従来のES/iPS細胞と異なる新規多能性細胞-領域選択型エピ幹細胞-を樹立! 近畿大学農学部バイオサイエンス学科

2015-05-07 16:35

近畿大学農学部バイオサイエンス学科講師の岡村大治(おかむ らだいじ)らのグループは、新しい細胞の培養条件を用いることによって、ES/iPS細胞に代表される従来型の多能性幹細胞とは大きく性質が異なる、新規の多能性幹細胞である領域選択型エピ幹細胞(region-selective-EpiSCs:通称rsEpi(アールエスエピ))の樹立に成功しました。この件に関する論文が、世界的に有名な英国の科学誌「ネイチャー」に、5月6日付(日本時間7日午前2:00)で掲載されます。
※本件は、岡村が米ソーク研究所(Salk Institute for Biological Studies/ 研究室主宰者 Juan Carlos Izpisua Belmonte 博士)に在籍をしていた時に行っていた研究成果です。

【本研究のポイント】
● 着床後のマウス胚の後極側(生物の下半身側)と高い親和性を示すマウスエピ幹細胞ならびにヒトES/iPS細胞を樹立
● 既存のヒトES/iPS細胞を新規の培養条件下に置くことで、従来とは異なる性質を獲得させることに成功(異種間キメラ形成能など)
● ブタなどの動物でのヒトの臓器作成、ヒトの着床後の初期発生の理解にもつながり、流産を防ぐための治療法の開発に発展することも期待

【研究の概要】
今回、岡村らが発見した培養条件で樹立したマウスエピ幹細胞ならびにヒトES/iPS細胞は、従来の多能性幹細胞と大きく異なる特徴として、着床後のマウス胚の後極側(生物の下半身側)と高い親和性を示すことが分かりました(領域選択型エピ幹細胞)。実験では、新規培養条件下のマウスエピ幹細胞ならびにヒトES細胞を、マウス胚の後極側に移植した場合にのみ、移植された細胞は定着・増殖・拡散したうえ、神経・筋肉の前駆細胞などにも分化したことから、異種間キメラ胚も作製可能な細胞であることが明らかになりました。ヒトの臓器をブタなどの動物に作らせたり、ヒトの着床後の初期発生の理解にもつながる研究です。

【研究の背景】
臓器移植を必要とする人に対し、患者由来iPS細胞を用いたヒト臓器を作製し移植する技術の確立のため、現在、異種間キメラ胚が作製可能なヒト多能性幹細胞の開発が必要とされています。

【掲載誌】
■雑誌名:「ネイチャー(Nature)」
      世界的に有名な英国の科学誌、インパクトファクター42.351
■論文名:Analternativepluripotentstateconfersinterspecieschimaeracompetency
     (新規多能性によってもたらされた異種間キメラ形成能)

【研究の詳細】
研究チームは、「(1)タンパク質FGF2、(2)小分子化合物Wntinhibitor、(3)無血清」という培養条件を満たすことによって、着床前後のマウス胚から、100%という高効率で新規多能性幹細胞「領域選択型エピ幹細胞」を樹立することに成功しました。またマウスのみならず、この培養条件はサルやヒトES/iPS細胞にも適応可能であり、さらに酵素処理による単一細胞化への耐性も付与することが分かりました(従来の培養条件下では、酵素処理後、細胞が死んでしまう)。また新規培養条件下で、マウスエピ幹細胞には、胚の後極側(将来の下半身部分)という領域情報が付加され、着床後のマウス胚に対し、後極側に細胞塊を移植した時のみ、定着・増殖・拡散・分化をすることが観察されました。これにより、従来の多能性幹細胞には見られない、「領域選択性」を持つことが明らかとなりました。

さらに驚くべきことに、新規条件下で培養されたサル/ヒトES/iPS細胞は、着床後のマウス胚の後極側に対し移植可能であり、移植された細胞は定着・増殖・拡散したうえ、神経や筋肉の前駆細胞などにも分化しました。そのことから、異種間キメラ胚も作製可能な細胞であることが明らかになりました(他種動物胚内での分化が確認されたのは、世界初)。

【今後の展開】
今回の研究成果により、ヒト多能性幹細胞からも異種間キメラ胚が作製可能であることを示せたことから、「ヒトの臓器をブタなどの動物に作らせる」技術へと発展する可能性が考えられます。また、異種間キメラ胚作製技術によって、ヒトの細胞が胚内でどのように分化・発生するかを詳細に研究できることから、ヒトの着床後の初期発生の理解につながり、流産を防ぐための治療法の開発にも発展することが期待されます。

【研究者からのコメント】
エピ幹細胞の新規の樹立・維持方法を開発する目的で始めたプロジェクトですが、思いもかけず、新規性多能性幹細胞を樹立することになりました。そして、ヒトやサルの細胞でのチャレンジが、思いもかけず、異種間キメラ胚作製という結果に至りました。研究とは「思いもかけない」ことばかりですが、それをいかに拾い上げるかが、研究の醍醐味であると、このプロジェクトを通じて強く感じました。まだまだ研究者としては未熟ですが、これからも誰も拾い上げない「種」を花開かせたいと思います。

【岡村大治プロフィール】
近畿大学農学部バイオサイエンス学科講師 (研究テーマ:発生生物学)
生年月日:昭和50年(1975年)11月5日 39歳(5月7日現在)
平成16年(2004年)3月 大阪大学大学院医学系研究科にて博士(医学)取得
平成16年(2004年)4月 大阪府立母子保健総合医療センター研究所 常勤研究員
平成17年(2005年)1月 東北大学加齢医学研究所 助教
平成24年(2012年)4月 米ソーク研究所 博士研究員
平成27年(2015年)4月 近畿大学農学部バイオサイエンス学科講師(現職)

【米ソーク研究所とは】
ソーク研究所は、1960年にジョナス・ソークによって設立され、これまでに5人のノーベル賞受賞者を輩出するなど、生物医学系の研究を専門とした極めて高い研究力を誇る世界でも有数の研究所です。

従来のヒトES細胞(左図)と違い、領域選択型ヒトES細胞(右図)は、マウスと異種間キメラ胚を形成する
マウスES細胞やエピ幹細胞と違い、領域選択型エピ幹細胞は移植した場合、胚の後極側でのみ取り込まれる
樹立・維持された領域選択型マウスエピ幹細胞のコロニー
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