【岡山理科大学】“獣工連携”で初の教材誕生!【いきものQOL #7】

獣工の連携#7

2024-09-24 15:50

岡山理科大学では動物たちにやさしい医療や動物たちの健康づくりに向けて、獣医学部と情報理工学部の工学分野が共同で、デバイス開発に取り組んでいます。総合大学の強みを生かし、学部の枠を超えた“獣工連携”による獣医療の新しいスタイルです。動物たちのQOL(Quality of Life=生活の質)向上は、ヒトのQOLにもつながります。動物とヒトの豊かな生活実現をめざす「いきものQOL」の研究現場を、シリーズでレポートします。

「理想型に近づいたと思います!」

実習犬で巻圧を計測する佐伯准教授(左)と赤木教授(右)

 「理想型に近づいたと思います!」。獣医保健看護学科の佐伯香織准教授の顔が思わずほころびます。重さわずか10g。「とても軽くて、犬たちの負担がなくなりました」。言葉が弾みます。手にしているのは、動物たちに包帯を巻いた時にかかる圧力(巻圧)を計測するデバイスです。
 本シリーズの第1回でも紹介しましたが、巻圧の調整は、経験豊富な愛玩動物看護師ならまだしも、実習生にとっては難関です。きつく巻きすぎると、うっ血して体調を悪化させてしまいます。ヒトでは一般的に30mmHg(水銀柱ミリメートル)以上はうっ血を招く危険性があるとされています。しかし、動物ではどの程度の巻圧が適切なのかは分かりません。そこで学生たちは実習で、なるべく圧力がかからない巻き方をトレーニングします。その指導にあたって圧力を数値化できるデバイスが求められていますが、市販品は数十万円もするため、なかなか手が出せません。この問題の解決に“獣工連携”で取り組んでいるのが、情報理工学科の赤木徹也教授です。

4カ月以上かけて「まきよるOne」完成

完成した「まきよる One」

 佐伯准教授からの当初の依頼は「500円玉1枚ぐらいの大きさ」。これまでの試作品で500円玉2枚程度のサイズにまで小型化したものの、電源にはスマホの予備バッテリーを使用していたため、どうしてもかさばりました。「何とか、もっと使い勝手を良くできないか」。赤木教授は授業や自らの研究の合間を見ては、構想を練り続けました。

 まず、電源は、ワイヤレスイヤホンなどに使われているフィルム状のリチウムイオンポリマー電池として軽量化を実現。マイコンは小型でしかも極低電力で、スマホとのBluetooth通信が可能なBLE対応の機種を選定しました。
 続いて、圧力センサに加わる力をスマホに伝送するハードウエアを開発し、アンドロイドとアイフォンの両方で使えるアプリでデータを可視化。さらに「センサを安く、しかも使いやすくするために」工夫を重ねました。また、初期の段階で使っていた水風船では、気圧センサが濡れて誤作動する問題が発生していました。「水風船に代わる部材がないか」と安い乾式の圧力センサを見付けましたが、今度は感度の問題が発生――。100円均一ショップで、家具などに取り付けるクッションゴムに目を付け、何種類も試したうえで「応力が集中しやすい形状の商品」を見つけ、0.2N(ニュートン)以下が検知できないというセンサ感度の問題をクリアしました。

 こうして4カ月以上の時間をかけて完成させたのが「まきよるOne」です。「まきよる」は伊予弁で「巻いている」という意味で、巻圧計測の意味合いを親しみやすい方言で表現しました。

実習用の教材に18セット製作へ

「まきよるOne」を実習犬の腕に装着します

 赤木教授が岡山キャンパスから今治キャンパスに持参した「まきよるOne」を早速、実習犬に装着し、次々にスマホに表示されていく圧力データを確認した佐伯准教授は、完成度の高さに感激した様子で、「ほぼ理想型ですね。あとは一定程度の圧力がかると警報が鳴る機能があれば」と新たな注文も飛び出しました。
 「まきよる One」は獣医保健看護学科の実習用に18セットを製作することになりました。“獣工連携”によって教材が誕生するのは初めてです。

 「まきよるOne」は巻圧計測だけでなく、呼吸や脈動、体表温湿度の測定にも使えるよう改良を加えていくことにしています。
 「やっと当初の500円玉1個のサイズと重さで、という要望に近いものが出来たような気がします」と赤木教授はほっとした様子で続けます。「ここまでたどり着いたのも、数年にわたって試作品の検証を行ってきて、獣医学部の先生方との信頼関係が出来たおかげだと思います。試作品を持ち込む度に『でも、犬たちのことを考えたら、もっと小さくて軽い方がいい』と遠慮なく言える関係が構築出来たことが大きいと思います」。教材作りでまた多忙な日々が続きますが、赤木先生の顔はうれしそうです。

実際に包帯を巻きつけてスマホで圧力をチェックします
「まきよるOne」を使ったデバイスを相談する(左から)赤木教授、佐伯准教授、宮部真裕・獣医保健看護学科助教
「まきよるOne」で巻圧を確認する(左から)古本佳代・獣医保健看護学科教授、佐伯准教授、赤木教授

QOL Quality of Life(クオリティー・オブ・ライフ)の略で、本来は人間らしく生き生きと暮らしているかどうかを示す「生活の質」「生命の質」を示します。もともとは医療分野の末期がん患者などの終末期ケアの現場で、快適さなどを取り戻そうとして広がった試みです。福祉や介護の現場にも広がり、最近ではペットについても注目されています。

関連リンク

いきものQOL#6はこちら
https://newscast.jp/news/9713854

獣医学部
https://www.ous.ac.jp/department/veterinary/

情報理工学部
https://www.ous.ac.jp/department/info/

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