世界初!チョウの幼虫がもつ硬い角の役割を解明 アシナガバチ類などの天敵から身を守る盾の役割を果たす

ゴマダラチョウの幼虫が、天敵であるアシナガバチからの攻撃を防衛する様子
ゴマダラチョウの幼虫が、天敵であるアシナガバチからの攻撃を防衛する様子

近畿大学農学部(奈良県奈良市)農業生産科学科准教授 香取 郁夫(かんどり いくお)らの研究グループは、チョウの一種であるゴマダラチョウの幼虫がもつ硬い頭部突起(角)が天敵から身を守る盾の役割を果たすことを、世界で初めて明らかにしました。また本研究において、ゴマダラチョウの幼虫の最も主要な天敵が、アシナガバチ類であることも明らかになりました。チョウやガを含むチョウ目幼虫の形態には、まだ役割が謎のものが多く、今回の発見はこれらの解明に向けて大きな一歩となるものです。
本研究に関する論文が、令和4年(2022年)2月18日(金)に、Nature系列の学術誌である"Scientific Reports"に掲載されました。

【本件のポイント】
●ゴマダラチョウ幼虫の野外における最も主要な天敵はアシナガバチ類であることを発見
●角が首を守る盾として機能することで、ゴマダラチョウの幼虫はハチの攻撃を効果的に防衛することが判明
●チョウ目幼虫の形態がもつ役割の謎を解明する世界初の研究成果

【本件の内容】
チョウの幼虫には、一対の長い頭部突起(角)をもっているものがいます。触角はすべての昆虫がもっていますが、この角は同じチョウ目でもモンシロチョウやアゲハチョウのようにもたない場合もあり、その役割は長年知られていませんでした。
本研究では、ゴマダラチョウの幼虫が角を使用して捕食者などの天敵から身を守るという仮説を立て、それを検証しました。ビデオカメラを用いた長期にわたる野外調査により、まずゴマダラチョウ幼虫の最も主要な天敵がアシナガバチ類であることが明らかになりました。次に、実験において、角が無傷の幼虫(角有り)と、人為的に角を除去して他の個体の角を取り付けた幼虫(角接着)、単に角が除去された幼虫(角無し)を比較したところ、角有りと角接着が、角無しよりもはるかに高い確率でアシナガバチの攻撃を防衛するという結果がでました(図1)。

(図1)アシナガバチによる捕食実験におけるゴマダラチョウ幼虫の防衛率(左)、(図2)角無しの幼虫が防衛に失敗し、首に噛みつかれた様子(右)
(図1)アシナガバチによる捕食実験におけるゴマダラチョウ幼虫の防衛率(左)、(図2)角無しの幼虫が防衛に失敗し、首に噛みつかれた様子(右)

詳細な観察によると、ライオンが草食動物の首や喉に最初に噛みつくのと同じように、アシナガバチは狩りのときにチョウの幼虫の首(頭部のすぐ後ろ)に最初に噛みつく戦略を採用していることが明らかになりました(図2)。さらに、ゴマダラチョウの幼虫の角は、アシナガバチとの攻防において、首を守る盾の役割を果たしており、ハチの攻撃を効果的に阻止し、防衛に成功していることを突き止めました。
以上の研究結果は、幼虫の頭部にある硬い角が、天敵となる捕食性昆虫から身を守るために進化したことを示唆するものです。これは、昆虫が捕食者に対する物理的防衛のために角を使用することを示した世界初の研究成果となりました。

<関連動画>
動画1:野外においてゴマダラチョウ幼虫を襲う天敵のキアシナガバチ。
幼虫は角を用いてしっかり防衛した。
https://youtu.be/-GFMnBDHuL0

動画2:野外においてゴマダラチョウ幼虫を襲う天敵のシジュウカラ。
体格差があるため、幼虫は角があっても簡単に捕食された。
https://youtu.be/pmWMJ8gKbDI

動画3:捕食実験にて角無しのゴマダラチョウ幼虫を襲うセグロアシナガバチ。
角無しの幼虫はアシナガバチに首を噛まれ、その後捕食された。
https://youtu.be/1oWJy_bF2IY

【論文掲載】
掲載誌 :Scientific Reports(インパクトファクター:4.380 @2020)
論文名 :
Long horns protect Hestina japonica butterfly larvae from their natural enemies
(ゴマダラチョウ幼虫の長い角は天敵から身を守るのに役立つ)
著  者:
香取 郁夫1*、平松 衛1、惣田 実菜子1、中島 伸也1、舩見 瞬1、横井 智之2、土原 和子3、Daniel R. Papaj4
*責任著者
所  属:
1 近畿大学農学部、2 筑波大学大学院生命環境系、3 東北学院大学教養学部、4 アリゾナ大学進化生物学部
※ 所属はいずれも研究当時
論文掲載:https://www.nature.com/articles/s41598-022-06770-y

【先行研究と今後の展開】
チョウの幼虫がもつ頭部突起(角)は、頭部のすぐ後ろから生える柔らかい角と、頭部から直接生える硬い角の大きく2つに分けられます(図3)。
研究グループは、先行研究において、アオジャコウアゲハの幼虫(図3上段一番左)の柔らかい角の役割を検証しました。その結果、柔らかい角はすべての幼虫がもつ短小な触角を補助し、食草の発見効率を上げる役割を果たしていることを突き止めました(Kandori I. et al. 2015. PLoS ONE)。これについて普遍性を検討するため、現在、同じく頭部に柔らかい角をもつアサギマダラの幼虫(図3上段左から3番目)を用いて検証実験を進めており、仮説通りの結果が出てきています。
硬い角についても、本研究において実証した「天敵からの防衛」の普遍性を検討するため、同じく頭部に硬い突起をもつフタオチョウの幼虫(図3下段左から2番目)を用いて検証実験を進めており、同じく仮説通りの結果が出てきています。
これらの研究によって、チョウの幼虫がもつ角の役割に関する総合的理解が深まってきました。今後、チョウ目の幼虫の多様で特異な形態の謎が一段と明らかになることが期待されます。

(図3)頭部またはその近くに角をもつチョウの幼虫(上段:柔らかい角、下段:硬い角)
(図3)頭部またはその近くに角をもつチョウの幼虫(上段:柔らかい角、下段:硬い角)

【研究支援】
本研究は、日本学術振興会の科研費基盤研究C(JP19K06079)の支援を受けて実施しました。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 准教授 香取 郁夫 (カンドリ イクオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/156-kandori-ikuo.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/