新たな準結晶構造「青銅比準結晶」を発見 これまでの常識を覆し、新たな物質構造の可能性を提示
近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)理学科教授 堂寺 知成(どうてら ともなり)らの研究グループは、結晶、非晶質とも異なる第3の固体である準結晶の構造について、人間が美しいと感じる比率「金属比」の一種である「青銅比」で構成される準結晶のタイリング※1 を世界で初めて発見しました。準結晶は、一見バラバラながらも規則性を持つ複雑な構造で知られ、これまでに金属比である黄金比と白銀比の準結晶が発見されています。
本研究成果は、平成29年(2017年)8月15日(火)AM0:00(日本時間)付で、英国科学誌「Nature Materials」に掲載されます。
※1 タイリング…三角形や四角形などの図形(タイル)の組み合わせで平面を隙間なく埋めること
【本件のポイント】
●青銅比で構成される準結晶のタイリングを世界で初めて発見
●平成26年(2014年)に堂寺らが発表した準結晶形成シミュレーションでも生成を確認しており、理論だけでなく、実際に青銅比準結晶が作成可能
●「6回の回転対称性※2 は結晶」という結晶学の常識を覆し、新たな物質構造の可能性を提示
※2 6回の回転対称性…図形を60°回転すると元の形と重なり、それを6回繰り返すと元の状態に戻る性質
【本件の概要】
固体には原子や分子が同じパターンで並ぶ「結晶」とバラバラに並ぶ「非晶質」しかないと考えられていましたが、一見バラバラだが一定の規則性を持つ「準結晶」を昭和59年(1984 年)にイスラエルの科学者シェヒトマンが発見し、新たな構造と性質をもつ物質を作り出せる可能性が生まれました。
研究チームは、2種類の大きさの正三角形と長方形を用いたタイリングで準結晶を形成できることに加え、構造の中に青銅比が現れることを発見しました。タイリングの基本となる図形と全体の構造は、「結晶」の証とされてきた6回の回転対称性を持っており、これまでの常識を覆す発見となりました。また、平成26年(2014年)に堂寺らが発表した分子シミュレーションで、青銅比準結晶の生成にも成功しました。
今後は、青銅比準結晶の構造を持つ、新たな物質の発見が期待されます。
【研究の背景と詳細】
人間が美しいと感じる長方形の比率「金属比」、その中でも特に黄金比はギリシャ時代から美術、建築、数学、諸科学で研究されてきました。最近ではダン・ブラウン原作の映画「ダ・ビンチ・コード」で、黄金比とそれに関係したフィボナッチ数が謎解きに使われています。黄金比は世界の所々に現れる不思議な数で、自然界ではパイナップル表面の模様(鱗片)やひまわりの種など、人工物では「モナ・リザ」やパルテノン神殿などが知られています。
この黄金比が現代科学に大きな衝撃を与えたのが、イギリスのペンローズ教授によって1970年代に発見された「ペンローズタイリング」です。2種類のひし形で構成されるタイリングで、のちにこのタイリングを基にした正20面体準結晶合金が発見され、ペンローズタイリングが物質構造としても存在することが明らかになりました。これを発見したイスラエルのシェヒトマン教授に平成23年(2011年)ノーベル化学賞が授与されました。
金属比は2次方程式𝑥²−𝑘𝑥−1=0の正の解で、𝑘=1が黄金比、𝑘=2が白銀比、𝑘=3は青銅比です。黄金比は正10角形準結晶や正20面体準結晶に、白銀比は正8角形準結晶(アンマン-ビーンカータイリング)に関連していることが知られています。しかし、青銅比が関係した準結晶は知られていませんでした。
今回堂寺らは、小正三角形、大正三角形、長方形の3種類のタイルを使って青銅比に基づく自己相似な6回の回転対称性を持つタイリングを発見しました。さらに、分子シミュレーションを用いて、実際に青銅比準結晶ができることも示しました。
実際、最近発見された酸化物準結晶、ナノ粒子準結晶にも小正三角形、大正三角形、長方形が現れています。また、従来6回の回転対称性は結晶を示す性質と考えられていましたが、その常識は今回の発見で覆されたと言えます。今後は、青銅比タイリングを元に、新しい準結晶、例えば、ソフトマター※3 準結晶や、合金系準結晶などの発見が期待されます。
※3 ソフトマター… 液晶、ゴム、ジェル、化粧品、インク、石鹸分子、生体膜などの柔らかい物質の総称。外部からの刺激に対してゆっくりした反応を示す
【掲載誌】
雑誌名:“Nature Materials”(インパクトファクター:38.891 2016)
※物理学、化学、応用物理学、材料科学など物質科学分野の最も著名な学術雑誌
論文名:Bronze-mean hexagonal quasicrystal(青銅比六方準結晶)
著 者:堂寺知成、別宮進一(総合理工学研究科2016年修了)、
プリモシュ・ジハール博士(スロベニア・リュブリャナ大学シュテファン研究所)
【研究者プロフィール】
近畿大学 理工学部理学科物理学コース 教授 堂寺 知成(どうてら ともなり)
学 位:理学博士
専門分野 :準結晶物理学、ソフトマター物理学、物性物理学
研究テーマ:ソフトマター準結晶、ソフトマター結晶学の創成
著 書:堂寺知成 著(平成21年)『工学基礎 熱力学・統計力学』サイエンス社 他
論 文:堂寺知成、大城辰也(近畿大学理工学部平成23年卒)、
プリモシュ・ジハール博士(スロベニア・リュブリャナ大学シュテファン研究所)(平成26年)
「Mosaic two-lengthscale quasicrystals」nature,DOI:10.1038/nature12938
高分子のアルキメデスタイリング、高分子準結晶の発見で知られる。ソフトマター準結晶分野の第一人者。平成23年(2011年)ノーベル化学賞発表の際にも高分子準結晶の発見が引用され、ノーベル賞記念論文集にソフトマター準結晶の解説文を寄稿。
近畿大学大学院 総合理工学研究科 前期博士課程(論文執筆当時) 別宮 進一(べっく しんいち)
平成26年(2014年)3月 近畿大学工学部理学科物理学コース卒業
平成28年(2016年)3月 近畿大学大学院 総合理工学研究科理学専攻物理学分野 前期博士課程修了
学位論文「ハードコア-ソフトシェル粒子系の新規タイリング構造」
「青銅比準結晶の数値的発見」で学位授与式総合理工学研究科総代となる。2014年12月19日に東京工業大学で開催された「2014年度高分子計算機科学研究会・高分子ナノテクノロジー研究会合同討論会」において、ポスター賞を受賞。現在パナソニック エクセルテクノロジーに勤務。
【関連リンク】
理工学部理学科 教授 堂寺 知成(ドウテラ トモナリ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/285-doutera-tomonari.html