ブリ類のべこ病に有効な治療法を開発
・ブリ類の養殖種苗で多発しているべこ病の治療に有効な薬剤を明らかにしました。
・ブリ類養殖の安定生産に貢献することが期待されます。
近年、ブリやカンパチなどのブリ類の養殖用稚魚で、微胞子虫の感染によるべこ病が多発し問題となっています。本病にかかった稚魚は、成長不良になったり死亡したりします。また、死亡せずに商品サイズにまで成長した場合にも、微胞子虫の胞子の塊やその痕跡が筋肉中に残り、出荷後にクレーム対象となるケースが認められ、大きな経済的被害が発生しています。本病に対しては効果のある薬剤が開発されておらず、未だ効果的な治療法はありません。特にブリ類の主要な養殖産地である四国や九州では被害が甚大であり、対策技術の開発が望まれていました。
水産研究・教育機構は、近畿大学水産研究所、愛媛県農林水産研究所水産研究センター、鹿児島県水産技術開発センターと共同で、農林水産省の水産防疫対策委託事業により本病の治療法の開発に取り組みました。そして、感染初期の筋肉中における本微胞子虫の増殖の抑制や胞子の形成阻止に、フグ目魚類で承認されているフェバンテル(ブリ類を含むスズキ目魚類では未承認)等のベンズイミダゾール系薬剤の経口投与が有効であることを明らかにしました。また、感染初期に投薬を開始することが重要なため、原因虫の微量検出法も開発しました。この成果により本病の治療法が実用化されれば、ブリ類の養殖生産における経済的被害の軽減に大きく貢献することが期待されます。
【背景】
海産魚のべこ病は、真菌の仲間であるミクロスポリジウム属の微胞子虫による感染症であり、古くから知られています。ブリ類(注1)に感染する微胞子虫はMicrosporidium seriolaeです(図1)。近年、ブリ類の養殖用の稚魚(種苗)で本虫に重篤に感染する事例が多く認められるようになり、種苗の死亡や成長不良、さらには出荷まで育成した養殖魚の筋肉中にシストと呼ばれる微胞子虫の胞子塊を内包した袋状の被嚢組織やその痕跡が残り、商品価値が大幅に低下するなど、大きな経済的被害が発生しています(図2,3)。本病に対しては治療法が開発されていないことから、未だ効果的な対策は無く、特に四国や九州のブリ類主要養殖漁場では被害が甚大であり、対策技術の開発が望まれていました。
【成果の内容】
ベンズイミダゾール系薬剤であるフェバンテルあるいはアルベンダゾールを飼料に添加したものを、感染したカンパチに経口投与することにより、本虫によるシストの形成や筋肉中での本虫の増殖を抑制できることを明らかにしました。水温によって異なりますが、シストは通常感染後1週間から2週間程度で形成されます。既にシストが形成された感染魚に投薬した試験では、シスト内の胞子はある程度殺菌されるものの、シスト自体は残ったことから、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法など原因虫の微量検出法により初期段階の感染を迅速に診断し、感染後シストが形成される前に、薬剤を投与することが重要であることを明らかにしました。以上の結果から、上記2種薬剤の何れかを感染初期に経口投与することで、べこ病の治療が可能であることが示されました。なお、フェバンテルはフグ目魚類のエラムシ症に承認を受けている水産薬ですが、現在、ブリ類を含むスズキ目魚類への使用は承認されていません。
【成果の活用】
海産魚のべこ病は、ブリ類やマダイ、クロマグロ、ホシガレイで発生が報告されています。特に近年ブリ類の種苗では重度に感染してしまい、大きな経済的被害が発生しています。ブリ類では、特に主要産地である四国南西部や九州南部で被害が甚大であることから、本成果による治療法が実用化されれば、当該地域での経済的被害の軽減に大きく貢献することが期待されます。
用語の解説
(注1)ブリ類
日本では、ブリ、ヒラマサ、カンパチ、ヒレナガカンパチを総称してブリ類と呼んでいる。
(注2)ベンズイミダゾール系薬剤
ベンズイミダゾール環を有する化合物で、様々な寄生虫感染症に対する駆虫薬として知られている。例えば、人に感染する微胞子虫に対する薬剤としてアルベンダゾールが処方されている。また、日本では、フェバンテルおよび体内代謝物であるフェンベンダゾールは、ブタの線虫類である豚回虫、豚腸結節虫、豚鞭虫の駆除薬、イヌの線虫類あるいは条虫類である大回虫、大鉤虫、大鞭虫、瓜実条虫の駆除薬、魚類ではフグ目魚類の単生類であるヘテロボツリウムの駆除薬として承認されている。