高温によりトマト黄化葉巻病への抵抗性が崩壊することを発見 国内のウイルス抵抗性品種が夏場に発病する要因を解明

2023-06-28 14:00
高温下において抵抗性トマト品種が発病している様子 左からウイルス感受性品種の桃太郎、TYLCV抵抗性品種の桃太郎ホープ、TY秀福、かれん、麗旬、はれぞら、豊作祈願015、アニモ TY-12。全てTYLCV-ILウイルスに感染させてから高温下で栽培した。

高温下において抵抗性トマト品種が発病している様子 左からウイルス感受性品種の桃太郎、TYLCV抵抗性品種の桃太郎ホープ、TY秀福、かれん、麗旬、はれぞら、豊作祈願015、アニモ TY-12。全てTYLCV-ILウイルスに感染させてから高温下で栽培した。

近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)准教授 小枝 壮太、博士前期課程2年 北脇 新大の研究グループは、世界的にトマト生産の脅威となっているベゴモウイルス※1 について研究しています。今回、世界で最も広くベゴモウイルス対策の品種改良に利用されているウイルス抵抗性遺伝子Ty-1について研究し、高温条件下では抵抗性が崩壊し、黄化葉巻病※2 を発病することを明らかにしました。この現象は、日本国内で販売されている複数の抵抗性品種で一貫して確認されました。
本研究成果により、生産現場で経験的に知られていた、抵抗性品種での夏場の発病の一要因が解明できました。今後、温暖化に伴う被害拡大への対処が求められます。
本研究に関する論文が、令和5年(2023年)6月15日(木)(日本時間)に、米国植物病理学会が発行する国際学術誌"Phytopathology"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●ウイルス抵抗性品種のトマトでも、高温条件下ではTYLCV-IL系統のウイルス感染により、黄化葉巻病を発病することを発見
●国内で販売されている抵抗性品種は、抵抗性遺伝子としてTy-1を有していることを明らかに
●生産現場で経験的に知られていた、抵抗性品種での夏場の発病の一要因を解明

【本件の背景】
現在、ベゴモウイルスには445もの種類があります。トマト、トウガラシ、キュウリ、メロン、カボチャ、ズッキーニ、オクラ、マメ類など多くの農産物が、このウイルスに感染すると果実をほとんど収穫できなくなるなど、農業生産において世界的な脅威となっており、甚大な経済的被害を引き起こしています。
ウイルスの感染はタバココナジラミとよばれる昆虫により媒介されるため、生産現場では殺虫剤の散布によって対策してきました。しかし、過剰な殺虫剤の使用により、現在では殺虫剤が十分に効かないタバココナジラミが世界各地で発生しています。1990年代には、トマトに黄化葉巻病を引き起こすベゴモウイルスであるTYLCV※3 が、イスラエルから欧州、北米、日本へ同時多発的に侵入し、生産農家を苦しめてきました。
世界的な研究の推進により、ようやくトマトのTYLCV抵抗性遺伝子が特定され、ウイルス抵抗性品種の育種も進んでいます。しかし、夏場には抵抗性品種でも散発的に発病してしまうことが生産現場では経験的に知られており、その原因は不明でした。

【本件の内容】
日本国内では、TYLCV-IL(イスラエル)系統とTYLCV-Mld(マイルド)系統という2種類のベゴモウイルスが分布しています。研究グループは、高温(昼温35℃、夜温20℃)、あるいは常温(昼温25℃、夜温20℃)の条件下で、トマトのウイルス感受性品種と抵抗性品種を栽培し、TYLCV-ILあるいはMldのウイルスを接種しました。その結果、高温条件下では、抵抗性品種でもTYLCV-ILの感染により黄化葉巻病を発病することが明らかになりました。また、これまで国内の抵抗性品種は、抵抗性遺伝子としてTy-3aを有していると考えられていましたが、詳細な分析をした結果、世界的に多くの抵抗性品種が有するTy-1という遺伝子を有していることがわかりました。
本研究により、夏季のような高温条件下では、TYLCV-ILに対する抵抗性が崩壊することが示唆されました。今後は、2種類のウイルスのうち、TYLCV-ILにだけ高温下で発病する原因の解明や、高温下での安定的な抵抗性獲得の実現に向けた研究を進める予定です。

【論文掲載】
掲載誌 :Phytopathology(インパクトファクター:4.010@2021-2022)
論文名 :Breakdown of Ty-1-based resistance to tomato yellow leaf curl virus in tomato plants at high temperatures
(高温におけるTy-1によるTYLCV抵抗性の崩壊)
著者  :小枝 壮太※、北脇 新大 ※ 責任著者
所属  :近畿大学大学院農学研究科
論文掲載:https://doi.org/10.1094/PHYTO-04-23-0119-R
DOI  :10.1094/PHYTO-04-23-0119-R

【本件の詳細】
ベゴモウイルスであるTYLCV-ILおよびMldは、平成8年(1996年)に初めて日本国内で感染が確認され、トマト黄化葉巻病を引き起こすことで生産に大きな被害を及ぼしてきました。これに対して、ウイルスのDNA複製を抑制することに関わる酵素をコードするTy-1、Ty-3、あるいはTy-3aのいずれかの抵抗性遺伝子を持つ品種が世界的に利用されており、TYLCVの防除に大きく貢献しています。これまで、欧米ではTy-1が、日本ではTy-3aが品種育成に用いられていると理解されてきました。しかし、本研究においてTy-1、Ty-3、およびTy-3aを判別できるDNAマーカー※4 を新たに開発して詳しく分析したところ、国内のTYLCV抵抗性品種はいずれもTy-3aではなく、Ty-1を有することが明らかになりました。
また、TYLCV抵抗性品種であっても、夏季には散発的に発病が認められることが、国内外の生産者間では知られています。しかし、その理由がTYLCVの媒介昆虫であるタバココナジラミの活動が活発になるためなのか、別のウイルスとTYLCVが複合感染することにより起こるのか、あるいは高温が直接的に抵抗性の効果を弱めているのかは明らかではありませんでした。本研究では、Ty-1を有する抵抗性品種を用いた調査によって、高温下では感受性品種のように発病してしまうこと、発病はTYLCV-ILに特異的で、TYLCV-Mldに感染していても高温下では発病しないことを確認しました(図1)。また、いずれのウイルスでも、常温よりも高温でウイルスDNAの蓄積量が増加していたため、TYLCV-ILのみ発病に至る何らかのメカニズムが存在すると考えられました。

図1 抵抗性品種が高温条件下でTYLCV-ILの感染により発病する様子 ウイルスを接種していないトマトの葉では、感受性品種と抵抗性品種で葉の形態に違いはない。また、常温ではTYLCV-ILやMldが感染した感受性品種である桃太郎で黄化葉巻症状が認められるが、抵抗性遺品種の桃太郎ホープでは明確な発病は認められない。一方で、高温では感受性品種だけでなく、TYLCV-ILが感染した抵抗性品種でも黄化葉巻症状が確認された。

図1 抵抗性品種が高温条件下でTYLCV-ILの感染により発病する様子 ウイルスを接種していないトマトの葉では、感受性品種と抵抗性品種で葉の形態に違いはない。また、常温ではTYLCV-ILやMldが感染した感受性品種である桃太郎で黄化葉巻症状が認められるが、抵抗性遺品種の桃太郎ホープでは明確な発病は認められない。一方で、高温では感受性品種だけでなく、TYLCV-ILが感染した抵抗性品種でも黄化葉巻症状が確認された。

【研究者のコメント】
小枝 壮太(こえだ そうた)
所属  :近畿大学農学部 農業生産科学科、近畿大学大学院農学研究科
職位  :准教授
学位  :博士(農学)
コメント:
国内外のトマト生産現場ではTYLCVが引き起こす黄化葉巻病が問題になっており、抵抗性品種の利用が一般的です。しかし、抵抗性品種でも夏場には散発的に発病が認められることが生産者には知られています。本研究では、高温下ではTy-1によるTYLCV抵抗性が崩壊することを明らかにしました。また、これまでTy-3aを有していると考えられてきた国内の抵抗性品種は、いずれもTy-1を有していることも発見しました。今後は、高温下でも安定した抵抗性を示すトマトを作る方法を考えたいと思っています。

【研究支援】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B(19H02950、23H02207)、国際共同研究強化(B)(21KK0109)(研究代表者:小枝 壮太)の支援を受けて実施しました。

【用語解説】
※1 ベゴモウイルス:一本鎖環状DNAをゲノムに持つウイルスで、世界各地での農業生産に大きな経済的被害を与えているウイルス属。
※2 トマト黄化葉巻病:ベゴモウイルスが感染することで発症する。感染すると、葉が黄色くなり、巻くような症状を生じる。症状が進むと、開花しても実がつかなくなる場合が多い。
※3 TYLCV:Tomato yellow leaf curl virusの略称。イスラエルで初めてトマトへの感染・発病が確認され、平成8年(1996年)に日本でも初めて侵入が確認された。世界各地のトマト産地で被害を拡大してきたベゴモウイルスの一種。
※4 DNAマーカー:遺伝子配列の違いを目印として検出する手法。これまでは近傍のゲノムDNA配列における違いを用いてTy-1、Ty-3、あるいはTy-3aを区別していたが、この方法では間違いが頻繁に生じることが明らかになった。そこで、本研究ではTy-1、Ty-3、およびTy-3aの遺伝子配列内にある違いを目印にすることで、確実に判定することを可能にした。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 准教授 小枝 壮太(コエダ ソウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1360-koeda-sota.html

農学研究科
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

Copyright 2006- SOCIALWIRE CO.,LTD. All rights reserved.