連合調べ 「会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要」 認知率は5割半ば、20代では半数を下回る結果に
~36協定に関する調査2017~
労働時間に対する社会的関心が高まる中、日本労働組合総連合会(略称:連合、所在地:東京都千代田区、会長:神津 里季生)は、「36協定」を周知する活動を行っています。その一環として、時間外労働の実態や36協定の締結状況、認知状況を把握するため、2017年6月6日~6月8日の3日間、「36協定に関する調査」を、インターネットリサーチにより実施し、全国の20歳~65歳で働いている人(自営業・自由業、パート・アルバイト除く)1,000名の有効サンプルを集計しました。
[調査結果]
時間外労働の実態
◆「残業を命じられることがある」6割強、20代男性では8割に
◆1ヶ月の残業時間 平均22.5時間、最も平均時間が長いのは運輸業で33.6時間
全国の20歳~65歳で働いている人(自営業・自由業、パート・アルバイト除く)1,000名(全回答者)に、残業を命じられることがあるか、ないかを聞き、残業を命じられることがある人には1ヶ月の残業時間を聞きました。
まず、残業を命じられることがあるか、ないかをみると、「残業を命じられることがある」が62.5%、「残業を命じられることはない」が37.5%となりました。
男女別にみると、「残業を命じられることがある」は、男性68.2%、女性54.7%と、男性のほうが13.5ポイント高くなりました。
また、性年代別にみると、「残業を命じられることがある」は、男性では、若い年代ほど高く、20代男性は80.6%、30代男性は78.1%と、20代男性、30代男性では8割前後になりました。女性でも若い年代のほうが高い傾向がみられ、20代女性では59.6%、30代女性では64.8%でした。
次に、残業を命じられることがある人(625名)の1ヶ月の残業時間をみると、「10時間未満」が40.2%で最多回答になりましたが、「60時間以上」といった特に長い時間の回答も6.9%みられ、平均残業時間は22.5時間でした。
男女別に平均残業時間をみると、男性では26.2時間、女性では16.3時間となりました。
また、性年代別に平均残業時間をみると、男性では、20代が23.7時間、30代が26.2時間、40代が28.4時間と40代までは年代が上がるほど長くなる傾向がみられました。一方、女性では、年代が上がるほど短くなる傾向がみられ、20代が22.4時間、30代17.1時間、40代14.1時間、50代11.9時間となりました。
そして、業種別(※1)に平均残業時間をみると、運輸業(33.6時間)が最も長く、次いで、金融・保険業(27.4時間)、サービス業(25.5時間)、建設業(25.0時間)、製造業(23.8時間)の順で続きました。
※1 n数が30以上の業種のみ分析対象とした、以下同様。
◆残業を減らすための取り組み 「何も行われていない」が4割半ば、サービス業では6割に
◆労働時間の管理方法 「タイムレコーダーによる管理」約3割 「自己申告による管理」2割
それでは、残業を減らすための取り組みは、行われているのでしょうか。
全回答者(1,000名)に、勤め先では、残業時間を減らすために、どのような取り組みが行われているか聞いたところ、「ノー残業デーの導入」が30.5%で最も多く、「残業の事前申請制度の導入」が15.4%、「上司からの声かけ」が13.5%で続きました。また、「何も行われていない」は46.6%でした。
業種別にみると、「何も行われていない」が高かったのは、サービス業と卸売・小売業、医療・福祉で、サービス業では59.4%、卸売・小売業と医療・福祉ではそれぞれ57.0%となりました。他方、「何も行われていない」が比較的低くなったのは公務と金融・保険業で、公務では22.8%、金融・保険業では35.6%でした。
また、全回答者(1,000名)に、勤め先で行われている労働時間(出退勤の状況等)の管理方法を聞いたところ、「タイムレコーダーによる管理」が最も多く28.6%、次いで、「自己申告による管理」が20.2%、「PCによる管理(ログイン・ログオフの時刻による管理)」が12.9%、「ICカードによる管理」が12.2%、「出勤簿への記名・押印」が10.1%で続きました。厚生労働省の指針では、使用者が自ら現認し記録するか、タイムカード・ICカード等の客観的な記録が原則とされていますが、「自己申告による管理」が2割となっており、労働時間の管理方法の見直しが必要な職場が少なくない様子が窺えました。
◆「出勤日でない日に出勤することがある」3割、教育・学習支援業では5割強
◆「持ち帰り残業をすることがある」2割、教育・学習支援業では4割強
続いて、全回答者(1,000名)に、出勤日でない日に出勤することが1ヶ月に何日くらいあるか聞いたところ、「出勤日でない日に出勤することはない」が69.2%でしたが、「1日」が14.1%、「2~3日」が11.6%、「4~5日」が2.7%、「6日以上」が2.4%となり、『ある(計)』は30.8%となりました。
業種別に、『ある(計)』をみると、最も高くなったのは教育・学習支援業で52.4%、次いで、運輸業が40.8%、公務が38.6%、金融・保険業が37.0%、建設業が35.2%で続きました。
さらに、在宅勤務をしている人を除いた980名に、仕事を自宅に持ち帰ることはあるか聞いたところ、「ほぼ毎日している」が4.0%、「よくある」が5.2%、「ときどきある」が11.1%で、合計した『ある(計)』は20.3%で持ち帰り残業をしている人は5人に1人の割合となりました。
業種別に『ある(計)』をみると、最も高くなったのは教育・学習支援業で41.5%でした。教育・学習支援業は、休日出勤だけではなく、持ち帰り残業をする人の割合も他の業種に比べて高いようです。
36協定の締結状況・周知状況
◆「会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要」 認知率は5割半ば、20代では半数を下回る結果に
◆勤め先が36協定を「締結している」4割半ば、「締結していない」2割弱、「締結しているかどうかわからない」4割弱
まず、全回答者(1,000名)に、会社が残業を命じるには、労働者の過半数を組織する労働組合(ない場合は、過半数を代表する者)との間で労使協定(いわゆる36協定)を結んでおく必要があることを知っているか、知らないか聞いたところ、「知っている」が56.5%、「知らない」が43.5%となりました。会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要であることを知っていたという人の割合は2014年調査時の39.4%から上がったものの、いまだ4割以上の人には認知されていないことがわかりました。
男女別にみると、「知っている」は男性では62.8%と6割を超えましたが、女性では47.9%と半数を下回る結果となりました。
また、年代別にみると、20代では「知っている」が49.2%と僅かに半数を下回った一方、60代では71.6%と7割を超えました。
次に、全回答者(1,000名)に、勤め先が36協定を締結しているか聞いたところ、「締結している」は45.2%、「締結していない」が17.2%、「締結しているかどうかわからない」が37.6%となり、「締結している」との回答は半数を下回る結果となりました。また、「締結しているかどうかわからない」という人が4割近くと少なくないことが明らかになりました。36協定を締結していても周知義務を守っていないケースもあるのではないでしょうか。
業種別にみると、「締結している」が半数を上回ったのは、運輸業(65.3%)、製造業(55.6%)、金融・保険業(52.1%)、情報通信業(52.0%)の4業種だけでした。他方、建設業や卸売・小売業では「締結していない」が、それぞれ29.6%、28.0%と約3割になりました。
◆労働者側の協定締結当事者 約4割が「過半数で組織されている労働組合」
◆過半数代表者の選出方法 「挙手または投票により選出している」が最多
◆36協定の周知 「周知されていない」が1割半ば、どのように周知されているか「わからない」は2割強
続いて、勤め先が36協定を締結している452名に、労働者側の協定締結当事者について質問をしました。
まず、誰が36協定を使用者(会社など)との間で締結したか聞いたところ、「過半数で組織されている労働組合」が38.7%、「労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)」が29.0%、「わからない」が32.3%となりました。過半数で組織されている労働組合が協定締結当事者になっているという人が多いようです。また、誰が使用者との間で36協定を締結したかがわからないという人も3人に1人の割合となりました。
次に、労働者側の協定締結当事者が“労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)”である131名に、過半数代表者の選出方法を聞いたところ、「挙手または投票により選出している」が35.9%、「会社からの指名により選出している」が25.2%、「一定の役職者が自動的に就任している」が14.5%となり、適切な選出方法である「挙手または投票」による選出はわずか3分の1強にとどまりました。不適切な方法で選出された過半数代表者と締結した36協定は法的に無効となるため、過半数代表者の選出方法を見直す必要がある職場は多いようです。
そして、勤め先が36協定を締結している452名に、勤め先では36協定をどのような方法で周知を図っているか聞いたところ、「社内に掲示されている」が31.4%で最も多く、次いで、「イントラネットで閲覧できるようになっている」が28.1%、「担当部署(総務課など)に行けば閲覧できる」が18.4%となりました。他方、「周知されていない」が14.4%、「わからない」が21.5%となりました。周知義務が守られていないケースや周知が不十分なケースも多いようです。
働き方・労働時間に対する考え
◆プライベート時間vs給料 「給料が少なくても、プライベートの時間を確保できるほうがよい」が6割強
◆プライベート時間vsやりがい 50代男性では「労働時間が長くても、やりがいが多いほうがよい」が多数派に
◆心身の健康に支障をきたすと感じる1ヶ月の残業時間 平均46.2時間
◆勤務間インターバル制度導入の必要性は? 「導入すべき」が約4割で「導入の必要はない」の2倍に
また、働き方や労働時間に対する考えも聞いてみました。
全回答者(1,000名)に、働き方に関して、自身の考えは【A】と【B】のどちらに近いかを聞きました。
まず、《【A】給料が少なくても、プライベートの時間を確保できるほうがよい【B】労働時間が長くても、給料を多くもらえるほうがよい》についてみると、『Aに近い(計)』は62.4%(「非常にAに近い」17.5%、「ややAに近い」44.9%)、『Bに近い(計)』は37.6%(「非常にBに近い」6.8%、「ややBに近い」30.8%)となりました。給料が多いことより、プライベートの時間を確保できることのほうがよいと考えている人が多いようです。
性年代別にみると、男性では、50代までは年代が上がるほど『Aに近い(計)』(プライベートの時間を確保できるほうがよいと考える人の割合)は低下し、『Bに近い(計)』(給料を多くもらえるほうがよいと考える人の割合)が上昇しており、50代男性では、“プライベートの時間を確保できるほうがよい”と考える人の割合(51.5%)と“給料を多くもらえるほうがよい”と考える人の割合(48.4%)が拮抗する結果となりました。
次に、《【A】やりがいが少なくても、プライベートの時間を確保できるほうがよい【B】労働時間が長くても、やりがいが多いほうがよい》についてみると、『Aに近い(計)』は62.5%(「非常にAに近い」20.1%、「ややAに近い」42.4%)、『Bに近い(計)』は37.5%(「非常にBに近い」6.2%、「ややBに近い」31.3%)となりました。やりがいが多いことより、プライベートの時間を確保できることのほうがよいと考えている人が多いようです。
性年代別にみると、30代男性と20代女性では『Aに近い(計)』(プライベートの時間を確保できるほうがよいと考える人の割合)が他の性年代層より高く30代男性では75.9%、20代女性では74.2%でした。他方、50代男性では、『Aに近い(計)』(プライベートの時間を確保できるほうがよいと考える人の割合)が49.2%、『Bに近い(計)』(やりがいが多いほうがよいと考える人の割合)が50.7%となり、僅かではあるものの“やりがいが多いほうがよい”と考える人の割合のほうが高くなりました。
また、全回答者(1,000名)に、自身の心身の健康に支障をきたすと感じる1ヶ月の残業時間を聞いたところ、「30時間未満」が38.2%、「30時間~60時間未満」が29.0%、「60時間~80時間未満」が17.8%、「80時間~100時間未満」が7.9%、「100時間以上」が7.1%となり、平均時間は46.2時間となりました。
男女別に平均時間をみると、男性では52.1時間、女性では38.1時間でした。
また、性年代別に平均時間をみると、男性では、20代44.5時間、30代54.7時間、40代59.3時間と40代までは年代が上がるほど長くなり、最も短い20代と最も長い40代では15時間近くの開きがみられました。
そして、全回答者(1,000名)に、勤務間インターバル制度について、どのような制度か説明(※2)をした上で、自分の職場に導入すべきだと思うか聞いたところ、「導入すべき」が38.2%、「導入の必要はない」が19.5%で、導入するべきだと考えている人のほうが多い結果となりました。また、「わからない」は42.3%でした。
業種別にみると、「導入すべき」が最も高くなったのは建設業で46.5%、次いで、教育・学習支援業が45.2%、金融・保険業が43.8%、運輸業が42.9%で続きました。平均残業時間が長い業種でより勤務間インターバル制度の導入が望まれる傾向がみられました。
※2 「勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了時から翌日の始業時間まで、一定時間以上の休息時間を設けることで、働く人の生活時間や睡眠時間を確保する制度」と説明
[今回の調査に関する見解 (白河桃子 相模女子大学客員教授)]
36協定を結ばず長時間労働をさせている企業が多い。その実態がこの調査でよくわかります。「勤め先が36協定を『締結している』4割半ば」という数字は、締結せずに強いられる違法残業が多く、労働時間についての経営サイドの遵法意識が低いことがよくわかります。しかし労働者サイドも「『締結しているかどうかわからない』4割弱」ですから、「自分を守る安全な労働環境」についての意識が低いことがわかります。
2016年9月から2017年3月の「働き方改革実現会議」の議論で、長い間実現しなかった「時間外労働の上限」が70年ぶりの労基法上の改正で実現する運びとなりました。制限速度のない高速道路のような日本の働き方に初めて制限速度ができたのです。しかし、日本の労働時間が「青天井」であることは、昨年からの『働き方改革』関連の報道で初めて広く知られるようになったことです。「36協定」という言葉が新聞やテレビのワイドショーでも散見されるようになりました。それでも「『会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要』の認知率は5割半ば」です。
「長時間労働だ」と嘆く人も「御社の36協定の特別条項は何時間ですか?」と訪ねると「さあ」という反応でした。
そして、働き方改革でまずやらなければならないことは、「経営サイド」はしっかりと「実労働時間」を把握して、正当な賃金を払うこと。残念ながら、「『自己申告による管理』が2割」なので、厚労省の実労働時間の使用者による把握をうながすガイドラインも守られていないようです。持ち帰り残業も制度外のテレワークとなれば、サービス残業として対価が払われていません。
「労働時間」への問題意識が高まっている今、労働者サイドはまず「36協定の有無」や「特別条項が何時間か」「自分が違法な労働をさせられていないか」をチェックしてほしいですね。
今後はぜひ労使ともに「働き方改革」「残業上限」をチャンスととらえて、「労働時間」という資源に注目してほしい。ただの残業削減ではなく、これは「労使の関係」を新しいものにする「きっかけ」にもなると思います。
そして、若手や学生がワークルールに対して無防備なまま社会に出ないよう、今後とも、このような啓発活動をぜひ継続してほしいと思います。