野生メダカとヒメダカの生態・行動特性を解明 近畿大学農学部環境管理学科 准教授 北川 忠生らの研究成果
近畿大学農学部(奈良県奈良市)環境管理学科准教授の北川 忠生(専門:保全生物学)らは、野生のメダカと品種改良したヒメダカについて、体色の違いによって受ける生態学的な影響や、行動特性の違いについて調査を行いました。
【本件のポイント】
● メダカは、体色(黄色か黒褐色か)に関係なく産卵・交配の相手を選ぶことを確認
● ヒメダカを野外に放流してしまうと、野生メダカの遺伝的多様性を破壊し、元来の野生メダカを絶滅させてしまう可能性がある
【本件の概要】
本学農学部環境管理学科・水圏生態学研究室准教授の北川と、同研究室の大学院博士課程3年生・中尾 遼平は、野外に放流されたヒメダカの生態や行動特性について調査を行いました。ヒメダカは体色が黄色く、野生のメダカより目立ってしまうため、放流されたヒメダカはある程度捕食されてしまいます。しかし、生き残った一部のヒメダカは野生メダカの群れに混じり、繁殖に自由に参加したりすることが分かりました。
これらの結果から、ヒメダカを放流することで野生のメダカとの交配による遺伝的撹乱が進むと考えられます。市販のメダカや他の場所で採ったメダカを野外に放流してしまうと、野生メダカの遺伝的多様性は失われ、本当の意味での野生メダカは絶滅してしまう可能性があることが確認されました。
なお、本研究成果については米科学誌Journal of Experimental Zoology Part A(JEZ)7月1日号で掲載されました。
【本件の背景】
これまでにも、野生メダカについては改良品種であるヒメダカの放流等による遺伝的撹乱が問題となってきました。遺伝的撹乱とは、人の手によって生物が移入されることによって、野生生物のもつ遺伝的多様性の低下や喪失を引き起こす現象のことを指しています。しかし、メダカにおける遺伝的撹乱については、いままで遺伝学的なアプローチしかなく、撹乱の発生メカニズムについてはわかっていませんでした。
本学農学部環境管理学科の水圏生態学研究室では、水生生物やその生物が棲む環境について、遺伝学や生態学などさまざまな学問分野からアプローチして研究を行なっています。北川の研究チームでは、「野外に放流されたヒメダカが捕食圧(食べられやすさ)などの淘汰圧をどのくらい受けるのか」、「どのような流れを経て野生メダカの交配に至るのか」、といったメカニズムについて、生態学・行動学の視点から実験的に解明しました。メダカは、日本人にとって最もなじみ深い種ともいえますが、メダカにおける放流個体の影響を知ることにより、他の魚についても同様な現象が生じていることの認識につながるといえます。
【メダカ放流の影響について】
野生メダカは、豊富な遺伝的多様性をもっています。この多様性は将来起こりうる環境の変化にメダカが適応・進化するための可能性を秘めているのです。
今回の研究結果からも確認されましたが、ただ「かわいそう」という気持ちからメダカを放流してしまうと、この遺伝的多様性が失われてしまいます。ペットショップで購入したり、他の場所で採ったりしたメダカを絶対に放流してはいけません。身勝手な、または安易な気持ちからの放流が今後も続いてしまうと、全国に生息するメダカの遺伝的多様性は失われ、本当の意味での野生メダカは絶滅してしまうかもしれません。
【北川 忠生 准教授 プロフィール】
所 属:近畿大学 農学部環境管理学科 准教授 近畿大学大学院 環境管理学専攻
学 位:博士(学術)(三重大学)
専門分野:保全遺伝学
主な研究テーマ:希少魚類の保全,生物の遺伝的多様性の解析,DNA 分析による外来生物の検出
【関連リンク】
農学部 環境管理学科 准教授 北川 忠生
http://www.kindai.ac.jp/meikan/890-kitagawa-tadao.html