たこつぼ型心筋症を合併するギラン・バレー症候群の臨床的特徴を解明 臨床現場での合併症の早期発見と早期治療につながる研究成果

近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(脳神経内科部門)講師 桑原基、近畿大学大学院医学研究科医学系専攻(神経病態制御学)博士課程4年 寺山敦之らの研究グループは、手足の筋力が急激に低下する免疫性神経疾患であるギラン・バレー症候群のうち、たこつぼ型心筋症※1 を合併した患者の臨床的特徴を解明しました。本研究により、たこつぼ型心筋症を合併する患者は、高齢で、脳神経※2 障害と重度の筋力低下がみられ、人工呼吸器装着例が多いことが明らかになり、合併症の早期発見と早期治療につながる研究成果であると期待されます。
本件に関する論文が、令和6年(2024年)4月4日(木)13:30(日本時間)に、臨床神経学の国際的な学術誌"Journal of Neurology(ジャーナル オブ ニューロロジー)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●たこつぼ型心筋症を合併するギラン・バレー症候群の臨床的特徴を解明
●ギラン・バレー症候群の発症後、たこつぼ型心筋症の合併は比較的早期に生じることを発見
●本研究成果は、合併症の早期発見および早期治療につながると期待

【本件の背景】
ギラン・バレー症候群は、急激に手足の筋力が低下する免疫性神経疾患です。症状として、呼吸筋の麻痺や感覚障害、脳神経障害、自律神経※3 障害などが知られており、こうした神経症状の1~2週間前に風邪などの感染症状がみられることが多く、症状は2~4週間以内に最も重くなります。
一方、たこつぼ型心筋症は、主に身体的・精神的ストレスが原因となり、交感神経系が活性化され心臓に障害が起こる疾患で、頻度は多くないものの、さまざまな神経疾患に合併することが知られています。収縮不全を起こした心臓左室の形状が「たこつぼ」に類似していることから命名されています。先行研究から、たこつぼ型心筋症患者の院内死亡率は約4%であることが明らかになっており、ギラン・バレー症候群の重篤な自律神経系の合併症の1つとして危険視されています。しかし、どのような患者にたこつぼ型心筋症の合併が起こりやすいか、また、合併した際にどのような症状になるかについては明らかになっていませんでした。

【本件の内容】
研究グループは、たこつぼ型心筋症を合併したギラン・バレー症候群の臨床的特徴を明らかにすることを目的に解析を行いました。その結果、たこつぼ型心筋症はギラン・バレー症候群の発症から10日以内と比較的早期に生じていることが判明しました。また、たこつぼ型心筋症を合併した患者は高齢な場合が多く、脳神経障害や重度の四肢麻痺がみられ、人工呼吸器装着例が多いことも明らかになりました。本研究結果により、ギラン・バレー症候群発症後におけるたこつぼ型心筋症の合併が早期に発見され、速やかな治療につながることが期待されます。

【論文概要】
掲載誌:Journal of Neurology(インパクトファクター:6.0@2022)
論文名:Takotsubo cardiomyopathy in Guillain–Barré syndrome
    (ギラン・バレー症候群におけるたこつぼ型心筋症)
著者 :寺山敦之1、桑原基1※、吉川恵輔1、山岸裕子1、寒川真1、山下翔子1、大西教平2、永野兼也3、巽千賀夫4、石井淳子5、川本未知5、渡嘉敷崇6、出口章子7、出口健太郎7、石田敦士8、馬場康彦8、山口滋紀9、楠進1,10、永井義隆1※ ※ 責任著者
所属 :1 近畿大学医学部内科学教室(脳神経内科部門)、2 近畿大学医学部内科学教室(循環器内科部門)、3 紀和病院循環器内科、4 地域医療機能推進機構星ヶ丘医療センター 脳神経内科、5 神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経内科、6 国立病院機構沖縄病院 脳神経内科、7 岡山市立総合医療センター岡山市立市民病院 脳神経内科、8 昭和大学藤が丘病院 脳神経内科、9 横浜市立市民病院 脳神経内科、10 地域医療機能推進機構本部

【研究詳細】
研究グループは、近畿大学医学部内科学教室(脳神経内科部門)において、カルテ等の診療上、データを匿名化して用いる後方視的研究により、血液中の抗ガングリオシド抗体※4 を調べた症例からたこつぼ型心筋症を合併したギラン・バレー症候群8例を抽出し、その臨床的特徴を解析しました。さらに、たこつぼ型心筋症を合併していない典型的なギラン・バレー症候群(対照群)との比較を行いました。その結果、たこつぼ型心筋症を合併したギラン・バレー症候群は、対照群と比較して次のような特徴がありました。
(1)発症年齢は高齢であった
(2)脳神経障害が全例にみられ、特に下位脳神経※5 の障害が多かった
(3)入院時とピーク時に筋力低下が重度であった
(4)人工呼吸器装着例が多かった
また、8例中7例がギラン・バレー症候群の発症早期(発症から10日以内)にたこつぼ型心筋症を発症していました。たこつぼ型心筋症を合併したギラン・バレー症候群では、心血管系の自律神経障害(頻脈や血圧低下)が多くみられ、血漿中や尿中のカテコールアミン※6 を測定していた2例では、いずれでもその濃度が上昇していました。3例では抗ガングリオシド抗体が陽性でしたが、抗体の種類に特徴や傾向はみられませんでした。さらに、8例中7例で陰性T波※7 という心電図変化が確認されました。
上記の臨床的特徴に注目することで、ギラン・バレー症候群の重篤な合併症の1つであるたこつぼ型心筋症を早期に発見することが可能となり、速やかな治療につながることが期待されます。

【研究代表者のコメント】
桑原基(くわはらもとい)
所属  :近畿大学医学部内科学教室(脳神経内科部門)
職位  :講師
学位  :医学博士
コメント:ギラン・バレー症候群の主な症状は四肢筋力低下ですが、呼吸筋麻痺やさまざまな自律神経障害がみられることがあります。特に、本研究で明らかになった特徴を有する場合は全身状態を注意深く観察する必要があり、たこつぼ型心筋症の合併を早期発見して、全身管理や治療につなげることができます。

【研究支援】
本研究は、JSPS科学研究費助成事業基盤研究(C)(20K07894)の一環として行われました。

【用語説明】
※1 たこつぼ型心筋症:心身のストレスが原因で交感神経系が過剰に活性化され、心臓に障害をきたす疾患。収縮不全を起こした心臓左室の形状がたこつぼに類似していることから命名されている。
※2 脳神経:脳から直接出て筋肉などの効果器への出力を担う神経線維。第Ⅰ脳神経から第Ⅻ脳神経まで左右12対ある。
※3 自律神経:交感神経系と副交感神経系の2つから構成され、多くの臓器が二重に支配される。これにより生体内の環境を一定に保とうとする。自律神経が障害されると、このバランスが崩れ、臓器に応じた障害を引き起こす。
※4 抗ガングリオシド抗体:細胞膜表面に存在するガングリオシドという糖脂質の糖鎖部分に結合する抗体。ギラン・バレー症候群患者の約60%に抗ガングリオシド抗体が血液中から検出されることから、診断の補助検査として用いられる。
※5 下位脳神経:脳神経のうち、第IX~XII神経を指す。
※6 カテコールアミン:脳、副腎髄質および交感神経に存在する、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの総称。副腎髄質ホルモンまたは神経伝達物質として重要。
※7 陰性T波:T波は、収縮した心臓が元に戻るときに心電図で測定される波形。通常は山型をしているT波が谷型になった波形を陰性T波という。虚血性疾患や心筋梗塞、高血圧、心筋症による心肥大、脳内出血などでみられる。

【関連リンク】
医学部 医学科 講師 桑原基(クワハラモトイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1779-kuwahara-motoi.html
医学部 医学科 医学部講師 吉川恵輔(ヨシカワケイスケ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2360-yoshikawa-keisuke.html
医学部 医学科 講師 寒川真(サムカワマコト)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2360-yoshikawa-keisuke.html
医学部 医学科 客員教授 楠進(クスノキススム)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/567-kusunoki-susumu.html
医学部 医学科 講師 桑原基(クワハラモトイ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1779-kuwahara-motoi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/


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