琵琶湖固有の魚「ホンモロコ」が産卵回帰することを発見 ホンモロコの生態解明と資源回復に繋がる世界初の研究成果

琵琶湖の重要水産魚種であるホンモロコ
琵琶湖の重要水産魚種であるホンモロコ

近畿大学農学部(奈良県奈良市)水産学科准教授 亀甲武志、京都大学生態学研究センター(滋賀県大津市)准教授 佐藤拓哉、三重大学生物資源学部(三重県津市)准教授 金岩稔、滋賀県水産試験場(滋賀県彦根市)石崎大介、桑村邦彦、岡本晴夫、井出充彦、根本守仁、藤岡康弘、公益財団法人滋賀県水産振興協会(滋賀県草津市)竹岡昇一郎、京都大学フィールド科学教育研究センター(京都府舞鶴市)准教授 甲斐嘉晃、京都大学農学研究科(京都府京都市)助教 中山耕至らの研究グループは、コイ科魚類のホンモロコが、生まれ育った場所から琵琶湖を広く回遊した後に、産卵のために生まれ育った場所に高い確率で回帰することを明らかにしました。
コイ科魚類が産卵のために生まれた場所に回帰することを確認したのは世界初の成果であり、琵琶湖の重要水産魚種であるホンモロコの生態解明や資源回復に貢献することが期待されます。
本研究成果に関する論文が、令和6年(2024年)2月13日(月)に、水産学における国際的な学術誌"Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences(カナディアン ジャーナル フィッシャリーズ アンド アクアティック サイエンス)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●ホンモロコの回遊生態について、稚魚を標識放流し、漁業者が捕獲した魚を解析して検証
●ホンモロコが琵琶湖を広く回遊したのち、産卵のために生まれ育った場所に回帰することを発見
●ホンモロコの資源回復を図る上で、琵琶湖各地での産卵保護の重要性を提示

【本件の内容】
ホンモロコは、琵琶湖固有のコイ科魚類で、コイ科魚類のなかで最も美味しい魚と言われています。平成7年(1995年)以前は年間数百トンも漁獲されていましたが、それ以降は個体数が激減し、資源回復が求められています。
研究グループは、琵琶湖と接続する内湖※1 の一つである西の湖において、水田を利用したホンモロコの種苗生産放流※3 を行い、琵琶湖内での漁獲を解析することによって、ホンモロコの詳細な回遊生態について検証しました。その結果、西の湖から琵琶湖に移動したホンモロコは、秋には琵琶湖沿岸の水深10〜20m地点で採捕され、冬には放流した場所から20km以上も離れた琵琶湖沖合の水深30〜90m地点で採捕されました。さらに翌春には、放流した西の湖において、他の内湖に比べて高い確率で成熟個体となって採捕されました。
これにより、ホンモロコは、産卵場である内湖から琵琶湖の沿岸、沖合の深場へと成長に伴い回遊し、翌年には成熟して生まれた内湖に産卵回帰※2 することがわかりました。

【論文概要】
掲載誌 :Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences
     (インパクトファクター:3.102@2022)
論文名 :Apparent migration and natal homing of a small minnow in a large ancient lake(広大な古代湖における小型コイ科魚類の回遊と産卵回帰)
著者  :亀甲武志1*、佐藤拓哉、金岩稔、石崎大介4、桑村邦彦4、岡本晴夫4、井出充彦4、根本守仁4、竹岡昇一郎5、甲斐嘉晃6、中山耕至7、藤岡康弘4
     *責任著者
所属  :1近畿大学農学部水産学科、2京都大学生態学研究センター、3三重大学大学院生物資源学研究科、4滋賀県水産試験場、5公益財団法人滋賀県水産振興協会、6京都大学フィールド科学教育研究センター、7京都大学農学研究科
論文掲載:https://doi.org/10.1139/cjfas-2022-0207
DOI:10.1139/cjfas-2022-0207

【研究の詳細】
平成24年(2012年)と平成25年(2013年)の5月に、琵琶湖の内湖の一つである西の湖に隣接する水田において、耳石に標識※4 を施したホンモロコのふ化仔魚約200万尾を育成し、1カ月後の6月に体長約2.3cmに成長した稚魚約70万尾を水田から内湖に流下させました(平成25年(2013年)には伊庭内湖でも実施)。その後、6月から8月に内湖においてビームトロール網で、10・11月には琵琶湖沿岸において刺網で、翌年1・2月には琵琶湖沖合において沖曳網で、3月から6月には放流した内湖や周辺の内湖、琵琶湖沿岸において釣りや刺網等で、それぞれホンモロコを採捕し、耳石を摘出して標識の有無を確認しました。
内湖では、標識放流したホンモロコの採捕数が放流後2週間は比較的多かったものの、1カ月後には採捕されなくなったため、琵琶湖に移動したと考えられました。その後、10・11月には琵琶湖沿岸の水深10〜20m地点で採捕され、翌年1・2月には放流した場所から平均20km以上離れた琵琶湖沖合の水深30~90mの地点で採捕されました。さらに、3月から6月には琵琶湖沿岸部や他の内湖ではほとんど採捕されず、放流した内湖において高い確率で採捕され、雌雄ともにすべての個体が成熟していました。
以上の結果から、ホンモロコは産卵場である内湖から琵琶湖の沿岸、沖合の深場へと成長に伴い回遊し、翌年には成熟して生まれた内湖に産卵回帰することがわかりました。稚魚から成魚になるまでの生活史を通してコイ科魚類の移動を調査し、産卵回帰性を示した例は非常に稀であり、本研究成果はホンモロコの生態解明や資源回復に繋がるものであると期待されます。また、内湖、内湖と琵琶湖をつなぐ河川、琵琶湖という3つの生息地が繋がって初めて、ホンモロコ資源が維持されることを強く示唆するものであり、今後の資源管理・保全に重要なホンモロコ生息地ネットワークを明確にした知見であるといえます。

【研究代表者コメント】
亀甲武志(きっこうたけし)
所属  :近畿大学農学部 水産学科
職位  :准教授
学位  :博士(農学)
コメント:農家や漁師の方々にご協力いただいたおかげで、ホンモロコの大量標識放流を行い、漁獲物を解析して、稚魚から親魚になるまでの琵琶湖内での回遊生態を明らかにすることができました。本研究から、ホンモロコは沿岸から沖合まで広く回遊した後に、生まれ育った場所に産卵のために戻ってくることがわかりました。本研究成果などによって琵琶湖各地での産卵保護の重要性が認識されたため、平成28年(2016年)から、産卵時期である5・6月に琵琶湖全域でホンモロコの自主禁漁に取り組むようになりました。そのような取り組みの成果もあり、現在、琵琶湖のホンモロコ資源は回復傾向にあります。ホンモロコはとても美味しい魚ですので、ぜひ皆さんにもっと食べてほしいと思います。

【用語解説】
※1 内湖:琵琶湖と接続している水深約1.5mの浅い水域。ホンモロコなど琵琶湖に生息するコイ科魚類の産卵・仔稚魚成育の場所として利用されている。戦前の干拓により、琵琶湖では多くの内湖が喪失した。
※2 産卵回帰:回遊した後、産卵のために生まれ育った場所に戻ってくる行動。魚類ではサケが広く海洋を回遊した後、生まれた河川に産卵のために回帰することがよく知られている。コイ科魚類で産卵回帰を示した研究はこれまでほとんどない。
※3 水田を利用した種苗生産放流:田植えを行った水田にふ化して数日の仔魚を収容し、仔魚が水田内で自然に発生した動物プランクトン等を捕食することで魚を育てる技術。
※4 耳石に標識:耳石とは魚類の内耳の中にある石灰化した硬組織であり、特異的に沈着する色素によってそこに標識を施す技術。大きく成長しても、耳石の標識の有無を確認することで標識した魚かどうかを判断することができる。

【関連リンク】
農学部 水産学科 准教授 亀甲武志(キッコウタケシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2466-kikko-takeshi.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/