レアアースをベースにしたCPL発光体を開発 3D表示用有機ELディスプレイなどの製造コスト削減に期待

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科の准教授 今井喜胤(いまいよしたね)らの研究グループは、映画館などで3D立体映像を映し出す際に使われる、「円偏光」を発するCPL※1 発光体を開発しました。この発光体は、レアアースの一種であるユーロピウム※2 をベースとしており、溶液の種類に応じて、光の回転方向を制御することができるという特徴を持っています。このたび、本件に関する論文が、イギリスの学術機関「王立化学会(RSC)」が発刊する『Dalton Transactions(ダルトン トランザクションズ)』の電子版に平成29年(2017年)3月14日(火)に掲載されました。
※1 CPL…Circular Polarized Luminescence 円偏光発光
※2 ユーロピウム…レアアースに分類される銀白色の金属で、蛍光インクや半導体に使われる

【本件のポイント】
●面不斉※3 の分子を導入したユーロピウムCPL発光体の開発に、世界で初めて成功
●溶液の種類によって光の回転方向が制御可能で、1つの発光体で左・右回転の円偏光を出せるため、3D表示用有機ELディスプレイなどのコスト削減に期待
●光の色を自在に変えられる、新しいランタノイド※4 CPL発光体の開発に突破口を開いた
※3 面不斉…分子内のある面の表と裏で原子配列が異なり、右手と左手の関係のように、自身の鏡像と重なり合わない性質
※4 ランタノイド…レアアースのうち、原子番号57(ランタン)~71(ルテチウム)の15元素の総称

【本件の概要】
特定の方向に振動する光を「偏光」、そのうち振動方向が直線状のものは「直線偏光」、らせん状に回転するものは「円偏光」と呼ばれています。円偏光は、3D表示用有機ELディスプレイなどに使用される新技術として注目されています。多くの発光体は直線偏光であるため、フィルターを用いて円偏光に変換していますが、フィルターを通すことで光強度が減少し、エネルギー効率が悪化するため、CPL発光体の開発が期待されています。
研究グループは、レアアースの一種であるユーロピウムの中心原子に、面不斉の分子を結合させることで、赤色の円偏光を発するCPL発光体となることを発見しました。この発光体は、光の回転方向が、クロロホルム溶液を用いると左回転、アセトン溶液を用いると右回転となる特徴があります。将来的には、左右の回転どちらも必要とする3Dディスプレイなどの製造コストの削減およびエネルギー効率の改善が期待されます。
今後は、今回の研究を発展させ、ベースとなる元素を他のランタノイドに入れ替えるだけで光の色を自在に変えられる、新しいランタノイドCPL発光体の開発に取り組みます。
なお、本研究は文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択された「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の一環です。

【掲載誌】
◆雑誌名・・・『Dalton Transactions』
       イギリスの学術機関発刊
       インパクトファクター4.177(平成28年版)
◆論文名・・・“Complexes of Eu(III)(hfa)3 with a planar chiral P(III) ligand (Phanephos):solvent-sensitive sign inversion of circularly polarised luminescence”
◆著 者・・・Yuki Kono, Nobuyuki Hara, Motohiro Shizuma, Michiya Fujiki and Yoshitane Imai

【研究の詳細】
発光性ユーロピウム(Eu)錯体に、光学活性な配位子として面不斉を備えたジフェニルホスフィン配位子Phanephosを配位させることにより、赤色の円偏光を発する新しいユーロピウムCPL発光体の開発に成功しました。面不斉を備えたジフェニルホスフィン配位子Phanephosとユーロピウム錯体Eu(III)(hfa)3(H2O)2をクロロホルム溶液中、あるいはアセトン溶液中で混合することにより、新しいユーロピウムCPL発光体の開発に成功し、ユーロピウムのf-f遷移に由来する赤色の円偏光発光を確認しました。興味深いことに、同じR体のパラシクロファン骨格を用いているにもかかわらず、589nm付近の円偏光発光は、クロロホルム溶液中では左回転、アセトン溶液中では右回転となり、溶液の種類を変えるだけで、光の回転方向を制御できることを発見しました。

【今後の展望】
円偏光発光(CPL)に関しては、最近、様々な利用法が検討されていますが、CPLを生み出す高輝度・高円偏光度(高い光の回転度)を備えた有機CPL発光体は、まだ開発途上段階であり、円偏光を発する新しい手法についても試行錯誤が続いています。
今回の研究により、光学活性な配位子として面不斉を備えた配位子が、CPL発光体に利用できることを見出しました。今後、ユーロピウム以外のランタノイド金属、Phanephos以外の面不斉を備えたジフェニルホスフィン配位子を用い、新しい面不斉を導入したランタノイドCPL発光体の開発を試みます。さらに、多彩な機能を持った円偏光発光体の作出や、高輝度・高円偏光度の円偏光発光体の開発を進めていきます。

【研究者プロフィール】
近畿大学 理工学部 応用化学科 准教授 今井 喜胤(いまい よしたね)
研究テーマ:円偏光発光(CPL)特性を有する機能性発光体の開発
専   門:有機光化学、不斉化学、超分子化学
平成12年(2000年)  大阪大学大学院工学研究科分子化学専攻博士後期課程修了
           博士(工学)
           JST博士研究員
平成16年(2004年)  近畿大学理工学部応用化学科助手
平成21年(2009年)  同講師
平成27年(2015年)  同准教授

【「太陽光利用促進のためのエネルギーベストミックス研究拠点の形成」の概要】
■研究内容
太陽光エネルギーを利用して水素ガスやメタノールといった1次エネルギー物質を生成する際に必要不可欠とされるソーラー触媒の開発や人工光合成における化学的機能の開拓(研究テーマ1)を推進します。同時に、ウェアラブル端末などに広く利用可能な薄膜太陽電池における光電変換効率の高効率化(研究テーマ2)、さらには、光磁気機能を駆使した省エネルギー記憶媒体に関わる基盤的物質の創成(研究テーマ3)を目指します。

■プロジェクトの波及効果
東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、わが国のエネルギー政策は歴史的な転換期にあり、利用可能なエネルギー資源の特徴を生かしつつ各々を効果的に運用していくための施策を必要としています。その際、立ち遅れの目立つ太陽光エネルギー利用についても可能性をポジティブに評価したうえで有効に活用していく必要があります。太陽光エネルギー利用の可能性を最大限に引き出すための基盤的研究を推進します。

■プロジェクトの将来と人材育成
総合理工学研究科・理工学部の教員16人の参画を得て発足した本研究プロジェクトは将来的に近畿大学における原子力、火力、太陽光研究をゆるやかに束ねる総合エネルギー研究開発拠点として社会基盤の整備等に関して科学的見地から発信力を強化していくことを目指します。また、活動を通じて優れた人材の育成に力を尽くします。

【関連リンク】
理工学部応用化学科 准教授 今井 喜胤(イマイ ヨシタネ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html

研究の詳細
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