胎児エコーの遠隔診断で、先天性心疾患の早期発見と治療に成功 IoT技術を使った先端医療で大学病院が地域医療機関を支援

2023-01-10 14:00
表紙に採用された胎児心臓の3次元画像

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)小児科学教室は、先天性心疾患の一つであり、世界でも数例しか報告のない「三心房心※(さんしんぼうしん)」を胎児エコーの遠隔診断によって出生前に発見し、発症前のリスクが低い段階で根治手術することに成功しました。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)1月3日(火)に、産婦人科超音波に関する英文雑誌"Ultrasound in obstetrics & gynecology"に掲載されました。また、最新の画像処理技術で提示した本症例の3次元画像が、同誌の表紙に採用されました。

【本件のポイント】
●胎児エコーの遠隔診断によって、極めて難しい先天性心疾患の診断・治療に成功
●一般の産科医による日常診療では発見が困難な症例を、専門医が遠隔診断で早期発見
●最新の画像処理技術で、これまで解明されていなかった心臓内の構造を明瞭に描出

【本件の内容】
重症の先天性心疾患は出生1000人に4例の割合で発生し、重症化前に発見することは極めて困難とされています。重症化の予防には胎児診断が有効ですが、先天性心疾患の胎児診断には専門的知識と技術が要求されるため、一般の産科医やエコー検査技師が日常診療で見つけることは困難です。そこで、近畿大学病院小児科では、インターネットと最新の画像処理技術を用いて、近隣の産科医院と連携し、胎児心臓の遠隔診断を行っています。
このインターネットによる胎児遠隔診断では、エコー装置が自動的に画像情報を収集するため、送る側は専門的知識と技術を必要としません。さらに、送られた画像情報を最新の画像処理技術で立体的に再構築できるため、心臓内の構造が明瞭に描出され、病状の把握に非常に役立ちます。
今回の診断は、近隣の連携病院からの依頼で行われ、インターネットで転送された画像を解析して胎児エコーの遠隔診断を行ったところ、三心房心の疾患が発見されました。そして、出産後、根治手術を行い、母子ともに無事退院することができました。

【論文掲載】
掲載誌:Ultrasound in obstetrics & gynecology(インパクトファクター:8.678@2021)
論文名:Prenatal diagnosis of cor triatriatum sinister(三心房心の胎児診断例)
著者 :松原 弥生1、稲村 昇2、今岡 のり2、藤田 富雄1
所属 :1 ふじたクリニック、2 近畿大学医学部小児科学教室

【本件の詳細】
近畿大学病院小児科では、近隣の産科医院と連携し、最新の画像処理技術を用いた胎児心臓の遠隔診断を行っています。これは、妊婦がかかりつけの産院から移動することなく、大学病院の専門医の診断を受けることができるシステムです。
今回、近隣の連携病院であるふじたクリニック(大阪府大阪市)から、肺静脈の異常が疑われる在胎22週の胎児の遠隔診断依頼があり、インターネットで転送された画像を解析して三心房心との診断に至りました。妊婦は在胎27週に近畿大学病院で詳細な胎児心エコー検査を行い、三心房心と確定診断されました。画像の詳細な解析で出生後の病態予測ができたため、在胎37週に当院で出産して生後6日で根治手術を行い、成功しました。
三心房心は先天性心疾患の0.1~0.4%に見られる極めて稀な心疾患で、出生後に重度の肺うっ血を発症することのある重症疾患です。三心房心の胎児診断は世界でも数例の報告しかなく、本症例は、大学病院の専門医と地域の医療機関との連携、さらにIoT技術を使った先端医療により、診断困難な先天性疾患を早期に発見して治療できた極めて珍しい事例といえます。また、最新の画像処理技術で胎児心臓の3次元画像を提示できたことが、論文掲載と表紙採用のきっかけとなりました。

【研究者コメント】
氏名  :稲村 昇(いなむら のぼる)
所属  :近畿大医学部小児科学教室
職位  :准教授
学位  :医学博士
コメント:今回の症例は、一見正常な心臓に見えるが少し気になるという程度のものでした。しかし、詳細に調べてみると、実際は重症の心臓病でした。遠隔診断は、このような少し気になる症例を妊婦さんが移動することなく診断できるため、気軽に相談できるのが利点です。
日々進歩する周産期医療において、胎児診断の役割は益々大きくなっており、胎児診断で救命できた症例も年々増加しています。胎児診断を普及させるには、胎児の心臓病の診断を気軽に相談できるネットワークづくりが重要です。今後は、近畿大学が遠隔診断のよろず相談所のような役目を果たせるようになりたいと考えます。
また、今回、学術誌の表紙に掲載された画像は、最新の画像合成技術による立体画像です。最新技術を応用することで、胎児の小さな心臓でも内部構造が詳細に描出できました。これは、出生後の病状予測や手術のシミュレーションにも大いに役立つ技術です。

【用語解説】
※ 三心房心:肺静脈(肺から酸素を取り込んだ血液が心臓に戻る血液の通路)が、心臓(左心房)とつながる発生過程に異常があってできる先天性心疾患。左心房内に壁ができることで左心房が二つに分かれ、右心房と加えると心房が3つあるように見えるため三心房心という。先天性心疾患の約0.1%に見られる。左心房内の壁が肺静脈の流れを妨げるため新生児期から乳児期に高度の肺うっ血(肺に血液がうっ滞する病態)を呈することがある。

【関連リンク】
医学部 医学科 准教授 稲村 昇(イナムラ ノボル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2121-inamura-noboru.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/
近畿大学病院
https://www.med.kindai.ac.jp/

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