遺伝子を用いたチョウザメの迅速な雌雄判別が可能に キャビア生産効率化の研究躍進に期待

新宮実験場で飼育・研究しているチョウザメ
新宮実験場で飼育・研究しているチョウザメ

近畿大学水産研究所新宮実験場(和歌山県新宮市)准教授の稻野 俊直の研究グループは、シベリアチョウザメの遺伝子を用いて、簡易的かつ正確に雌雄判別を行う手法を確立しました。これまでは、3歳頃に腹部を切開することで雌雄を確認していましたが、今回確立した方法では、綿棒で採取したシベリアチョウザメの体表粘液から遺伝子を抽出し、高感度な方法で分析することで、チョウザメを傷付けることなく迅速かつ正確な雌雄判別が可能となりました。これにより、メスの量産化およびキャビア生産の効率化が期待できます。

【本件のポイント】
●体表粘液から遺伝子を抽出し、チョウザメを傷付けず迅速に雌雄を判別可能
●遺伝子配列を細かく分析し、高感度に雌雄を判別できる手法を確立
●キャビア生産の高効率化を目指した、メスの量産化研究への応用に期待

【本件の背景】
近畿大学水産研究所新宮実験場では、平成7年(1995年)から、チョウザメの養殖技術の開発に取り組んできました。特に、チョウザメの卵から作られるキャビアの生産性を高めるため、メスを効率的に養殖する研究を積極的に行っています。令和1年(2019年)には、ふ化後4カ月のシベリアチョウザメに半年間、女性ホルモンを餌に混ぜて与えることで、全メス化に成功しました。さらに、近年は女性ホルモンに代わる、食品由来の成分による全メス化の研究にも取り組んでいます。
メスを効率的に養殖するには、簡易的かつ正確な雌雄判別法を確立することが求められています。これまでは3歳頃にチョウザメの腹部を切開して生殖腺を目視確認することで雌雄を判別し、その後、切開部を縫合するという方法をとっていましたが、昨年、ドイツの研究者ら※ がコチョウザメのメス特異的遺伝子マーカーの検出に成功し、コチョウザメにおいては受精卵や稚魚であっても雌雄判別が可能となりました。

※Kuhl et. al.,(2020)
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.10.10.334367v2

【本件の内容】
今回の研究では、3歳になったシベリアチョウザメの雌雄判別について、従来の生殖腺を目視確認する手法で行うと同時に、ドイツの研究者らによる先行研究で明らかになった、コチョウザメのメス特異的遺伝子マーカーを用いた手法でも行い、この遺伝子マーカーがシベリアチョウザメにも有効であることを確認しました。さらに効率化を図るため、綿棒でチョウザメの体表粘液を採取するという簡易的な方法で遺伝子を抽出し、遺伝子配列の一塩基の違いまで明らかにできる分析方法を用いることで、高感度に結果を得られることを確認しました。これによって、チョウザメを傷付けることなく、迅速かつ正確に雌雄判別を行う手法を確立しました。
この研究成果によって、全メス化に向けた研究、およびキャビア生産の高効率化のための研究開発が、飛躍的に進むことが期待されます。

体表粘液を採取(左)、遺伝子マーカーによって雌雄を判別(右)
体表粘液を採取(左)、遺伝子マーカーによって雌雄を判別(右)

【新宮実験場でのチョウザメ研究】
新宮実験場は山麓を流れる清らかな熊野川支流、高田川のほとりに位置します。チョウザメ(ベステル種)の飼育研究を平成7年(1995年)から始め、平成20年(2008年)に初めて抱卵し、同年、「近大キャビア」の製造・販売を開始。平成23年(2011年)の台風12号で河川が氾濫して多くのチョウザメが流されるなどの被害を受けましたが、飼育を続けてきました。平成30年(2018年)には、キャビア加工専用の作業場とクリーンルーム(清浄度・精密工場要求レベル)を新築し、徹底した衛生管理のもとで加工を行っています。

【関連リンク】
水産研究所 准教授 稻野 俊直(イネノ トシナオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2074-ineno-toshinao.html

水産研究所
https://www.flku.jp/


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