医療現場における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染経路別の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクと予防効果を解明

病室における新型コロナウイルス感染症の感染経路
病室における新型コロナウイルス感染症の感染経路

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)環境医学・行動科学教室准教授の東 賢一を中心とする研究チームは、医療現場における新型コロナウイルス感染症のリスクを、「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」といった感染経路別に推算するモデルを構築し、経路別の感染リスクを算出しました。同時に、「サージカルマスク」「フェイスシールド」「換気」等の感染予防策を行った場合の効果も評価しました。その結果、患者と医療従事者が近接する状況においては、飛沫感染が主な感染経路であり、次に接触感染であることが判明しました。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)1月3日(日)、環境衛生学の分野で権威のある国際雑誌 " Environment International "に掲載されました。
なお、本研究は、近畿大学が全学を挙げて取り組んでいる「"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」の一環として実施しました。

【本件のポイント】
●新型コロナウイルスについて、医療現場における患者から医療従事者への経路別の感染リスクを算出
●医療従事者がサージカルマスクとフェイスシールドを着用することで感染リスクが99.9%以上削減され、患者がサージカルマスクを着用することで感染リスクが99.99%以上削減されることを解明
●本研究成果を、接客を伴う飲食や介護現場など人と人が近接する場面での感染対策へ応用することにも期待

【研究の内容】
新型コロナウイルス感染症では、人から人への二次感染において、「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」といった感染経路を明らかにし、より効果的な感染予防策を講じることが極めて重要です。感染経路ごとの感染リスクを求めて比較することができれば、どの感染経路に注意すればよいかが数値的にわかり、効果的な対策ができます。
本研究では、医療従事者が新型コロナウイルス感染症の患者と接触した時間・回数の違いによる感染リスクをシミュレーションして計算しました。また、サージカルマスクやフェイスシールドを着用した場合の感染リスクについても計算を行いました。その結果、患者と医療従事者が近接する状況においては、飛沫感染が主な感染経路であり、次に接触感染であることが判明しました。また、医療現場では医療従事者がサージカルマスクやフェイスシールドを着用することの有効性と、患者がサージカルマスクを着用すること、換気を適正に保つことの重要性が示されました。
なお本研究は、近畿大学が全学を挙げて取り組んでいる「"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」における研究課題「COVID-19における曝露経路別感染リスク評価と有効な感染予防策に関する研究」の一環として実施しました。研究の対象は医療機関の患者と医療従事者の二次感染としていますが、接客を伴う飲食や介護の現場など、人と人が近接する場面における二次感染にもおおよそ当てはまり、他業界での感染対策への応用が期待されます。

【掲載論文】
掲載誌 :Environment International(インパクトファクター:7.577)
論文名 :
Assessing the risk of COVID-19 from multiple pathways of exposure to SARS-CoV-2: modeling in health-care settings and effectiveness of nonpharmaceutical interventions
(SARS-CoV-2への多経路曝露のからのCOVID-19のリスクの評価:医療現場でのモデリングと非医薬品介入の有効性)
著  者:近畿大学医学部 環境医学・行動科学教室
     水越 厚史(筆頭著者)、中間 千香子、
     奥村 二郎、東 賢一(責任著者)
掲載論文:https://doi.org/10.1016/j.envint.2020.106338

【研究詳細】
本研究では、感染者と非感染者が近接する状況(0.6mの間隔)において、様々な感染経路からの感染リスクを推算するモデルを構築してシミュレーションしました。対象は逼迫している医療提供体制において、可能な限り感染リスクを低減する必要のある医療現場とし、新型コロナウイルス感染症の入院患者をケアする医療従事者の感染リスクを感染経路別に計算し、それぞれの感染経路の寄与を比較しました。
想定した感染経路は、患者と近接時に、患者の咳や会話によって発生した飛沫を直接吸入することによる感染、飛沫が顔の粘膜に直接付着することによる感染、飛沫が患者付近の物体の表面に付着し、表面を手で触って付着したウイルスが手に付き、その手で顔の粘膜に触ることによる接触感染、手に直接飛沫が付着し、その手で顔の粘膜を触ることによる接触感染です。また、病室において患者と同室時、患者の呼吸や咳、会話によって発生した飛沫核を吸入することによる空気感染についても感染リスクを計算しました。
医療従事者が1日の間に1名の患者と中程度の接触(1分間の接触を20回)をした場合と、長い接触(10分間の接触を6回、うち会話を30分間)をした場合についてそれぞれ計算しました。また、その際、医療従事者がサージカルマスクを着用した場合、フェイスシールドを着用した場合、サージカルマスクとフェイスシールドを着用した場合、患者がサージカルマスクを着用した場合、患者がサージカルマスクを着用したうえで換気回数を2回/時から6回/時に増やした場合についても、それぞれ計算を行いました。
想定したすべての経路の感染リスクに対する各経路の寄与率を求めたところ、患者の唾液中のウイルス濃度によって大きく変わりましたが、患者の多くが該当すると考えられる唾液中ウイルス濃度の場合、飛沫が顔の粘膜に直接付着することによる感染のリスクが60%~86%と最も高いことがわかりました。次に寄与率が高かったのは、汚染表面からの接触感染のリスクで、9%~32%でした。なお、接触時間が長く、手洗いの頻度が少ない場合は、中程度の接触時間で、手洗いの頻度が多い場合に比べて、接触感染のリスクの寄与率が高くなりました。さらに、新型コロナウイルスの唾液中濃度が高くなると接触感染の寄与率が上昇しました。また、まれなケースとして患者の唾液中のウイルスが非常に高濃度で、下気道における感染リスクを高く見積もった場合は、飛沫核による空気感染のリスクの寄与が5%~27%まで上昇しました。
以上の結果から、飛沫感染が主な感染経路で、接触感染のリスクもあり、まれに空気感染の可能性もあるという、従来考えられてきた感染経路と同様の結果が得られ、それらを数値でより明確に示すことができました。

新型コロナウイルス感染患者と1日の間に中程度の接触(1分間の接触を20回)をした場合の医療従事者の経路別感染リスクの寄与率
新型コロナウイルス感染患者と1日の間に中程度の接触(1分間の接触を20回)をした場合の医療従事者の経路別感染リスクの寄与率

また、個人防護具などの対策の効果については、医療従事者がサージカルマスクを着用した場合は感染リスクが63~64%低減、フェイスシールドをした場合は97~98%低減、サージカルマスクとフェイスシールドを両方着用した場合は99.9%以上低減しました。一方、患者がサージカルマスクを着用した場合は感染リスクが99.99%以上低減し、患者がサージカルマスクを着用したうえで換気回数を2回/時から6回/時に増やした場合、リスクはさらにその半分以下となりました。以上のことから、医療現場では医療従事者がサージカルマスクやフェイスシールドを着用することの有効性と、患者がサージカルマスクを着用すること、換気を適正に保つことの重要性が示されました。

新型コロナウイルス感染患者と1日の間に中程度の接触(1分間の接触を20回)をした場合の医療従事者の経路別感染リスク
新型コロナウイルス感染患者と1日の間に中程度の接触(1分間の接触を20回)をした場合の医療従事者の経路別感染リスク

【"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクトについて】
近畿大学は、令和2年(2020年)5月15日から「"オール近大"新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」を始動させました。これは、世界で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症について、医学から芸術までの研究分野を網羅する総合大学と附属学校等の力を結集し、全教職員から関連研究や支援活動の企画提案を募って実施する全学横断プロジェクトです。72件の企画提案が採択され、約1億3千万円の研究費をかけて実施しています。

【関連リンク】
医学部 医学科 講師 水越 厚史 (ミズコシ アツシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1889-mizukoshi-atsushi.html
医学部 医学科 教授 奥村 二郎 (オクムラ ジロウ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1038-okumura-jirou.html
医学部 医学科 准教授 東 賢一 (アズマ ケンイチ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/843-azuma-kenichi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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