汚染水から放射性物質を取り除く新技術を開発!近畿大学工学部教授 井原辰彦研究チーム

近畿大学工学部(広島県東広島市)教授井原辰彦ら研究チームは、汚染水から放射性セシウム※1等の放射性物質を効率的に取り除く方法及び装置を開発し、特許出願を行いました。本装置は、電解槽に設けた多孔質アルミニウム※2からなる電極内部に、汚染水に含まれる放射性金属イオンを電気化学的に吸蔵し固着させることから、高い回収率で、しかも長期安定保存が可能な状態で放射性物質を取り除くことができます。


【本件のポイント】
●放射性セシウムの高い回収率を実現し、高濃度汚染水の処理、大規模汚染処理にも優れた除染効果を発揮
●回収した放射性物質による二次汚染を防ぐことができる
●簡単かつ便利な装置(方法)であるため、低コストでの除染処理が可能

【研究の概要】
井原ら研究チームは、劇場の吸音材等に利用されている汎用的で安価な多孔質金属パネル(空孔率48%)に着目し、多孔質アルミニウムからなる電極を用いて、セシウム水溶液からのセシウムイオンの回収について調べました。電極に電圧を加えると速やかに電気吸蔵され、その吸蔵速度は電極に加わる電圧とその電極面積に比例して増大すること、さらに多孔質アルミニウムのセシウム吸蔵能力は不可逆性(ある変化が起こってどんな条件を加えても元の状態に戻らない)であることを発見し、これらを活用した装置によって、高い回収率で、しかも長期保存が可能な状態で放射性物質を取り除ける手段の確立に成功しました。

なお今回の研究は、近畿大学が東日本大震災の復興支援として取り組んでいる「"オール近大"川俣町復興支援プロジェクト※3」の一環として行われました。

【研究の詳細】
多孔質アルミニウム電極の最大セシウム吸蔵量を調べるため、30ppmのセシウム水溶液を使用し、所定条件の下、計4回の吸蔵実験を繰り返したところ、4回とも96%以上の吸蔵値を示し,総量5.87mgのセシウムの吸蔵が確認されました。これは、計算量の6mgに対して、その97.8%が回収されたことになります。電極単位面積あたりでは、4.07GBq/cm2の放射能量に相当し,更に繰り返すことでより高い吸蔵量を発揮できます。ストロンチウム※4に対しても同等の効果が確認されました。

【今後の展望】
近畿大学が全学をあげて推進している「"オール近大"川俣町復興支援プロジェクト」において、川俣町を中心とした除染作業に活用することを目指します。また、本開発を応用すれば、除染後、電解槽から取り出した電極を粉砕して容器内に充填し、加熱・加圧することで、堅固化した状態での保管が可能になり、中間貯蔵のための広大な保管場所を確保する必要はなくなります。

東京電力福島第1原子力発電所では、現在でも汚染水が発生し続けており、その汚染水処理に放射性物質を除去する装置が稼動しています。しかし、現在の処理能力では汚染水貯蔵タンクの増設は避けられず、広大な保管場所を確保する必要があり、さらに除染技術の抜本的な見直しも急務となっています。本開発は、東京電力福島第1原子力発電所 事故現場での汚染水対策に有効な技術として期待されます。

【用語説明】
※1 : 放射性セシウム
東京電力福島第1原子力発電所の事故により放出された放射性同位元素。放射線を放出して放射性崩壊を起こす能力を持つ。
※2 : 多孔質アルミニウム
多数の細孔をもつ新たな金属材料。多孔質としての特徴と金属としての特性を併せ持つ。
※3 : "オール近大"川俣町復興支援プロジェクト
近畿大学が、13学部48学科を擁する総合大学としての研究力を生かし、総力をあげて東日本大震災に伴う原発事故により一部が避難指示区域に指定された川俣町の早期復興を支援するために立ち上げた学部横断プロジェクト。地場農産業の活性化や教育・文化の育成などの「復興支援」と、除染や健康管理など被災からの「再生支援」の二面から、町の方の意見を取り入れながらサポートしている。
※4 : ストロンチウム
東京電力福島第1原子力発電所の事故により放出された放射性物質で、セシウム同様、環境中に放出されたストロンチウムの除染が急務となっている。

本発明の一例を示す概念図
本発明の一例を示す概念図
近畿大学工学部化学生命工学科 教授 井原辰彦
近畿大学工学部化学生命工学科 教授 井原辰彦

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