魚類の解体見学や鮮魚の観察が幼児に与える効果を検証 屋内での魚介類の観察体験が野外保育の一部代替となることを示唆

魚介類の体験活動プログラム「どこでも魚市場」の様子
魚介類の体験活動プログラム「どこでも魚市場」の様子

近畿大学農学部(奈良県奈良市)環境管理学科准教授 宮崎佑介と、日本さかな専門学校(神奈川県三浦市)講師 青木宏樹(故人)は、魚介類の体験活動プログラムである「どこでも魚市場」に参加した幼児について、夢の記録と魚介類の絵の分析を行い、魚の解体を含む調理過程の見学や、すべての感覚器官を使った生鮮魚介類の観察という屋内での体験活動プログラムが、野外保育の一部代替的な役割を果たすことを明らかにしました。幼児期の自然体験の重要性が指摘される一方で、どのような体験機会が提供されるべきかについてはあまり先行研究がありませんでしたが、本研究成果により、幼児期の自然体験についての知見が深まり、教育・保育の質の向上に繋がることが期待されます。
本件に関する論文が、令和6年(2024年)3月30日(土)に、日本環境教育学会の学術誌「環境教育」にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●魚介類の体験活動プログラム「どこでも魚市場」に参加した幼児の夢と魚介類の絵を分析
●屋内でも実施可能な魚類の調理過程の見学と、すべての感覚器官を用いた魚介類の観察は、幼児期に自然とのかかわりや生命尊重を育む機会となることを明示
●本研究成果により、幼児期の自然体験についての知見が深まり、教育・保育の質の向上へ繋がることに期待

【本件の背景】
幼稚園、保育所や認定こども園における教育・保育要領は、小学校入学前までに生きる力の基礎となる心情、意欲、態度などを育むために定められています。領域の一つである「環境」では、周囲のさまざまな環境に好奇心や探究心をもってかかわり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養うことをねらいとして掲げており、こうした力は自然体験などを通じて育まれます。日本は周囲を海に囲まれ、幼児期から潮干狩りや釣りといった漁業体験をする機会が多いことから、日本の子どもは魚介類に高い関心を示す傾向が知られています。魚介類を用いた体験は、生態系とのかかわり、食と生命尊重を関係づけて考える機会の提供に繋がりますが、具体的にどのような体験が子どもの発達に効果的なのかについては十分な知見がありませんでした。

【本件の内容】
日本さかな専門学校講師 青木宏樹は、平成17年(2005年)頃から主に東京都と神奈川県の幼稚園、保育園、小学校や商業施設等において、延べ1万人以上を対象に魚介類の体験活動プログラム「どこでも魚市場」を開催してきました。このプログラムは、魚類の解体を含む調理過程の見学と、すべての感覚器官を用いて生鮮魚介類を観察する二つの体験から構成されており、これらの体験がどの程度幼児の記憶に残り、魚類の認識向上に寄与するのかを明らかにする目的で研究に取り組みました。
研究グループは、プログラムに参加した年長クラスの幼児が、体験前後7日間に記録した睡眠時の夢と、魚の絵(前後1枚ずつ)をそれぞれ比較分析することで効果を検証しました。夢の内容を分析した結果、夢の記録の総数は開始後から減少傾向だったのに対し、魚介類が出現する夢の記録はプログラム体験の翌日に増加し、一部体験内容と関連性の強い記録も見られました。また、絵の内容を分析した結果では、魚類の鰭条(きじょう)※1 の表現が体験後に有意に増加しました。
これにより、体験活動プログラム「どこでも魚市場」は、一部の参加幼児に強い印象を与え、多くの幼児の魚類への認識の解像度を高めたことがわかりました。魚類の解体を含む調理過程の見学や生鮮魚介類の観察は、幼稚園、保育園や幼保連携型認定こども園だけではなく、各家庭において比較的容易に実施できます。国が示す「幼稚園教育要領」、「保育所保育指針」及び「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」において、平成29年(2017年)に新たに「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」※2 として10項目が提示され、このうちの1項目である「自然とのかかわり・生命尊重」を育むために、「どこでも魚市場」で提供するような体験が寄与できることが本研究によって示唆されました。

【論文概要】
掲載誌 :環境教育
論文名 :「どこでも魚市場」体験の教育効果の検証
     ―夢と絵の記録に基づく印象強さと認識の解像度の分析―
著者  :宮崎佑介1,2*、青木宏樹3 *責任著者
所属  :1 近畿大学農学部環境管理学科、2 白梅学園短期大学保育科、3 日本さかな専門学校
論文掲載:https://doi.org/10.5647/jsoee.2308
DOI   :10.5647/jsoee.2308

【研究支援】
本研究は、水産庁令和2年度水産物販売促進緊急対策事業及び日本学術振興会科学研究費助成事業(20K20008)等の支援を受けて実施されました。

【研究者コメント】
宮崎佑介(みやざきゆうすけ)
所属  :近畿大学農学部環境管理学科
職位  :准教授
学位  :博士(農学)
コメント:魚類は食べ物として、観賞対象として、レジャーの対象として幼少期から接する機会のある身近な生物の一つです。また、天然資源への依存度が高く、環境変化が食卓にも及び、地域の文化の多様性にも寄与しています。お魚屋さんのように陳列された魚類をさまざまな感覚器官を用いて観察することで生物の多様性や不思議さを体感し、さらに食まで体験を繋げることによって、私たちは生命体を食べ物としていただいていることも実感できる機会になります。人間活動によって大きく喪失した生物多様性の回復が謳われるようになった昨今では、改めて生物の多様性の価値を知り、さらに自然へ畏敬の念を抱けるような機会提供の重要性がますます高まっています。本研究成果が、教育や保育の現場におけるより良い機会提供につながることを期待します。

【共著者紹介】
青木宏樹(あおきひろき)
北里大学水産学部卒業。日本さかな専門学校講師。生き物コンサルタント。小学校や大学などで、魚のさばき方講座やタコの解剖など、魚を使った体験教室を行う。「魚食アドバイザー」として水産流通の現場でも活躍。日本初のさかなを総合的に学ぶ「日本さかな専門学校」(令和5年(2023年)開校、神奈川県三浦市)の立ち上げにも深く携わる。令和5年(2023年)8月、42歳で逝去。

【用語解説】
※1 鰭条:魚類の鰭(ひれ)に見られる筋のような骨で、硬くて先端が尖った棘条(きょくじょう)と、しなやかで節状の構造がみられる軟条(なんじょう)に分けられる。また、多くの場合、軟条は先端が枝分かれしている。
※2 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」:保育5領域(健康・人間関係・環境・言葉・表現)から抽出された今の時代に特に大切にしたい10項目で、「10の姿」とも表現される。平成29年(2017年)に改訂、平成30年(2018年)に施行された幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領から初めて設定されたもので、遊びの中で育まれているかどうか、必要な援助は何かを見るための項目。

【関連リンク】
農学部 環境管理学科 准教授 宮崎佑介(ミヤザキユウスケ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2734-miyazaki-yuusuke.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/


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