子に伝わる母性遺伝する特徴を持つ
※2 真核生物:核膜に包まれた核を持つ細胞からなる生物。細菌などを除き、ほとんどの動植物がこれに属する
※3 原核生物:細菌および藍藻といった核膜を持たない単細胞の生物

【関連リンク】
農学部 環境管理学科 准教授 北川 忠生 (キタガワ タダオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/890-kitagawa-tadao.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/