オンデマンド授業「今後も受講したい」学生78.7% 視聴速度と成績評価の相関は見られず
近畿大学(大阪府東大阪市)は、デジタルトランスフォーメーション(ICTを活用し、教育・研究・働き方を変革し続けること)の一環として、授業のオンデマンド化を進めており、令和3年(2021年)4月から「KICS(KIndai Creative Studio)オンデマンド授業」を開講しています。令和4年度(2022年度)は全キャンパスの学生を対象に共通教養科目(一般教養科目)24科目、学部基礎科目3科目、合計27科目を開講しており、令和6年度(2024年度)までに共通教養科目(一般教養科目)26科目、学部基礎科目3科目、合計29科目の開講をめざしています。なお、オンデマンド授業と対面授業を開講し、学生は自身に合った形式の授業を選択することも可能(一部科目はKICSオンデマンド授業のみ開講)です。
このたび、令和4年度(2022年度)前期KICSオンデマンド授業の履修者7,080人を対象に、授業評価アンケートを実施しました。その結果、今後別の科目で、「KICSオンデマンド授業」「リアルタイムのオンライン授業」「対面授業」を選択できる場合、「KICSオンデマンド授業を受講したい」と回答した学生が78.7%にのぼり、KICSオンデマンド授業の満足度の高さがうかがえる結果となりました。また、動画を視聴する際に倍速機能(1.25倍速or1.5倍速)を使用した学生は48.5%でした。授業の質の向上および成績との関連性の分析のため、令和4年度(2022年度)前期KICSオンデマンド授業の履修者7,080人のログ分析を実施し、令和3年度(2021年度)の授業評価アンケート結果を含めて検証したところ、視聴速度と成績評価に相関は見られませんでした。
【本件のポイント】
●令和4年度(2022年度)前期KICSオンデマンド授業履修者を対象に授業評価アンケートを実施
●「今後もKICSオンデマンド授業を受講したい」と回答した学生は78.7%
●倍速機能を使用した学生は48.5%で、視聴速度と成績評価との間に相関は見られず
【KICSオンデマンド授業】
近畿大学は、ニューノーマル時代の新たな教育の提供、ならびにポストコロナを見据えた学修環境の整備をめざして、授業のオンデマンド化(動画コンテンツ等を配信し、いつでもどこでも授業を受講できる形式)を推進しています。令和3年(2021年)2月に、高品質な授業を継続的に制作するため、音響・動画処理の設備を揃えたスタジオ「KICS(KIndai Creative studio)」を東大阪キャンパス内に2部屋設置し、平成26年度(2014年度)から先行してオンデマンド授業を開講している通信教育部の知見を生かしながら、通学課程の学生向けオンデマンド授業の制作を進めてきました。
学生は授業動画を視聴し、毎回行われる確認テストで理解度をチェックします。テストで満点をとれば次の回の授業を受講することができるシステムで、確認テストは満点を取るまで何度でも受けることができます。なお、YouTubeを筆頭に多くの配信サイトでも標準機能とされているため、受講の際には倍速機能を利用できるようにしています。令和3年度(2021年度)は東大阪キャンパスと奈良キャンパスの学生を対象に、共通教養科目(一般教養科目)14科目、学部基礎科目1科目、合計15科目を開講し、令和4年度(2022年度)は全キャンパスの学生を対象に共通教養科目(一般教養科目)24科目、学部基礎科目3科目、合計27科目を開講しており、令和6年度(2024年度)までに共通教養科目(一般教養科目)26科目、学部基礎科目3科目、合計29科目の開講をめざしています。なお、オンデマンド授業と対面授業を開講し、学生は自身に合った形式の授業を選択することも可能※ です。
※ 共通教養科目(一般教養科目)のうち、令和3年度(2021年度)の1科目、令和4年度(2022年度)の5科目はKICSオンデマンド授業のみ開講
【授業評価アンケート概要】
対象者 :令和4年度(2022年度)前期KICSオンデマンド授業履修者 7,080人
対象学部 :情報、法、経済、経営、理工、建築、薬、文芸、総合社会、国際、農、工、産業理工、短期大学部
※ 医学部・生物理工学部を除く全学部
回答者数 :1,237人(回答率17.5%)
実施期間 :令和4年(2022年)7月16日~7月25日
前期授業期間:令和4年(2022年)4月18日~8月6日
質問事項 :
(1)動画を視聴する際、倍速機能は使用しましたか。
(2)質問や意見に教員は適切に対応してくれましたか。
(3)今後別の科目で、「KICSオンデマンド授業」、「リアルタイムのオンライン授業」、「対面授業」を選択できる場合、どれを選択しますか。
<参考>※ 比較のために昨年度の結果も紹介しています。
令和3年度(2021年度)授業評価アンケート概要
対象者 :令和3年度(2021年度)前期KICSオンデマンド授業履修者 1,912人
対象学部 :法、経済、経営、理工、建築、薬、文芸、総合社会、国際、農、短期大学部
回答者数 :371人(回答率19.4%)
実施期間 :令和3年(2021年)7月16日~7月28日
前期授業期間:令和3年(2021年)4月19日~8月7日
【アンケート結果】
(1)動画を視聴する際、倍速機能は使用しましたか。
(2)質問や意見に教員は適切に対応してくれましたか。
(3)今後別の科目で、「KICSオンデマンド授業」、「リアルタイムのオンライン授業」、「対面授業」を選択できる場合、どれを選択しますか。
【ログ分析結果】
対象者 :令和4年度(2022年度)前期KICSオンデマンド授業履修者 7,080人
集計期間:令和4年(2022年)4月18日~8月6日
(1)使用しているデバイスについて
使用しているデバイスは以下の通りで、Windowsが半数を占めました。
(2)視聴状況と成績の関係について
成績ごとの視聴完了までの平均日数から分析したところ、成績が優秀なほど視聴完了までの日数が短いことがわかりました。
なお、令和3年度(2021年度)は視聴期限を設けませんでしたが、令和4年度(2022年度)は2週間の視聴期限を設け、2週間を過ぎて視聴した場合は欠席扱い※ としました。
※ 欠席扱いにはなるが、動画の視聴は前期終了時まで可能
(3)視聴時間について
どの時間帯に視聴している学生が多いかを分析したところ、23時台が一番多いという結果が出ました。令和3年度(2021年度)は、メンテナンス作業のため2時~4時は動画の視聴ができませんでしたが、学生からの要望が多数あり、令和4年度(2022年度)からは、24時間視聴可能となるようにシステム改修を行いました。
【情報学部情報学科准教授 越智 洋司(教育情報工学専門)による総括】
コロナ禍により、メディア授業が一般的に導入されて3年目を迎えた今期においても、「KICSオンデマンド」へのニーズが、「リアルタイムのオンライン授業」や、「対面授業」よりも高いという事実は、単なる珍しさといった一過性のものでなく、学生のニーズに合った実用性のある受講形態であることを示しています。
学生の受講スタイルを見てみると、動画を視聴する速度が成績に関係しないというのは、先行研究からも報告されており、改めてそれを裏付ける結果となりました。一方、視聴完了までの日数と成績については、令和3年度(2021年度)と令和4年度(2022年度)のいずれにおいても成績評価の高い学生ほど早く視聴を終えており、早めに講義に取り組むという学習姿勢が成績に関与していることが示唆されます。
学生の受講時間帯については日中から夜にかけて、ほぼ均一になっています。今年度より2時~4時の時間帯に視聴できるようにしたことにより、その時間のログイン数は3,107件と多く、深夜帯にも一定の需要があることが判明しました。23時にピークがあり、0時になると半減しているのは、「就寝前には終わらせたい」という意識や、期限前の駆け込み的な視聴ということに関係しているのかもしれません。いずれにせよ、「時間がある時に自由に視聴できる」というオンデマンド授業の良さが生かされていることがわかり、学習時間帯を含めた学習習慣が成績にどのように関与するかは、今後さらなる調査をすすめ、学生への履修指導へとつなげていくことが求められるでしょう。
動画を視聴する際のデバイスは、WindowsやMacなどのPC利用が半数以上ですが、スマートフォンの利用率が一定の割合で見られます。移動時間や隙間時間などの活用のほか、スマートフォンで動画を見ながら、PCで資料確認やノートテイク、課題を遂行するといった二刀流の使い方をする学生も近年増えており、様々な機器で視聴できるようにすることは、多様な受講スタイルをサポートする上で必須の条件といえるでしょう。
一方で、オンデマンド授業の弱みであるともいえる、教員とのやり取り面に関しては、ポジティブ回答が61.6%と、対面授業やリアルタイムのオンライン授業と比較すると低い結果となっていますが、令和4年度(2022年度)後期から、「よくある質問集」の作成やSlackのチャットボットを導入したことにより、教員と学生とのやりとりの機会を増やし、質問しやすい環境を整備するなどの満足度向上を目指しており、どの程度活用されるか期待されるところです。
【関連リンク】
情報学部 情報学科 准教授 越智 洋司(オチ ヨウジ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/464-ochi-youji.html