IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の新たなバイオマーカーを発見 診断・治療効果の指標として臨床での活用に期待

(図)健常者8人、慢性膵炎患者12人、自己免疫性膵炎・IgG4関連疾患患者21人の血清中のI型インターフェロンとインターロイキン33を測定した。自己免疫性膵炎・IgG4関連疾患患者では健常者や慢性膵炎患者と比べ、血清中のI型インターフェロンとインターロイキン33が高値を示した。
(図)健常者8人、慢性膵炎患者12人、自己免疫性膵炎・IgG4関連疾患患者21人の血清中のI型インターフェロンとインターロイキン33を測定した。自己免疫性膵炎・IgG4関連疾患患者では健常者や慢性膵炎患者と比べ、血清中のI型インターフェロンとインターロイキン33が高値を示した。

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(消化器内科部門)准教授の渡邉 智裕らの研究グループは、原因不明の難病の一つであるIgG4関連疾患※1 ・自己免疫性膵炎※2 の新たなバイオマーカー※3 として「I型インターフェロン」※4 と「インターロイキン33」※5 を発見しました。
本成果により、現行の診断基準では診断に苦慮することも多いIgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の確定診断や治療効果判定の新しい指標として、日常診療での活用が期待されます。さらには、「I型インターフェロン」「インターロイキン33」を標的としたIgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の新たな治療法の開発や発症の予防法の確立が期待されます。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)9月16日(水)18:00(日本時間)、臨床医学から自然科学分野までを網羅する専門誌”Scientific Reports”にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●「I型インターフェロン」「インターロイキン33」が、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の新たなバイオマーカーとなることを発見
●IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の確定診断や治療効果判定の新しい指標として、日常診療での活用に期待
●「I型インターフェロン」「インターロイキン33」の制御を用いた、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の新たな治療法の開発に期待

【本件の背景】
IgG4関連疾患は、抗体の一つであるIgG4が血液中や障害された臓器に増加することを特色とする新規疾患概念であり、消化器領域では従来、自己免疫性膵炎と診断されていた症例の大半がIgG4関連疾患が膵臓に生じたものであることが判明しています。近年、IgG4関連疾患に対する医師の認識が高まるにつれ、その患者数も増加していますが、この病気がどのようなメカニズムで起こるのかについての疑問は解決されていません。現在、IgG4関連疾患は指定難病となっており、明確な治療標的やバイオマーカーの発見には至っておらず、本研究グループでは平成20年(2008年)から、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の病態の解明や治療標的を探索する研究を続けてきました。その結果、形質細胞様樹状細胞※6 の産生する「I型インターフェロン」と「インターロイキン33」が病的な役割を果たすことを見出しました。

【本件の内容】
本研究では、上述の2つの炎症性サイトカイン※7「I型インターフェロン」と「インターロイキン33」が、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎のバイオマーカーとして有用であるかどうかの検討を行いました。その結果、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎患者の血清では、アルコール性慢性膵炎患者、健常者の血清との比較で、「I型インターフェロン」および「インターロイキン33」が有意に上昇していることが判明しました。慢性膵炎群を対照とした場合に、これらの2つのサイトカインはIgG4関連疾患・自己免疫性膵炎を現在、診断に用いられるIgG4と同等に正しく診断することができました。また、ステロイド治療を行うことにより病気が改善すると、「I型インターフェロン」および「インターロイキン33」が有意に低下することが分かりました。
本研究成果より、「I型インターフェロン」および「インターロイキン33」は、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の診断および病勢の評価における有用なバイオマーカーとなることが示され、臨床での活用が期待されます。さらには、これらを標的とした新たな治療法の開発への発展が期待されます。

【論文掲載】
雑誌名:“Scientific Reports”(インパクトファクター:3.998)
論文名:
Identification of serum IFN-α and IL-33 as novel biomarkers for type 1 autoimmune pancreatitis and IgG4-related disease
「1型自己免疫性膵炎とIgG4関連疾患の新規バイオマーカーの同定;血清IFN-alphaとIL-33」
著 者:
三長 孝輔、渡邉 智裕*、原 茜、鎌田 研、大本 俊介、中井 敦史、大塚 康生、瀬海 郁衣、吉川 智恵、山雄 健太郎、竹中 完、工藤 正俊:近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)、千葉 康敬:近畿大学病院臨床研究センター
*責任著者

【研究の詳細】
研究グループはこれまでに、IgG4関連疾患と自己免疫性膵炎の発症には、「I型インターフェロン」と「インターロイキン33」を産生する形質細胞様樹状細胞が病的な役割を果たすことを報告してきました(参考文献 1~5)。
本研究は、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎患者の血清を用いて「I型インターフェロン」および「インターロイキン33」がIgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の診断および疾患活動性の新たなバイオマーカーになり得るかを検討しました。近畿大学病院にて、平成30年(2018年)1月から令和元年(2019年)12月の期間に受診した、新規IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎患者21名の血清を用い、アルコール性慢性膵炎患者および健常者を対照に解析を行いました。その結果、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎患者の血清では、IgG4のみならず、「I型インターフェロン」「インターロイキン33」濃度が有意に上昇していることが分かりました。「I型インターフェロン」および「インターロイキン-33」は、IgG4と同等にIgG4関連疾患・自己免疫性膵炎を正しく診断できました。また、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎のステロイド治療導入前と、導入後寛解状態における各免疫グロブリン※8、サイトカインの血清値の比較を行ったところ、血清IgG4のみならず、「I型インターフェロン」および「インターロイキン33」が有意に低下していました。これらの結果から、血清「I型インターフェロン」「インターロイキン33」が診断および疾患活動性のバイオマーカーとして、血清IgG4と同等に有用であることが明らかになりました。
(参考文献)
1)Journal of Gastroenterology 2020;55:565-576
2)International Immunlogy 2019;31:795-809.
3)Trends in Immunology 2018;39:874-889.
4)Journal of Immunology 2017;198:3886-3896
5)Journal of Immunology 2015;195:3033-3044

【今後の展望】
本研究により、IgG4関連疾患・自己免疫性疾患の診断、疾患活動性の指標として、血清「I型インターフェロン」「インターロイキン33」が有用であることが明らかになりました。「I型インターフェロン」「インターロイキン33」の制御を用いた、IgG4関連疾患・自己免疫性膵炎の新規治療法の開発が期待されます。

【用語解説】
※1 IgG4関連疾患:抗体の一つであるIgG4の増加を特色とする免疫疾患。膵臓、唾液腺、肺、腎臓などの様々な臓器に異時性・多発性に臓器障害を起こす。本邦から提唱された新たな疾患であり、世界的に大きな注目を集めている。

※2 自己免疫性膵炎:自分の膵臓の組織を自己の免疫システムが攻撃して、生じる膵炎。IgG4関連疾患の発見により、自己免疫性膵炎の大半はIgG4関連疾患が膵臓に生じたものであることが判明した。

※3 バイオマーカー:疾患の診断や活動性・病勢の判断に役立つ臨床現場での指標。血液や組織を用いた検査項目をバイオマーカーとして使用する。

※4 I型インターフェロン:細胞から分泌されるタンパク質であるサイトカインの一種。微生物感染、特にウイルス感染の場合に多く産生され、微生物感染の際の免疫防御に重要な役割を果たしている。その一方で、非感染時に多く産生されると、免疫疾患を引き起こす。

※5 インターロイキン33:細胞から分泌されるタンパク質であるサイトカインの一種。炎症、アレルギー、組織が異常増殖する現象である線維化に重要な役割を果たす。

※6 形質細胞様樹状細胞:I型インターフェロンの産生に特化した免疫細胞の一種。ウイルスに対する免疫防御に重要な役割を果たす。非感染時に活性化されると、IgG4関連疾患や全身性エリテマトーデスなどの免疫疾患を引き起こす。

※7 サイトカイン:主に免疫細胞が分泌するタンパク質。免疫反応を活性化したり、抑制したりする作用を有する。

※8 免疫グロブリン:血液や組織に存在する抗体。IgA, IgD, IgE, IgG, IgMの5種類があり、IgGはIgG1, IgG2, IgG3, IgG4の4種類にさらに細分化される。

【関連リンク】
医学部 医学科 准教授 渡邉 智裕 (ワタナベ トモヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1505-watanabe-tomohiro.html
医学部 医学科 講師 山雄 健太郎 (ヤマオ ケンタロウ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1826-yamao-kentaro.html
医学部 医学科 講師 竹中 完 (タケナカ マモル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2247-takenaka-mamoru.html
医学部 医学科 教授 工藤 正俊 (クドウ マサトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html
医学部 近畿大学病院 准教授 千葉 康敬 (チバ ヤスタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/707-chiba-yasutaka.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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