SVPジャパン 消費者によるSDGsの捉え方
SDGsの目標達成には、特に「政府」「企業」「消費者」の三位一体となる連携が必要とされている。日本ではSDGsの認知率は80%(注1)を超えているが、サステナブル※1な行動をできている人はどのくらいいるだろうか。本レポートでは、実際のところ消費者はSDGsをどう捉えているのか、外国の例を交えながら考察する。
※注1: サステナブル(英:Sustainable):「訳:持続可能な」 “社会や環境を配慮する“という意味で使われる。
■ サステナビリティに対する消費者の意識と行動について (日本)
現在、消費者の多くがSDGsをきっかけに、社会や環境問題に関心を寄せ、企業やブランドに対してもサステナブルなモノづくりを期待するようになった。ところが、実際のサステナブル消費者の割合は、欧米や新興国と比べて日本は最も低い。日本では、サステナビリティに配慮する商品は重要であり、買いたいとは思っているものの、行動が伴わない、言行不一致な面があるようだ。理由は、自分の時間・労力、お金など、何かを犠牲にしてまで選択したいと思わないという声がある。商品の購入時に価格よりもサステナビリティを優先する消費者は1割(注2)に満たないと言う。
一方で、身近にできる地球温暖化対策として、節約につながる行動をする人の割合は高い。食品ロスや節電・節水、マイボトルの持ち歩きなどは、今に始まったことではなく、より一層心がけるようになっている。また、最近は小売店でのレジ袋有料化により、消費者はエコバッグを持ち歩くことがスタンダードになっている。さらに、プラスチックゴミや使用済みで不要になった衣類の資源回収に協力し、以前はごみとして捨てていたものを、人に譲る・売るなどのリユースの考えが浸透し始めている。このように、お金の面で損をせず、むしろトクになるようなことは、少しの面倒があっても積極的に行動しているようにも思える。昨今の物価上昇のこともあり、生活防御は致し方ないことか。
《年代別の状況》
いわゆるZ世代と呼ばれる10代、20代の若者は、世間的に社会問題や環境問題に強い関心があると言われている。しかし、実践意欲が高いのは40代~70代で、その中でも特に高齢者(注3)であった。全体の中でZ世代の割合はむしろ一番低い(注4)。サステナブルな行動においても、全体的に高齢者の方が率先して行っているようだが、SNSを通しての情報収集や情報発信、関連あるイベントへの参加は若い世代の方が多い。高齢化が進む日本においては、若者に限らず高齢者の多くもサステナブルなライフスタイルに関心と実践意欲があることも念頭に置き、若い世代に限らず、年代別によるアプローチも重要になってくる。
参考:注1・3・4) 第5回「SDGsに関する生活者調査」を実施、電通(2022年4月27日)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0427-010518.html
注2) サステナビリティに関する意識と消費行動、P11、ニッセイ基礎研究所(2022年5月31日)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71254_ext_18_0.pdf?site=nli
■ サステナビリティに対する消費者の意識と行動について (海外)
海外では、先進国よりも新興国のほうがサステナブルに対する意識が高い。それは、水のインフラ、大気汚染、ごみ問題など先進国よりも生活環境において直接的に影響を受け、身をもって体感している人が多いことが要因かもしれない。
下図は、PwC Japanグループが行った、日本・米国・英国・中国の4カ国のサステナビリティに関する消費者調査である。環境・社会課題に対する問題意識と行動実践において、「必要性を理解・共感し、行動を実践している消費者の割合」は日本が21%だったのに対して、中国は69%、英国は66%と、特に中国と英国の人々の意識と行動実践性が高いことがわかった。また、新興国では、中国のみならずインドネシアやベトナムにおいてもサステナブル意識が高いとされている。
《年代別の状況》
日本では、若い世代よりも高齢者の方がサステナビリティを意識して行動をする割合が高いが、下図の4カ国調査の通り、海外を含めるとZ世代やミレニアル世代などの若い世代の方が、環境・社会問題に取り組む「必要性を理解・共感し、行動を実践」していると回答している。 また、若い世代は環境問題だけではなく、ジェンダーや人権問題にも強い関心を示しており、一部の消費者においては、それらに関わる商品が購買行動に影響していると言う。日本の若い世代も例外ではなく、ジェンダーや人権問題の関心が強いとされている。
参考: 新たな価値を目指して サスティナビリティに関する消費者調査2022、 P8・P9の情報・グラフ掲載、PwC Japanグループ(2022年9月)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2022/assets/pdf/consumer-survey-on-sustainability2022.pdf
■行動変容に向けた取り組み
海外では、サステナブルな行動の促進に向けて、様々な取り組みが展開されている。
《欧州》
・食品ラベル表示の導入…メーカーと小売店が連携。消費者が一目で環境に良い商品だとわかるように工夫。
・健康推進…環境に影響するだけではなく、健康の視点を加えて、無農薬食品や植物性食品の摂取を推奨。
・ゲーミフィケーションの導入…ゲーム感覚でSDGsに貢献するようにアプローチ。
・飲料水機の設置…街の至る所に飲料水機があることで、ペットボトルを削減。
・商品の陳列の仕方…健康(環境)に良い食品を陳列したコーナー設置。
《中国》
・法的に食べ残し禁止…「反食品浪費法」。過剰な食べ残し(客側)や、大量に注文させた(店側)場合に処分費用の請求ができる。食品ロスに貢献。
日本でも食品ロスを削減するアプリや、環境に配慮した植物性食品を取り扱うメーカー、プライベートブランドを作る小売店が増えてきた。しかしながら、行動に移せている人は未だ少数派である。SDGsにおけるデジタル活用は、新規事業の開発・参入のチャンスともいえるが、ITリテラシーが低い高齢者のことも考慮しなければならいだろう。
■日本のサステナブル消費の課題について
日本では、SDGs及びサステナブルなライフスタイルの意識や気運が高まっているものの、消費が伸びず、人々が行動できていない。その理由は主に4つあると考える。
①価格が高すぎる (生活費の物価高騰で購入がより困難に)
②どの商品が環境に良いものなのかわかりずらく、選びにくい
③商品・サービスの購入を通じて、サステナビリティに貢献するという意識がまだまだ低い
④販促の展開方法(商品ラベル、売り場作り、またサステナブル以外の商品の強みの有無)
消費者のサステナブル意識を体現する(価格よし・デザインよし・機能よし)商品やサービスが少なく、また購入意欲があっても、どれがサステナブル商品なのか見分けが難しい場合がある。また、お金を掛けなくても、エコバックやマイボトルの持参など、身の回りで出来ることがあるせいか、積極的にサステナブルな商品やサービスを購入するという消費行動までに至っておらず、 何かを購入しなくても、環境・社会に配慮する行動は出来ると思っている節がある。
例えば、肉や牛乳の代わりに、ソイミートや植物性ミルクの利用促進において(植物性製品は家畜による様々な環境問題軽減に寄与)、環境と健康に良いというメリット以上に「味が異なる」「価格が高い」「どこで販売しているのかわからない」等の問題がある。環境や健康の為の代替品というだけではなく、新しい食材として提案し、レシピ提供や試食会の開催、また日常で選択できる場面を作ってあげることが大切だ。消費者が手に取りやすい価格や販促活動は、企業にとっても重要な差別化要素になってくるだろう。
■企業に求めること
政府や企業は、SDGsの目標達成に向けて、主導的役割を担っていくことは勿論だが、現在は多くの消費者がSDGsを既に認知していることもあり、今後は消費者のサステナビリティに対する意識をどのようにサポートして、行動変容させていくかがポイントだ。サステナブル消費の実践意欲が高いことは、将来的に多くの消費者を生むことが期待できる。現状課題を解決する方向性としては、以下がある。
■まとめ
日本では、多くの消費者がSDGsを認知し、経験豊富な高齢者を筆頭にサステナビリティに関する意識・消費の実践意欲も高まってきている。それにも関わらず、購買に繋がっていないのが現状だ。政府や企業などステークホルダー間での協力強化が重要となり、また企業は、商品やサービスを比較的手ごろな価格提供すること、加えて消費者のニーズを考慮した商品開発や販促方法を工夫することで、今後の消費量はさらに期待できると考察する。政府と企業のサポートにより、日本の消費者もSDGs をさらに牽引していく立場となっていくだろう。
■ 終わりに
SVPジャパンでは、会員様向けサービスを通じて、日本国内のみならず、世界各国の経済指標や市場データ、事業環境や企業戦略、研究開発動向などをカスタマイズされた報告書にてご提供させていただいております。SDGsや消費行動についての情報収集例もございます。是非ご活用ください。
■SVPジャパンについて
「成功に導くビジネスの知を、もっと身近に」をミッションとした、会員制ビジネス情報提供サービスプロバイダー。
会員企業には、ビジネス公開情報に基づくクイックリサーチ、カスタムメイド型プロジェクトリサーチを提供。日本は1974年に創業し、現在世界40カ国に渡るネットワークのメンバーとして、大手企業を中心とした会員企業の意思決定を情報力でサポートしています。
2021年には事業継承のため、経営体制を一新し、ガバナンスの強化、情報提供サービスの拡大、そして進化することを目指し、第二の創業をスタートしています。
《会社概要》
社名: 株式会社SVPジャパン
代表取締役: 橋本 雅
所在地: 東京都中央区日本橋蛎殻町1-38-9 宮前ビル2F
設立年月日: 1974年7月1日
事業内容: 会員制のビジネス情報提供サービス
URL: https://www.svpjapan.com/
《問い合わせ先》
株式会社SVPジャパン デジタルマーケティング部
mail : info@svpjapan.com