ステントの適切な使い分け方法を世界で始めて確立 消化器がんが引き起こす胃・十二指腸狭窄に質の高い治療を

今回の多施設無作為化比較試験で使用した2種類のステント 上:胃十二指腸用カバー付きステント、下:胃十二指腸用カバーなしステント
今回の多施設無作為化比較試験で使用した2種類のステント 上:胃十二指腸用カバー付きステント、下:胃十二指腸用カバーなしステント

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(消化器内科部門)医学部講師の山雄 健太郎らの研究チームは、消化器がんによる胃・十二指腸狭窄(きょうさく)の患者に対する消化管ステント※1 留置術※2 において、がんの成因別に治療法を検討することで、2種類のステントを適切に使い分ける方法を世界で初めて確立しました。
本件に関する論文が、令和2年(2020年)11月22日(日)18:00(日本時間)、消化器分野の国際的なジャーナルである英国誌 "GUT" にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●消化管ステントに関する過去最大規模の多施設無作為化比較試験※3 を実施
●がんの成因別の検討により、2種類のステントの適切な選択法の確立に成功
●ステントの選択によって、ステントトラブル※4 を回避し末期がん患者の生活の質の維持に期待

【本件の背景】
消化器がんによる胃・十二指腸狭窄は、治療末期に起こりやすく、患者の生活の質を低下させる原因となります。この治療法として、消化管ステント留置術と外科的バイパス手術※5 があります。消化管ステント留置術は確立された治療法であり、特に早期の飲水・食事開始が可能であること、治療後の入院期間が短いこと、治療に伴う患者の負担が少ないことなどの点でバイパス手術よりも優れると報告されています。ただし、ステント留置後に、ステント内腔閉塞※6 やステント逸脱※7 などのステントトラブルが起こることがあります。
現在、使用できるステントには「カバー付きステント」と「カバー無しステント」があります。「カバー付きステント」はがん進行によるステント内腔への腫瘍増殖に伴う閉塞を防ぐことが可能ですが、カバーの材質上、ステントが滑りやすく、せっかく留置しても逸脱してしまう可能性があるという欠点があります。一方、「カバー無しステント」は、ステント自身ががんや消化管壁に食い込むため逸脱を防ぐことができますが、ステント内腔閉塞が起こりやすいことが欠点です。どちらにもメリット・デメリットがあり、2種類のステントのどちらが優れるか、どうすれば適切に使い分けられるかを検討した臨床試験などもなく、施設ごとの経験値による判断で選択が行われてきました。
ステント留置治療は、患者の食事摂取不能や嘔吐などの原因となり、生活の質の維持に直結するため、ステント内腔閉塞やステント逸脱などのステントトラブルを回避する、適切な留置ステントの選択法を確立させる必要がありました。

【本件の内容】
近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)医学部講師の山雄 健太郎と、和歌山県立医科大学内科学第2講座の北野 雅之 主任教授(前近畿大学内科学教室(消化器内科部門)准教授)らの研究チームは、大規模な多施設無作為化比較試験を行い、「カバー付きステント」と「カバー無しステント」の2種類のステントを用いて、がんの成因を「膵臓がんを代表とした外因性腫瘍※8」と「胃がんを代表とした内因性腫瘍※9」に分けて検討することで、ステントの使い分け方法を世界で初めて確立しました。これにより、患者は多くのステントトラブルを回避して、最期まで食事の摂取が可能となり、末期がん患者の生活の質を維持することが期待されます。

【論文掲載】
掲載誌  :消化器分野の国際的ジャーナル "GUT"(インパクトファクター19.819@2019)
論文名  :
Endoscopic Placement of Covered versus Uncovered Self-Expandable Metal Stents for Palliation of Malignant Gastric Outlet Obstruction
(悪性胃・十二指腸狭窄症例に対する内視鏡的カバー付きおよびカバー無し消化管ステント留置術)
筆頭著者 :山雄 健太郎1
責任著者 :北野 雅之2
共同研究者:
千葉 康敬1、小倉 健3、江口 考明4、森山 一郎5、山下 幸孝6、加藤 博也7、萱原 隆久8、伯耆 徳之9、岡部 義信10、塩見 英之11、中井 喜貴12、串山 義則13、藤本 吉範14、林 史郎15、馬場 重樹16、工藤 寧17、畦元 信明18、植木 敏晴19、宇座 徳光20、淺田 正範21、松本 和也22、根引 浩子23、滝原 浩守24、野口 地塩25、鎌田 英紀26、中瀬 浩二朗27、後藤 大輔28・29、佐貫 毅30、古賀 哲也31、橋本 慎一32、錦織 英史33、芹川 正浩34、花田 敬士35、平尾 健36、大花 正也37、今給黎 和幸38、加藤 隆夫39、吉田 太之40、河本 博文41
所   属:
1近畿大学、2和歌山県立医科大学、3大阪医科大学、4済生会中津病院、5島根大学、6日赤和歌山医療センター、7岡山大学、8倉敷中央病院、9ベルランド病院、10久留米大学、11神戸大学、12京都桂病院、13松江赤十字病院、14広島総合病院、15豊中市民病院、16滋賀医科大学、17北野病院、18四国がんセンター、19福岡大学、20京都大学、21大阪日赤病院、22鳥取大学、23大阪市立総合医療センター、24岸和田徳洲会病院、25新別府病院、26香川大学、27京都第二日赤病院、28鳥取市立病院、29鳥取赤十字病院、30北播磨総合医療センター、31天陽会中央病院、32鹿児島大学、33大分三愛メディカルセンター、34広島大学、35尾道総合病院、36広島市立病院、37天理よろず病院、38今給黎総合病院、39淡路医療センター、40奈良県立医科大学、41川崎医科大学

【研究の詳細】
本研究は、消化器がんにより胃や十二指腸が狭窄し、食事摂取が困難となった366例を対象とした大規模な多施設無作為化比較試験です。対象のうち182例に「カバー付きステント」、184例に「カバー無しステント」が留置されました。ステントトラブルは、「カバー付きステント群」で35.2%、「カバー無しステント群」で23.5%に発生しました。がんの成因別の検討では、膵臓癌を代表とする外因性腫瘍において「カバー付きステント群」でステント逸脱が多く発生しました。しかしながら、ステント内腔閉塞の発生頻度は両群で同等でした。一方で、胃がんを代表とする内因性腫瘍では、「カバー無しステント群」においてステント内腔閉塞が多く発生しました。しかし、ステント逸脱の発生頻度は同等でした。
これらの結果は、膵がんなどによる外因性腫瘍では「カバー無しステント」を使用し、胃癌などによる内因性腫瘍では「カバー付きステント」を使用することで、ステントトラブルを回避できることを示しています。本試験の結果をもとに、がんの成因をもとに使用するステントを使い分ける基準ができ、末期癌患者に対して最良の治療戦略を提供できる点で、世界における今後のステント留置治療に大きなインパクトを与えると考えています。

【用語解説】
※1 ステント:金属製のメッシュ構造をした筒状の医療器具
※2 消化管ステント留置術:胃・十二指腸狭窄部を拡張するために内視鏡を用いて自己拡張型のステントを挿入すること。
※3 無作為化比較試験:研究の対象者を無作為に2つのグループに分け比較・評価する試験の方法。今回の研究では「カバー付きステント」、「カバー無しステント」を比較した。
※4 ステントトラブル:ステント逸脱やステント内腔閉塞以外に、がんがステントの前後にはみ出てステントを閉塞させる「ステント被覆閉塞」や、食べたものがステントにひっかかり閉塞させる「食事残渣閉塞」などが挙げられる。
※5 外科的バイパス手術:手術により胃・十二指腸狭窄を改善する方法。主に胃と空腸を吻合し、バイパスを作成する。
※6 ステント内腔閉塞:がんがステントの網目に入り込みながら増殖し、ステントを閉塞させること。
※7 ステント逸脱:ステントが胃・十二指腸狭窄部から滑り落ちること。
※8 外因性腫瘍:胃や十二指腸以外から発生するがんのことで、外側から間接的に圧迫することにより胃・十二指腸狭窄をきたす。代表的なものに膵臓がんや胆嚢がんが挙げられる。
※9 内因性腫瘍:胃や十二指腸から発生するがんのことで、直接的に胃・十二指腸狭窄をきたす。代表的なものに胃がんや十二指腸がんが挙げられる。

【関連リンク】
医学部 医学科 医学部講師 山雄 健太郎(ヤマオ ケンタロウ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1826-yamao-kentaro.html
医学部 近畿大学病院 准教授 千葉 康敬(チバ ヤスタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/707-chiba-yasutaka.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


AIが記事を作成しています