大学院生が特別天然記念物であるアユモドキの人工繁殖に成功 環境省近畿地方環境事務所から感謝状を授与
近畿大学大学院農学研究科 水圏生態学研究室(担当教員:教授 北川忠生)に所属する大学院生2名と、大学院修了生1名が、国の特別天然記念物であるアユモドキ(学名:Parabotia curtus)の人工繁殖に成功しました。同種の保護に大きな貢献を果たしたとして、令和6年(2024年)3月9日(土)に、環境省近畿地方環境事務所(大阪府大阪市)から感謝状が授与されます。アユモドキはドジョウの仲間で、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)により、国内希少野生動植物種に指定されています。
【本件のポイント】
●アユモドキの繁殖消滅寸前となっていた家系※1 の個体を用いた人工繁殖に成功し、家系の消滅を食い止めた
●野生の採集個体※2 を親魚とした人工繁殖にも成功し、関西、中部各地の水族館で飼育
●生息域外個体群※3 の増強に貢献し、環境省が野生個体群補強のための試験的放流事業を実施
【本件の背景】
アユモドキは、滋賀県・京都府・大阪府にまたがる琵琶湖淀川水系と、岡山県の旭川・吉井川・高梁川水系、広島県の芦田川水系に分布する日本固有種で、昭和52年(1977年)に国の天然記念物に指定されました。種の保存法により国内希少野生動植物種にも指定されているため、環境省近畿地方環境事務所が保護増殖事業を行っており、その一環で淀川水系のアユモドキの生息域外保全事業が実施されています。近畿大学農学部は、環境省とアユモドキの系統保存※4 に関する連携協力協定を令和4年(2022年)4月に締結しており、同種の繁殖や精子の凍結保存に取り組んでいます。
【本件の内容】
系統保存されているアユモドキの1つの家系は、すべての個体がすでに8年飼育され繁殖が困難と考えられる高齢となり、消滅寸前となっていました。そこで、本学の大学院生らが令和4年(2022年)4月に、複数の水族館において飼育されていた同家系のうち、世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふ(岐阜県各務原市)にて飼育されていた個体を本学に受け入れて成熟させ、令和4年(2022年)5月から8月にかけてホルモン投与と人工搾出法※5 を複数回行うことで、人工授精に成功しました。これにより、存続が危ぶまれていた家系を維持することに成功し,今後は若い個体を用いて安定的にこの家系を維持していくことも可能となりました。
この生息域外個体群の継代の成功と個体数の増加により、令和5年度(2023年度)には、環境省の保護増殖事業として野生個体群補強のための試験的放流事業を実施することができました。また、令和4年(2022年)6月には、野生下より新たに捕獲したペアからの人工授精にも成功しており、新たな保存系統の家系の作出にも成功しています。
これらの繁殖個体は、上記の世代更新した家系と合わせて、関西及び中部地方の水族館(海遊館、アクア・トトぎふ、鳥羽水族館、姫路市立水族館、丹後魚っ知館(令和5年(2023年)5月に閉館、その後姫路市立水族館へ移動)に移され、飼育されています。
このような功績が評価され、「第78回魚類自然史研究会」において、大学院生2名、大学院修了生1名に環境省近畿地方環境事務所から感謝状が授与されます。
【感謝状授与】
日時 :令和6年(2024年)3月9日(土)16:30~17:20
場所 :近畿大学奈良キャンパス 新教室棟 211教室
(奈良県奈良市中町3327-204、
近鉄奈良線「富雄駅」からバス 約10分)
参加予定:環境省近畿地方環境事務所 野生生物課長 岡島一徳氏
近畿大学大学院農学研究科環境管理学専攻
博士後期課程2年 八嶋勇気さん
博士前期課程2年 藤川凌希さん
令和5年(2023年)3月博士前期課程修了 藤田衛さん
【アユモドキ(学名:Parabotia curtus)】
アユモドキはドジョウのなかまですが、泳いでいる姿がアユに似ていることから、この名前がつきました。滋賀県・京都府・大阪府にまたがる琵琶湖淀川水系と岡山県の旭川・吉井川・高梁川水系、広島県の芦田川水系に分布しています。しかし、琵琶湖では昭和54年を最後に確認報告がなく、京都府南丹市の生息場所では過去約10年確認例がありません。1977年に国の天然記念物に指定されています。
大きさは約15cmで、ドジョウ類では例外的に体がたてに扁平になります。体色は乳白色で、暗褐色の幅広いしま模様が入り、とくに未成熟な個体ではそれが顕著です。アユモドキはほかのドジョウの仲間にくらべて体高が高いのも特徴のひとつです。
自然護岸の残った河川・池や水路の石垣などに隠れる性質が強く、おもに朝晩活動します。動物食で、ユスリカ・トビケラなどの水生昆虫、イトミミズや陸生貝類も食べます。産卵は、6~8月に河川の増水や水田の灌漑によって、一時的に生じる水たまりで行われます。ふ化した稚魚は、しばらくこの水たまりにとどまって、灌水後に大発生するプランクトンを食べて育ちます。
アユモドキの生息域では、河川の改修や、水田の土地改変によって、生息場所がますます狭められています。とくに、河川とつながっている水田において産卵が行われるため、河川・用水路・水田の間を、魚が自由に行き来することのできる環境を維持することが求められています。また、生息域のいずれの場所においてもオオクチバスやカムルチー等外来魚による捕食の脅威に直面しています。環境省では保護増殖事業を実施しており、淀川水系の桂川や岡山県において、生息域外保全のほか生息状況調査や密漁対策パトロールなどを行っています。
(環境省「いきものブログ」より抜粋:https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/zukan?_action=rn040)
【用語解説】
※1 家系:系統、血筋。
※2 野生の採集個体:野生で捕まえた個体。
※3 生息域外個体群:絶滅危惧種に指定された生物などについて、自然環境で生息している個体とは別の場所で飼育繁殖を行うこと。
※4 系統保存:系統とは、生物各種族の進化の経路、各種族間の類縁関係、共通の祖先を持つ遺伝子型の等しい個体群などを指す。系統保存とは、この「系統」を現状のままに「保存(維持)」すること。
※5 人工搾出法:雄のお腹を絞って精子を取り出す方法
【関連リンク】
農学部 環境管理学科 教授 北川忠生(キタガワタダオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/890-kitagawa-tadao.html