バイリンガルの多様性を理解する

「バイリンガル」の定義のための基礎情報

「バイリンガル」と一口に言っても、さまざまなバイリンガルが存在します。
ワールド・ファミリー  バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)では、バイリンガルの言語能力はさまざまな要因で常に変化するものであると考えます。そのため、習得過程などにかかわらず、与えられたタスクや状況などに応じて、必要なときに、二つの言語のうちで適切な言語を選択して使い、意思疎通を図ることができる人を「バイリンガル」と定義しています(Jacobs, 2018)。
この定義のもととなる「バイリンガルの多様性」についての考察を公開しました。

第二言語にふれ始めた時期

バイリンガルは、二つ目の言語をいつから身につけたかによって、「同時性バイリンガル(※1)」(simultaneous bilingual)と「後続性バイリンガル(※2)」(sequential bilingual)に分かれます(Baker, 2001)。
※1は「同時発達バイリンガル」、「同時バイリンガル」、※2は「継起発達バイリンガル」、「継続バイリンガル」などと呼ばれる場合もある。
 
同時性バイリンガルは、生まれたときから二つの言語を同時に身につけていきます。後続性バイリンガルは、はじめは一つの言語のみにふれて育ち、そのあとに二つ目の言語を身につけていきますが、二つ目の言語にふれ始める時期が何歳以降だったら後続性バイリンガルとなるか、という点については、統一された見解がありません。
 
ではなぜこのような区別が必要かというと、二つの言語を同時に身につける場合とそうでない場合とでは、二言語の習得過程や言語環境に異なる点があると考えられているからです(Genesee, 2002)。バイリンガリズムや第二言語習得の研究においては、二言語の発達には年齢以外にもさまざまな要因が複雑に絡み合うと考えられています(Ortega, 2009; Shin, 2018; Genesee, 2015)。つまり、バイリンガルの言語能力は、二つ目の言語に触れ始めた年齢だけで決まるわけではないのです。

生まれ育っている社会環境

Aさんは、日本語を話す母親と英語を話す父親のもとで生まれ育った日本語・英語のバイリンガル。日本に住む日本人で、文化的にも社会の多数派(マジョリティ)に属し、社会の主要言語は日本語です。英語は家庭の外ではあまり必要ないものの、学業や将来の仕事のために重要な言語です。
 
Bさんは、ポルトガル語を話す両親と一緒にブラジルから日本へ移住してきた、ポルトガル語・日本語のバイリンガル。幼少期から日本で育ちましたが、国籍はブラジルで、文化的には社会の少数派(マイノリティ)に属します。ただし日本の公立小学校に通っているため、日本語は学校生活に欠かせない言語であり、ポルトガル語は家庭の外で親以外の人と使う機会はほとんどありません。
 
Aさんの場合、日本語と英語どちらも重要だと考えていますが、日本では英語を使う機会が少ないので、どうしたら英語力を伸ばせるか、ということが課題になってきます。Bさんの場合、あとから身につけた日本語がとても流暢になり、ポルトガル語は日常生活でも学業でも必要ないため、学習しようという意欲が湧かず、両親はとても残念に感じるようになります。
 
このような違いがあることから、バイリンガル教育には、第一言語が社会の主要言語、第二言語がその社会における外国語である人のための「バイリンガル教育A」と、第一言語が社会の少数派言語、第二言語がその社会の主要言語である人のための「バイリンガル教育B」の2つの種類があるとされています(中島, 2016)。同じ「バイリンガル」でも、置かれている社会環境が異なれば、それぞれの言語にふれる機会だけではなく、その言語がもつ社会的な価値や地位も異なり、意欲や言語発達にも関係してきます。そのため、どの社会環境の誰を対象としているかによって、バイリンガル教育において配慮すべき点も異なってくるのです。

二言語のバランス

さらにバイリンガルは、それぞれの言語をどの程度使えるか、という二言語のバランスが人によって異なります。

下記のイメージはそれぞれの言語の能力(語彙や構文力、表現の幅など)を示し、左端と右端の図は、どちらか一方の言語の習得レベルが明らかに高い人であり、中央の二つは、両言語の差が比較的少ない人です。大小の違いはあっても、二つの言語で差があることはごく当然のことと考えられ、これはバイリンガルの日常生活において、それぞれの言語を使う状況や目的、相手、頻度、必要な能力(聞く・話す・読む・書く、など)などがまったく同じであることはないからです。

バイリンガルの二言語のバランス

言語Aだけを話すモノリンガル、言語Bだけを話すモノリンガルと比べると、バイリンガルのAまたはBの円はそれぞれ小さいかもしれませんが、それぞれの言語にふれる量がモノリンガルと異なることを考えれば当然のことなのです。この図を作成したShin(2018)は、バイリンガルの言語能力について、バイリンガルの言語Aと言語Bの円を合わせれば、言語Aのモノリンガルや言語Bのモノリンガルの円よりも大きくなる、と説明しています。

バイリンガルの多様性を理解することが重要

「バイリンガル」といっても、二つの言語を習得する過程や環境、習得状況などによって、さまざまな違いがあります。バイリンガルが少ない日本では、なかなかその多様性に気づくことができないかもしれません。バイリンガルに関する見解や体験談、研究結果にふれるときには、ぜひバイリンガルの定義や多様性に注意し、一人ひとりの子どもに合った効果的な言語環境や学習環境について考えていきたいとIBSでは考えています。
 
詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。  

バイリンガルの多様性を理解する

■ワールド・ファミリーバイリンガル  サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual  Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所   長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設   立:2016年10 月              
URL:https://bilingualscience.com/

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