BM子ども相談室主催の勉強会に関する取材記事を公開  多言語環境で育つ子どものことばを引き出す工夫

ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(所在地:東京都新宿区、所長:大井 静雄、以下:IBS)では、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を、IBSのホームページ上で定期的に発信しています。
今回は2024年3月10日に、バイリンガル・マルチリンガル子ども相談室(BM子ども相談室)が主催した勉強会を取材した記事を公開しました。

勉強会の様子

記事のまとめ

■勉強会の概要:多言語環境での子育ての「ことば」
複数の言語に触れながら育つ子どもの保護者は、「家ではどの言語を話せばいいのだろう?」、「どの言語で学校教育を受けさせればいいのだろう?」、「勉強が苦手だけれど、ことばの問題なのだろうか?」とさまざまな不安や悩みを抱えます。BM子ども相談室は、そのような個別相談に対して専門的なアドバイスや情報提供を行うほか、勉強会やワークショップを定期的に開催しています。

今回の勉強会のテーマは、「主に家庭でのみ使われている言語(母語・第一言語)を豊かに育てていくためには?」。
学校・地域・社会で使われていない少数派言語を母語として話す保護者は、自分の母語で子育てをするべきでしょうか。家庭ではどのように母語を育めばよいのでしょうか。当日の講義を担当された奥村 安寿子 准教授(広島大学)からは、ことばと記憶の仕組みについての解説があり、子どものことばを引き出す工夫や子育てに適した言語について考えるためのヒントが提供されました。

子どものことばを引き出すために親ができる工夫

奥村准教授によると、自分で記憶の中からことばを探して引っ張り出す「再生」よりも、記憶していた物事が再び現れたときにわかる(単語を聞いてわかる)、という「再認」のほうがやさしいとのこと。例えば、「くるま(車)」や「ひこうき(飛行機)」ということばを引き出したいときは、「どっちで遊ぶ?」と聞くよりも「くるまで遊ぶ?ひこうきで遊ぶ?」とことばを提示してあげると、子どもは「くるま」や「ひこうき」を思い出して自分で使うことができるかもしれません。
さらに、単語は、一つひとつがバラバラに無意味に並んで記憶されるのではなく、ほかの単語と結びついて記憶されます。このような記憶の仕組みは「心的辞書」と呼ばれ、ことばの意味を理解したり文をつくったりする力の土台となります。例えば、子どもが「ちょうちょ!」と一語文で話したときに、「ちょうちょだね」と応答するだけでなく、助詞や動詞とつなげて「ちょうちょ が 飛んでいるね」とモデル文を示してあげることで、ことばのネットワークが豊かになっていくと期待されます。
講義後には、参加者が数人ずつのグループに分かれ、学んだことをロールプレイで実践。参加者たちの実践を振り返りながら「あくまで楽しい会話ややり取りが大前提です」と強調した奥村准教授。できそうなときに子どもとのやり取りを少し見直すだけでも、子どもがことばに触れたり、ことばを使ったりする量と質を上げられるということです。

子育てに適したことばとは?

奥村准教授によると、子育てに適したことばとは、子どもに多くのことばを提示できる言語、ことばのつながりを豊かに提示できる言語であるとのこと。そのため、保護者が自身の母語や第一言語で子育てをすることは、基本的には推奨されます。しかしながら、自信を持って使えることば、安心して使えることば、豊かな経験や思い出を伴うことば、多くの内容・メッセージを伝えられることば、気持ちや感情をしっかり伝えられることば(奥村,2024)が一つの言語だけとは限りませんし、家族全員で一致しない場合もあります。そのため、子ども本人やほかの家族メンバーのことばも考慮しながら家庭で話し合ったり見直したりすることが大切であり、家庭で使うことばを無理に一つの言語に絞る必要はない、ということです。

取材後記:「バイリンガル環境で育つ」=「バイリンガルに育つ」ではない
今回の勉強会および本記事で言及している「多言語環境で育つ子ども」とは、主に日本で育ち、家庭外で母語(日本語以外の言語)に触れる機会がほとんどない子どもです。しかし、保護者が日本語を話す日本在住の家庭でバイリンガル教育を検討するときにも、子どものことばを豊かにするインプットとはどのようなものかを理解するうえで参考になるのではないでしょうか。そして、外国語のインプットやアウトプットを増やしたいからといって「家では日本語を使ってはだめ!英語で話そう!」と安易に決めるべきではないこともわかります。
(--中略--)
日本の早期英語教育・バイリンガル教育は英語にばかり意識が向いてしまいますが、英語モノリンガルではなく、日本語と英語のバイリンガルを育てたいのであれば、日本語と英語の両方に目を向けてバランスを考えることが大切です。(取材:IBS研究員 佐藤 有里)

※詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記の記事をご覧ください。
https://bilingualscience.com/event/2024051301/

ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(IBS)について

所長      : 大井 静雄
          脳神経外科医・発達脳科学研究者ドイツ・ハノーバー
          国際神経科学研究所(INI)小児脳神経外科名誉教授・医学博士
所在地     : 〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
                パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設立      : 2016年10月
事業内容    : バイリンガリズムや英語教育に関する調査及び研究
ホームページ  : https://bilingualscience.com/
公式X(旧Twitter): https://twitter.com/WF_IBS

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