世界初! 肝機能不良の進行肝細胞がん患者に対する 免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」の有効性・安全性を証明
近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室消化器内科部門 主任教授の工藤 正俊を中心とする国際共同研究チームは、肝機能不良の進行肝細胞がん患者に対して、免疫チェックポイント阻害剤※1「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)」が、肝機能良好の患者と同等に有効であり、かつ安全性にも問題がないことを、国際多施設共同試験により世界で初めて証明しました。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)5月27日(木)AM9:00(日本時間)に、肝臓学に関する臨床・研究を網羅した国際的な専門誌"Journal of Hepatology"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●肝機能が中等度に低下した進行肝細胞がん患者における免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)の有効性を世界で初めて証明
●治療法がなかった肝機能不良の進行肝細胞がん患者に対する国際共同試験を近畿大学医学部が牽引
●肝機能の状態が悪い進行肝細胞がん患者へのあらたな治療薬として大きな期待
【本件の内容】
肝細胞がんについては、世界では5種類の分子標的薬(レンバチニブ、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、ラムシルマブ)と4種類の免疫療法剤(アテゾリズマブ+ベバシズマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ+イピリムマブ)、合計9種類が承認を得ています(日本ではそのうち6種類が承認)。この9種類の薬剤は、肝機能不良の進行肝細胞がん患者には使用が認められていません。従って、承認されていながらも肝機能良好の患者にしか使用することができず、肝機能不良の進行肝細胞がん患者に対する全身化学療法は、大きな臨床的問題点となっています。
今回の国際共同試験では、この問題を解決すべく、49例の肝機能不良の進行肝細胞がん患者に、免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ(オプジーボ)」を投与し、有効性・安全性について肝機能良好の患者262例と比較しました。その結果、肝機能不良の進行肝細胞がん患者においても有効性が高く、安全性に問題がないことを世界で初めて証明しました。
今後、ニボルマブ(オプジーボ)が肝機能不良の進行肝細胞がん患者の新たな治療法となることが期待されます。
【論文掲載】
論文名:
CheckMate 040 cohort 5:A phase I/II study of nivolumab in patients with advanced hepatocellular carcinoma and Child-Pugh Bcirrhosis
「CheckMate040第5コホート研究:Child-Pugh分類Bの進行肝細胞癌患者に対するニボルマブの第I/II相試験」
掲載誌:
Journal of Hepatology(インパクトファクター:20.582@2020)
著 者:
工藤 正俊1, Ana Matilla2, Armando Santoro3, Ignacio Melero4, Antonio Cubillo Gracián5, Mirelis Acosta-Rivera6, Su-Pin Choo7, Anthony B. El-Khoueiry8, 黒松 亮子9, Bassel El-Rayes10, 沼田 和司11, 伊藤 義人12, Francesco Di Costanzo13, Oxana Crysler14, Maria Reig15, Yun Shen16, Jaclyn Neely16, Marina Tschaika16, Tami Wisniewski16, Bruno Sangro17
所 属:
1 近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門), 2 Servicio de Digestivo, Hospital General Universitario Gregorio Marañón, CIBEREHD, 3 Medical Oncology and Hematology Unit, Humanitas Clinical and Research Center IRCCS, Humanitas University, 4 Department of Immunology, Universidad de Navarra, 5 Medical Oncology Center, Hospital Universitario HM Sanchinarro, Centro Integral Oncológico Clara Campal (CIOCC), 6 Internal Medicine - Hematology & Oncology, Fundacion de Investigacion, 7 Division of Medical Oncology, National Cancer Center, 8 Keck School of Medicine, USC Norris Comprehensive Cancer Center, 9 久留米大学病院消化器内科, 10 Department of Hematology and Medical Oncology, Emory University Winship Cancer Institute, 11 横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター, 12 京都府立医科大学消化器内科学, 13 Department of Medical Oncology, AOU Careggi, 14 Michigan Medicine Oncology Clinic, University of Michigan, 15 BCLC Group, Liver Unit, Hospital Clinic de Barcelona, CIBEREHD, 16 Bristol Myers Squibb, 17 Liver Unit, Clinica Universidad de Navarra-IDISNA and CIBEREHD
【研究詳細】
進行肝細胞がん患者(Child-Pugh分類※2 B)の中でも比較的肝機能の低下した49症例(ソラフェニブ※3 治療歴有り:24例、ソラフェニブ投与歴なし:25例)に対して免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ(オプジーボ)」を投与したところ、客観的奏効率※4 12%、病勢制御率※5 55%、奏効までの期間2.7カ月、奏効持続期間9.9カ月であり、治療関連の重篤な有害事象(Grade 3/4)の出現率は24%でした。
この成績は、既に報告された肝機能良好の患者(Child-Pugh分類A)の262例に対するニボルマブの成績(El-Khoueiry AB, Kudo M, et al. Lancet 2017;389:2492–2502.)と比較するとほぼ同等です。(Child-Pugh分類Aの客観的奏効率20%、病勢制御率61%、奏効までの期間2.7カ月、奏効持続期間12.4カ月、重篤な有害事象(Grade 3/4)出現率23%)。
また、客観的奏効の得られた進行肝細胞がん患者(Child-Pugh分類B)6例のうちの4例は、肝機能が良好であるChild-Pugh分類Aに改善しました。進行肝細胞がん患者(Child-Pugh分類B)の全生存期間※6 は7.6カ月(ソラフェニブ治療歴有り:7.4カ月、ソラフェニブ投与歴なし:9.6カ月)でした。これは、非介入試験であるGIDEONという実臨床の観察研究での、標準治療薬ソラフェニブによる進行肝細胞がん患者(Child-Pugh分類B)の全生存期間の5.2カ月を凌駕し、かつ通常診療でのソラフェニブの全生存期間の3-5カ月を上回る成績です。
この結果、肝機能が低下した進行肝細胞がん患者(Child-Pugh分類B)に対する免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ(オプジーボ)」の有効性・安全性は、肝機能良好の患者(Child-Pugh分類A)の262例とほぼ同等であることを実証しました。ニボルマブ(オプジーボ)はChild-Pugh分類Bの症例にも安全に投与可能で、生命予後の延長効果もこれまでの標準治療であるソラフェニブよりも優れるといえます。
【用語説明】
※1 免疫チェックポイント阻害剤:京都大学の本庶 佑教授が発見した免疫のブレーキ機構(PD-1分子)を阻害する抗体薬。
※2 Child-Pugh分類:血清アルブミン値、ビリルビン値、プロトロンビン時間、肝性脳症、腹水の程度を、1点から3点にスコア化して足し算することにより計算した肝機能予備力の指標。肝機能が良い順にChild-Pugh分類A(5-6点)、Child-Pugh分類B(7-9点)、Child-Pugh分類C(10-15点)の3つに分類される。
※3 ソラフェニブ:2007年に世界で初めて肝細胞がんに対する生存延長効果が示された分子標的薬。2018年のレンバチニブ、2020年のアテゾリズマブ+ベバシズマブが登場するまでは世界で唯一の進行肝細胞がんに対する一次治療の標準治療薬であった。
※4 客観的奏効率:完全奏効(100%縮小効果)と部分奏効(30%以上の縮小効果)の全体に占める割合。
※5 病勢制御率:病勢制御(縮小効果30%から腫瘍増大20%までの範囲)と完全奏効、部分奏効の全体に占める割合。
※6 全生存期間:患者の登録から死亡までの期間の中央値。
【関連リンク】
医学部 医学科 教授 工藤 正俊(クドウ マサトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html