男性と女性の腹部大動脈瘤成長速度はなぜ異なる? 卵巣機能の低下による血管劣化が悪化速度上昇の素因となる

近畿大学農学部(奈良県奈良市)応用生命化学科・応用細胞生物学研究室(教授 森山 達哉)の元大学院生の宮本 智絵氏(2019年3月卒業/現在シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社)と農学部応用生命化学科 准教授の財満 信宏らは、腹部大動脈瘤の成長速度に男女差がある原因の一端を解明しました。本研究成果は、令和元年(2019年)12月4日(水)19時(日本時間)にネイチャー・パブリッシング・グループが発刊するScientific Reportsに掲載されました。

【本件のポイント】
●腹部大動脈瘤は女性患者よりも男性患者の方が約4倍多く、女性の腹部大動脈瘤は男性よりも成長が早く、破裂しやすい
●女性の卵巣機能の低下が、腹部大動脈瘤の進展速度上昇につながると考えられる
●女性の血管劣化を予防する治療薬や機能性食品の創出につながる知見

【本件の内容】
腹部大動脈瘤は、腹部大動脈が進行的に拡張することを主病変とする疾患で、司馬 遼太郎やアインシュタインの死因となった疾患としても有名です。世界的に男性に多い疾患であり、米国や英国では、65歳以上の男性に対してAAA(腹部大動脈瘤)検診が行われています。
腹部大動脈瘤の拡張につれ、破裂のリスクが高まります。男性患者数の方が約4倍多い一方で、女性の腹部大動脈瘤は男性よりも成長が早く、瘤も破裂しやすいという性差があることが知られていました。しかしながら、この性差が生じる理由は不明なままでした。
本研究は、卵巣機能を低下させた動物で、腹部大動脈瘤の発症率や成長が促進されることを発見し、これに血管線維成分の変性・減少が関与することを示しました。卵巣機能の低下による血管劣化が腹部大動脈瘤進展速度の上昇の原因となると考えられます。卵巣機能の低下は女性に特有の現象であり、今後は女性の血管劣化を予防する治療薬や食品成分発見への研究展開が期待されます。

【研究の詳細】
研究では、女性特有の臓器である卵巣に着目しました。卵巣を除去したメス動物では、腹部大動脈瘤の発症率が上昇し、形成される瘤の大きさも大きいことがわかりました。血管病理解析の結果、卵巣除去によって、血管機能の維持に重要な血管線維成分(弾性線維・膠原線維)を破壊するタンパク質が増加し、線維成分の質と量が低下していることがわかりました。加齢とともに卵巣機能が低下することによって、もともとの血管が弱くなることが、腹部大動脈瘤を発症すると成長速度や破裂率が上昇する原因だと考えられます。

【今後の展開】
女性患者の腹部大動脈瘤には男性とは違う素因が存在する可能性が示されました。これまでの研究に用いられているモデルはオス動物がほとんどでしたが、メス動物を解析することにより、女性の腹部大動脈瘤対策に有効的な手段を検討していきたいと考えています。

【論文概要】
■雑誌名:Scientific Reports(IF:4.011)
■論文名:Ovariectomy increases the incidence and diameter of abdominal a ortic aneurysm in a hypoperfusion-induced abdominal aortic aneurysm animal model(卵巣摘出は循環不全誘導型腹部大動脈瘤モデルに形成される腹部大動脈瘤の発症率と大きさを促進する)
■著 者:Chie Miyamoto,Hirona Kugo,Keisuke Hashimoto,Tatsuya Moriyama,Nobuhiro Zaima

【関連リンク】
農学部 応用生命化学科 教授 森山 達哉(モリヤマ タツヤ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1060-moriyama-tatsuya.html

農学部 応用生命化学科 准教授 財満 信宏(ザイマ ノブヒロ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/811-zaima-nobuhiro.html

正常な血管(左)、通常のメスに形成される腹部大動脈瘤(中央)、卵巣摘出したメスに形成される腹部大動脈瘤(右)
正常な血管(左)、通常のメスに形成される腹部大動脈瘤(中央)、卵巣摘出したメスに形成される腹部大動脈瘤(右)

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