日本を代表するトウガラシ「鷹の爪」の全ゲノムを解読~多様なトウガラシを生み出すための基盤に~

ゲノムを解読した「鷹の爪」の実(ゲノムDNAは植物体の若葉より抽出)
ゲノムを解読した「鷹の爪」の実(ゲノムDNAは植物体の若葉より抽出)

かずさDNA研究所は、近畿大学、京都大学、国立遺伝学研究所と共同で日本を代表するトウガラシのひとつ「鷹の爪(タカノツメ)」のゲノムを解読しました。

南米原産のトウガラシは、室町時代後期に日本に伝わり、各地でさまざまな地域品種が誕生しています。「鷹の爪」は江戸時代から栽培されていた在来系統のひとつですが、数あるトウガラシの中でも「鷹の爪」が香辛料として人気を博した理由や、どのような経緯で日本全国に広まったのかはわかっていません。

今回、「鷹の爪」の全ゲノムを解読し、12本の染色体のDNA配列(合計30億塩基対)を高精度に決定しました。そして、「鷹の爪」以外の14系統のトウガラシのゲノム情報と比較して、染色体構造の違いや塩基配列の違いを多数明らかにしました。
これらの情報から、「鷹の爪」が日本で広がった経緯が明らかになるかもしれません。さらに、「鷹の爪」がもつ強い抗ウイルス活性の利用や、多様なトウガラシを生み出すための品種改良が進むと期待されます。

研究成果は国際学術雑誌DNA Researchにおいて、12月25日(日)にオンライン公開されました。

論文タイトル:Chromosome-scale genome assembly of a Japanese chili pepper landrace, Capsicum annuum ‘Takanotsume’
著者    :Kenta Shirasawa, Munetaka Hosokawa, Yasuo Yasui, Atsushi Toyoda, and Sachiko Isobe
掲載誌   :DNA Research
DOI    :https://doi.org/10.1093/dnares/dsac052

【背景】
「鷹の爪」は日本を代表するトウガラシの1品種で、全国で栽培されています。実の形が鷹の鉤爪(かぎづめ)を連想させることからこの名前がつきました。トウガラシの辛さの指標であるスコビル値※1 は1万を超え、香辛料として広く利用されており、「鷹の爪」は唐辛子の代名詞にもなっています。品種の元となったトウガラシは南米原産で、日本には室町時代後期の16世紀頃に伝わりました。「鷹の爪」から派生し、江戸時代に塩飽(しわく)諸島(香川県)で栽培されていた「本鷹(ほんたか)」や、小さくて丸い「だるま」など日本各地に派生系統が残っています。しかしながら、平賀源内の記した唐辛子図録「蕃椒普(ばんしょうふ)」にも記録が残る在来系統の「鷹の爪」が、どのような経緯で育成され、どのようにして日本全国に広まったのかはわかっていません。
「鷹の爪」はピーマン、パプリカ、シシトウなどと同じ種(Capsicum annuum:カプシクム・アニューム)に属しています。激辛トウガラシとして有名なハバネロ(C. chinense:カプシクム・キネンセ)やタバスコ(C. frutescens:キダチトウガラシ)はそれぞれ別の種に分類されています。さらに、南米には、別の種(C. baccatum:アヒ)も存在します。これらを利用して多様なトウガラシを生み出す品種改良には、種を超えた交雑(種間交雑)が必要ですが、交雑の組み合わせによっては雑種が発育不全を起こす「座止(ざし)※2」という現象が観察されています。ところが「鷹の爪」には座止を回避する遺伝子が備わっており、「鷹の爪」が片親の雑種は正常に成長できることがこれまでの研究からわかっています。また、「鷹の爪」の葉に含まれる酵素がモザイク病などのRNAウイルスに対して抗ウイルス活性※3をもつことも知られています。このような特徴をもつ「鷹の爪」の全ゲノム情報があれば、座止を回避したり、抗ウイルス活性を示したりする遺伝子を突き止めることができるようになると考え、「鷹の爪」の全ゲノムを解読しました(メキシコ在来種トウガラシのゲノムは韓国のグループが2014年に解読しています)。

【研究成果の概要】
(1)「鷹の爪」がもつ12本の染色体※4 のDNA配列(合計30億塩基対)を高精度に決定しました。「鷹の爪」のゲノムには34,324個の遺伝子があり、ゲノムの83.4%は転移因子などのリピート配列※5 が占めることがわかりました。
(2)「鷹の爪」のゲノムを3種14系統のトウガラシのゲノムと比較した結果、少なくとも4ヶ所で染色体構造に違い※6 があること、また、種によって500万から4300万ヶ所のDNA配列に違いがあることがわかりました。このような染色体構造や配列の違いがトウガラシの様々な特徴を生み出していると考えられます。

【将来の波及効果】
(1)ゲノム情報を活用して、座止を回避したり抗ウイルス活性を示したりする遺伝子を突き止める研究を進めています。これらの遺伝子が見つかれば、多様なトウガラシを生み出すための品種改良ができるようになり、また、ウイルスの分解活性を利用した抗ウイルス剤も開発できるようになると期待されます。
(2)今後の研究で「鷹の爪」の由来が解明できるようになれば、さらに日本各地で認定されている伝統野菜のゲノム解読を行うことで、これまで明らかになっていなかった伝統野菜や我が国で独自に発展した香辛料品種のルーツが明らかになり、在来品種の保護につながります。

本研究は、日本学術振興会のJSPS科研費(16H02535, 16H06279 (PAGS), 20H02981, 22H05172, 22H05181)の助成を受けて実施しました。

【用語解説】
※1 スコビル値(スコヴィル値):トウガラシの辛さを測る単位で、もともとはトウガラシ抽出物の辛みを感じなくなるまで砂糖水で薄めた際の希釈倍率であったが、現在は含まれる総カプサイシン濃度から推計している。
※2 座止:正常に伸長、花器の分化形成が行われないことをいう。
※3 抗ウイルス活性:唐辛子の抗ウイルス活性は強力なRNA分解酵素による。PMMoVやTMVなどのRNAウイルスのゲノムRNAを切断することができる。
※4 染色体:細く長いDNAを保護し、細胞増殖時には効率良く複製と分配を行うための構造体のこと。ヒトでは、染色体は1つの細胞に23対46本ある。鷹の爪は12対24本。
※5 転移因子などのリピート配列:転移因子は、動く遺伝子、トランスポゾンとも呼ばれる。細胞内において、ゲノムのある場所から他の場所へ転移することができるDNA配列のことをいう。
※6 染色体構造の違い:染色体の部分的な「欠失」、特定の部分が余分にコピーされる「重複」、染色体の一部が逆向きに融合する「逆位」、染色体の一部が別のところに移動する「転座」が知られている。染色体構造の変化をたどることで、品種のルーツを明らかにできる。

【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 教授 細川 宗孝(ホソカワ ムネタカ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2167-hosokawa-munetaka.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/


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