新たな放射線治療補助具「ソフトラバーボーラス」を開発 手指で自由に成形可能、照射精度の向上や個別化医療につながる成果

(左)頭部にボーラスをのせて照射する様子、(右)治療時に成形した状態
(左)頭部にボーラスをのせて照射する様子、(右)治療時に成形した状態

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)教授 門前 一を中心とする研究チームは、早川ゴム株式会社(本社:広島県福山市)の協力を得て、温めることによって手指で自由に成形でき、身体のどの部位にも高密着する新たな放射線治療補助具「ソフトラバーボーラス(Soft Rubbers Bolus)」の開発に成功しました。ソフトラバーボーラスは、表在性腫瘍に対するより精度の高い治療を可能とし、さらに消毒して再利用できることから環境にもやさしいという特徴があります。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)9月15日(水)17:00(日本時間)に、医学物理学分野の権威あるジャーナル”Physics in Medicine and Biology”にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●従来の補助具では不可能だった形状の調整が、治療時にその場で可能に
●手指での成形により凹凸のある部位でも高密着を実現、個別化放射線治療を提供可能
●消毒後の再利用が可能なため、多くの施設で簡易に使用可能

【本件の内容】
放射線治療で用いるX線や電子線は、体内で入射方向に沿って進み、次第にそのエネルギーを失うという性質を持っています。放射線治療補助具であるボーラスは、治療部位の皮膚表面に密着させることによって、患部のところで放射線量が最大となるよう調節する役割を担います。しかし、現在広く使用されているゲル状ボーラスは、決められたサイズ、硬さでしか販売されておらず、顔面などの凹凸のある部位に密着させにくいため照射精度が担保されない等の問題がありました。
今回研究チームが開発したソフトラバーボーラスは、温めることによって手指で自由に成形することができ、室温や体温では固まって形状が維持されるため、凹凸のある部位でも高密着を実現できます。また、ボーラスの有無によって照射した放射線の性質が変わってしまうことを防ぐため、人体の組成に近い密度を実現しました。衛生面にも配慮しており、消毒が容易で、温めなおすことによって再利用も可能です。
なお、本開発については、令和3年(2021年)2月5日に特許出願を行っており、今後は、薬事申請を経て、製品化および臨床使用への展開を目指します。

【論文掲載】
掲載誌 :”Physics in Medicine and Biology”(インパクトファクター:3.609@2020)
論文名 :A real-time shapeable soft rubber for clinical use as an ideal bolus in
     electron radiotherapy
    (電子線治療における理想のボーラス リアルタイム可変型ソフトラバー)
責任著者:門前 一(近畿大学 医学部 放射線医学教室 放射線腫瘍学部門)

【開発の背景】
従来のボーラスは、頭部、顔面、頸部、乳房などの曲面部位や凹凸のある部位に放射線を照射する場合、皮膚との間に隙間が生じてしまい、十分に皮膚表面に線量を投与できない、処方通りの照射ができない、といった問題がありました。また、サイズや厚みを患者ごとに変えることができず、近年需要が高まっている個別化医療の実現が困難でした。照射精度の向上や個別化医療を目的とした、3Dプリンタの技術を用いたボーラスも商品化されていますが、3Dプリンタを有しない施設が多いため汎用的ではなく、再利用ができないために費用や資源などの問題もありました。どのような治療部位の皮膚にも高密着し、サイズや厚みも自由自在に変えられ、多くの施設で簡易に使用でき、再利用可能なボーラスが求められていました。

【開発の詳細】
今回開発したソフトラバーボーラスは、温めることによって手指で自由に成形することができ、室温や体温では形状が維持されるため、凹凸のある部位でも高密着を実現できます。
開発においては、治療の際にその場で患者の体にのせて成形するため、熱すぎると火傷を引き起こす恐れがある一方、体温では固さを保持し形状を維持できるようにするため、温度特性に工夫が必要でした。何℃で柔らかくして、何℃以下で形状を維持するかを何度も試しながら、粘性と弾性の両方を合わせた性質である「粘弾性」がどのように変化するかを測定し、最適な温度を特定しました。さらに、成形後に形状が経時変化しないようにすることにも配慮しました。
また、放射線には、照射対象の密度が高いほどその対象に多くのエネルギーを付与することで、通過後に放射線の性質が変わってしまうことがあります。そこで、ソフトラバーボーラスの密度を人体の組成に近い”水”と同じにすることで、ボーラスの有無によって放射線の性質が変わってしまうことを防ぎました。水と同等の密度にするためには混ぜ合わせる化合物を工夫する必要がありますが、早川ゴム株式会社の配合技術がそれを可能にしました。
これらの工夫によって、表在性腫瘍への放射線の照射精度を向上させ、より精度の高い治療を可能にするソフトラバーボーラスが開発されました。

【早川ゴム株式会社概要】
所在地   :広島県福山市箕島町南丘5351番地(本社)
代表者   :代表取締役社長 横田 幸治
創    業:大正8年(1919年)3月
資本金   :払込資本金 494,336,000円
従業員数  :366人 ※ 令和3年(2021年)8月現在
ホームページ:https://www.hrc.co.jp/

【関連リンク】
医学部 放射線医学教室 教授 門前 一(モンゼン ハジメ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1301-monzen-hajime.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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