日本人における高悪性度前立腺がんに特徴的な腸内フローラを発見 前立腺がんの予防及び診断につながることに期待

腸管と腸内フローラ(イメージ)
腸管と腸内フローラ(イメージ)

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)泌尿器科学教室准教授の藤田 和利らの研究チームは、大阪大学大学院医学系研究科(大阪府吹田市)との共同研究により、日本人の悪性度の高い前立腺がん患者に特徴的な腸内フローラ※1 を発見しました。本研究成果によって、この腸内フローラが前立腺がんの増殖を引き起こすことが示唆され、今後、前立腺がんの予防や診断に応用されることが期待されます。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)7月6日(火)に、日本癌学会発行の腫瘍学を取り扱う国際雑誌"Cancer Science"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●日本人における高悪性度の前立腺がんの特徴となる腸内フローラを発見し、解析に成功
●腸内フローラが作り出す「短鎖脂肪酸※2」という物質を産生する細菌が、前立腺がん患者の便中に多いことを発見
●腸内細菌がヒトの高悪性度の前立腺がんに関係していると判明したことで、今後の予防や新たな治療法への応用に期待

【本件の背景】
前立腺がんは、近年高齢化とともに発症数が増加し、国内では男性で最も多いがんとなりました。食生活と密接に関連するがんでもあり、日本における近年の罹患率上昇は、欧米型食生活の普及が一因であると言われています。一方、腸内フローラやその代謝産物は、大腸がんなどの様々な疾患に関与することが最近報告されており、新たな治療ターゲットとして脚光を浴びています。
これまでに、前立腺がん患者は特異な腸内フローラを持つことが米国で報告されており、腸内フローラと前立腺がんの関連が示唆されてきました。(論文1)
また、本研究チームは、前立腺がんモデルマウスに高脂肪食を投与して肥満になると、前立腺がんの増殖が促進されることを報告しました。最近の研究では、高脂肪食マウスに抗生物質を投与して腸内フローラを変化させると、前立腺がんの増殖が抑制されることを発見しました。(論文2)
腸内フローラは人種、地域、食生活により大きく異なることが知られており、外国人の腸内フローラと日本人のそれとでは大きく異なる可能性があります。そのため、日本人における検証が必要とされてきました。
(引用論文)
1.Metabolic Biosynthesis Pathways Identified from Fecal Microbiome Associated with Prostate Cancer.(https://doi.org/10.1016/j.eururo.2018.06.033
2.Gut microbiota-derived short-chain fatty acids promote prostate cancer growth via IGF-1 signaling.(DOI:10.1158/0008-5472.CAN-20-4090)

【本件の内容】
藤田 和利らの研究チームは、前立腺がん疑いの日本人から大便を採取し、腸内細菌の遺伝子を解析しました。その結果、高悪性度の前立腺がんに特徴的な腸内フローラが検出され、この腸内フローラが前立腺がんの増殖を引き起こすことが示唆されました。今後、これらの腸内フローラの原因となる食生活などの生活習慣を調べ、生活習慣の改善や腸内フローラの改善により、前立腺がんの発症の予防や進行を抑えることができると期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:Cancer Science(インパクトファクター:6.716@2020)
論文名:
The gut microbiota associated with high-Gleason prostate Cancer
(高グリソン前立腺癌に関係する腸内細菌叢)
https://doi.org/10.1111/cas.14998
著 者:
松下 慎1、藤田 和利1,2、元岡 大祐3、波多野 浩二1、深江 彰太4、川村 憲彦5、冨山 栄輔1、林 裕次郎1、坂野 恵里2、高尾 徹也5、高田 晋吾4、谷内田 真一6、植村 天受2、中村 昇太3、野々村 祝夫1
※ 責任著者:藤田 和利
所 属:
1.大阪大学大学院医学系研究科 泌尿器科学
2.近畿大学医学部泌尿器科学教室
3.大阪大学微生物病研究所遺伝情報実験センター感染症メタゲノム研究分野
4.大阪警察病院泌尿器科
5.大阪府立急性期総合医療センター
6.大阪大学大学院医学系研究科 がんゲノム情報学

【本件の詳細】
研究チームは今回の研究で、大阪に住む152人の前立腺がん疑いの日本人から大便を採取し、腸内細菌の遺伝子を解析して、高悪性度の前立腺がんに特徴的な腸内フローラの検出を行いました。
まず初めに、114人の便を用いて調べたところ、リケネラ、アリスティペス、ラクノスピラなどの細菌が、高悪性度の前立腺がんで多く含まれていることが明らかになりました。これらの細菌は短鎖脂肪酸を産生することが知られており、マウスを用いた以前の研究と同様に、ヒトでも短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が前立腺がんに影響を及ぼしている可能性が示唆されました。
また、18種類の細菌から得られた、便中に含まれる細菌前立腺指標※3(FMPI:Fecal microbiome prostate index)の高悪性度前立腺がんの診断能は、検査の正確性を判断する指標において、感度81%、特異度66%と、前立腺がんを早期に発見するための検査であるPSA検査※4(PSA:Prostate-specific antigen)よりも有用でした。
また、検証用の残り38人でも調べたところ、FMPIの高悪性度の前立腺がん診断能は感度79%、特異度63%で、PSA検査よりも有用であることが再確認できました。がん判別の指標となるAUC指標(AUC:Area under the Curve)は0.85ポイントで、PSA検査のAUC0.74ポイントよりも高く、有用でした。
このことから、前立腺がん発症モデルマウスと同様の腸内細菌がヒトでも高悪性度の前立腺がんに関係しており、前立腺がんが発症進展する原因となる可能性が示唆されました。
今後、これらの腸内フローラの原因となる食生活などの生活習慣を調べ、生活習慣の改善や腸内フローラの改善により、前立腺がんの発症の予防や進行を抑えることが期待されます。

【用語解説】
※1 腸内フローラ(腸内細菌叢):ヒトの腸内に40兆もの細菌が形成する細菌叢。次世代シークエンサーの登場により遺伝子を基にした細菌叢全体の解析が可能になったことで、飛躍的に理解が深まっている。
※2 短鎖脂肪酸:Short Chain Fatty Acid(SCFA)。酪酸、酢酸、プロピオン酸など炭素が2-4個の脂肪酸。大腸で腸内細菌により産生され、大腸癌の予防効果や糖尿病や肥満の予防効果が報告されている。
※3 細菌前立腺指標:16SrRNAシークエンスの結果から18種類の細菌量から計算される指標
※4 PSA検査:採血を行い血液中にある前立腺に特異的なタンパク質であるPSAの値を測定するスクリ―ニング検査。前立腺癌では高値を示す。

【関連リンク】
医学部 医学科 准教授 藤田 和利(フジタ カズトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2406-fujita-kazutoshi.html
医学部 医学科 教授 植村 天受(ウエムラ ヒロツグ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/748-uemura-hirotsugu.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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