医師主導治験にて新規術前療法後の外科切除の有効性を証明 予後不良な局所進行肺がんにおいて新たな治療に大きな期待

肺がん手術イメージ
肺がん手術イメージ

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)外科学教室(呼吸器外科部門)特任教授 光冨 徹哉、臨床教授 宗 淳一、助教 濵田 顕らを中心とした研究チームは、切除可能肺がんの中でも特に予後不良である「局所進行肺がん」の新規治療法の有効性を検討する第2相臨床試験(医師主導治験※1)を行い、その有効性を世界で初めて確認しました。この新規治療法は、免疫チェックポイント阻害薬※2「デュルバルマブ」(商品名:イミフィンジ)※3 と術前化学放射線療法を併用し、その後、外科切除を行うものです。
研究チームが、令和4年(2022年)12月7日(水)~9日(金)にジュネーヴ(スイス)で開催される、「European Society for Medical Oncology(欧州臨床腫瘍学会)IMMUNO-ONCOLOGY CONGRESS 2022(免疫腫瘍学会議 2022)」で本研究成果を発表します。

【本件のポイント】
●近畿大学医学部・病院チームが主導し、国内10施設で、局所進行肺がん新規治療法の医師主導治験を実施
●局所進行肺がんにおける、免疫チェックポイント阻害薬「デュルバルマブ」と術前化学放射線療法の併用療法後の外科切除の有効性を証明
●予後不良である局所進行肺がんにおいて、この新規治療法が標準治療となることに期待

【本件の背景】
局所進行肺がんとは、遠隔臓器には転移していないが、肺の近くにある臓器やリンパ節に浸潤や転移をきたしている肺がんのことです。病期としてはステージⅢにあたり、5年生存割合はⅢAで36%、ⅢBで26%と、非常に予後不良であるとされています。これまで、局所進行肺がん患者の多くは、外科切除のみでは高確率でがんの再発を生じるために、化学療法、または化学放射線療法の併用療法後の外科切除、あるいは化学放射線併用療法が治療の中心となってきました。しかし近年では、免疫チェックポイント阻害薬と術前化学放射線療法の併用療法後の外科切除の有効性を示す結果が報告されており、放射線療法を追加することで、さらに有効性が上がると考えられていました。

【本件の内容】
局所進行肺がん患者に対する、免疫チェックポイント阻害薬「デュルバルマブ」と術前化学放射線療法の併用療法後の外科切除の有効性を検討するため、近畿大学医学部外科学教室(呼吸器外科部門)と近畿大学病院臨床研究センターをリーダーとして、国内10施設において、医師主導治験となる第2相臨床試験を行いました。
その結果、がんの面積が10分の1以下に縮小した患者の割合は63%でした。また、外科切除で完全切除できた患者に限ると、その割合は76%となり、非常に良好な成績を示しました。今後、この新規治療法が局所進行肺がんの標準治療となることが期待されます。

患者毎における病理学的縮小率 63%の患者で、がんの面積が10分の1以下に縮小(完全奏効)した
患者毎における病理学的縮小率 63%の患者で、がんの面積が10分の1以下に縮小(完全奏効)した

【学会での発表】
学会名:European Society for Medical Oncology(欧州臨床腫瘍学会)
    IMMUNO-ONCOLOGY CONGRESS 2022(免疫腫瘍学会議 2022)
日時 :令和4年(2022年)12月8日(木)20:30~21:15(日本時間)
場所 :ジュネーヴ(スイス)
演題 :「Phase Ⅱ Study of Neoadjuvant Concurrent Chemo-immuno-radiation Therapy Followed by Surgery and Adjuvant Immunotherapy for Resectable Stage ⅢA-B N2 Non-Small Cell Lung Cancer: SQUAT trial (WJOG 12119L)」
(切除可能discreteN2ⅢA-B期非小細胞肺がんに対する導入化学放射線療法に術前術後の免疫療法を加えたQuadruple-modality治療の有効性と安全性に関する第2相試験)
発表者:国立研究開発法人国立がん研究センター東病院(医員)三好 智裕
研究者:三好 智裕1、濵田 顕2、宗 淳一2、秦 明登3、中松 清志4、下川 元継5、谷田部 恭6、鈴木 潤7、坪井 正博1、堀之内 秀仁8、吉野 一郎9、棚橋 雅幸10、豊岡 伸一11、岡田 守人12、呉 哲彦13、山下 素弘14、西村 恭昌4、山本 信之15、中川 和彦16、光冨 徹哉2※
所属 :1 国立研究開発法人国立がん研究センター東病院呼吸器外科、2 近畿大学医学部外科学教室(呼吸器外科部門)、3 神戸低侵襲がん医療センター呼吸器腫瘍内科、4 近畿大学医学部放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)、5 山口大学大学院医学系研究科医学統計学分野、6 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院病理診断科、7 山形大学医学部第二外科、8 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院呼吸器内科、9 千葉大学医学部呼吸器外科、10 総合病院聖隷三方原病院呼吸器外科、11 岡山大学呼吸器外科、12 広島大学呼吸器外科、13 香川大学医学部呼吸器外科、14 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター呼吸器外科、15 和歌山県立医科大学医学部呼吸器内科・腫瘍内科、16 近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)
※ 研究者代表

【研究詳細】
本研究は、医師主導治験として日本全国の10施設が参加し、近畿大学医学部外科学教室(呼吸器外科部門)の特任教授 光冨 徹哉、臨床教授 宗 淳一、助教 濵田 顕および近畿大学病院臨床研究センターのセンター長 福岡 和也、治験事務局 木寺 康裕、治験コーディネーター 山田 香織の主導で実施されました。
試験には縦隔リンパ節転移を有する局所進行肺がん患者31人が参加し、免疫チェックポイント阻害薬「デュルバルマブ」と術前化学放射線療法の併用療法の後に、がんを外科切除しました。その結果、主要評価項目である主要な病理学的奏効(MPR)割合※4は63%(90%信頼区間:47-78%、95%信頼区間:44-80%)であり、本試験の主要評価項目を達成しました。また、外科切除で完全切除できた患者25名に限ると、主要な病理学的奏効は76%(95%信頼区間:55-91%)であり、過去に報告されている免疫チェックポイント阻害薬と術前化学療法の併用療法後の外科切除と比べても有効な治療成績が認められました。
本試験は、縦隔リンパ節転移を有する局所進行肺がんに対する、免疫チェックポイント阻害薬「デュルバルマブ」と術前化学放射線療法の併用療法後の外科切除の有効性を世界で初めて報告した医師主導治験であり、今後、この新規治療法が標準治療となることが期待されます。

【研究支援】
本試験は、アストラゼネカ株式会社からの資金提供および治験薬の無償提供を受けて、認定NPO法人西日本がん研究機構(WJOG)にて実施されました。

【用語解説】
※1 医師主導治験:企業が主体で行う治験と異なり、企画・立案から管理まで医師自らが行う治験。
※2 免疫チェックポイント阻害薬:免疫細胞からの攻撃を免れるためのブレーキを阻害し、免疫細胞の攻撃力を強めることで抗腫瘍効果を発揮する。
※3 デュルバルマブ(商品名イミフィンジ):本研究対象に対するデュルバルマブ投与は、現時点で日本国内での適応承認外である。
※4 主要な病理学的奏効(Major Pathologic Response:MPR)割合:がんの面積が10分の1以下に縮小した症例の割合。予後と相関すると考えられている指標。

【研究者代表コメント】
光冨 徹哉
所属:近畿大医学部外科学教室(呼吸器外科部門)
職位:特任教授
手術が可能である局所進行肺がんに対しては化学療法の後、あるいは化学放射線療法の併用療法後に手術を行う治療が行われてきましたが、その成績は決して満足すべきものではありませんでした。最近、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法を術前に使う治療の優れた成績が報告され、新しい標準治療になろうとしています。しかし、それでも局所のがんの制御は十分でないために、本試験を計画しました。すなわち放射線療法、化学療法、免疫療法の後に手術を行うことで最高の効果をねらったものです。今回の結果はその期待に十分応えるもので、次世代の標準治療となる期待がさらに膨らんだと言えます。

【関連リンク】
医学部 医学科 特任教授 光冨 徹哉(ミツドミ テツヤ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/762-mitsudomi-tetsuya.html
医学部 医学科 教授 宗 淳一(ソウ ジュンイチ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2365-soh-junichi.html
医学部 医学科 教授 西村 恭昌(ニシムラ ヤスマサ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/759-nishimura-yasumasa.html
医学部 医学科 准教授 中松 清志(ナカマツ キヨシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/783-nakamatsu-kiyoshi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/
近畿大学病院
https://www.med.kindai.ac.jp/


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