女子高校生を対象にeヘルスリテラシーと健康状態の相関を調査 リテラシーが高い生徒は月経前症状等が軽減される傾向が明らかに

近畿大学東洋医学研究所(大阪府大阪狭山市)所長・教授 武田卓らを中心とする研究グループは、仙台市内の女子高校生909人を対象に、インターネット上の健康情報を適切に活用する能力である「eヘルスリテラシー」と、月経前症状※1 や心身の健康状態との関連について調査しました。その結果、約3人に1人が高いeヘルスリテラシーを有しており、リテラシーが高い生徒は思春期特有の孤独感などが有意に軽減される傾向があることがわかりました。また、一部の月経前症状も軽減されていることが明らかになりました。一方で、高いeヘルスリテラシーをもつ生徒の割合は海外と比較すると低く、学校でのデジタルヘルス教育を強化することで、高校生の心身の健康状態改善に役立つ可能性が示唆されました。
本件に関する論文が、令和7年(2025年)6月30日(月)22:00(日本時間)に、子どもや保護者の健康を支えるデジタルヘルスやテクノロジー応用に特化した国際学術誌"JMIR Pediatrics Parenting(ジェイエムアイアール ペディアトリクス ペアレンティング)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●女子高校生909人が対象の調査で、「eヘルスリテラシー」が高い生徒は思春期特有の孤独感や一部の月経前症状などが軽減される傾向を確認
●海外の同年代と比較すると日本のeヘルスリテラシーは低く、改善の余地がある
●若年層へのデジタルヘルス教育を強化することで、高校生の心身の健康状態が改善する可能性を示唆
【本件の背景】
近年、若年層ではSNSや検索サイトを通じて健康情報を収集することが一般的となっています。一方で、インターネット上には正確な情報だけでなく誤情報も多く存在しており、情報の真偽を見極め、適切に活用する能力、いわゆる「eヘルスリテラシー」の重要性が高まっています。若年世代のなかでも、特に高校生はインターネット上の健康情報への依存が高まっており、誤った活用をしてしまうと、思春期の心理的健康に影響を及ぼす可能性が示唆されています。
一方で、インターネットを高頻度で利用している高校生は、思春期特有の心理的苦痛、うつ、不安、孤独感、トラウマのリスクが高いことが知られています。令和3年(2021年)に実施された国内の高校生を対象とした調査では、心理的苦痛や孤独感が月経前症状の重症度と相関していることが示唆されました。月経前症状は、不快な精神・身体症状が特徴で、女性のパフォーマンスを妨げることから最近特に注目されている疾患ですが、思春期における月経前症状とeヘルスリテラシー、またメンタルヘルスの関連を扱った先行研究はありません。
【本件の内容】
研究グループは、日本の女子高校生を対象にeヘルスリテラシーの現状と、月経前症状との関連を解明することをめざし、仙台市内の公立高校2校に在籍する女子高校生1,607人を対象に、令和6年(2024年)12月にWeb上で学校調査を実施しました。eヘルスリテラシーのスコア以外に、心理的苦痛、孤独感、自己肯定感といった思春期の主要な健康に関する項目、月経痛強度のスコアなどについて調査を行い、月経周期が規則正しくあり調査に完全回答した909人について相関関係を分析しました。
その結果、約3人に1人が高いeヘルスリテラシーを有しており、リテラシーが高い生徒は孤独感が有意に低く、自尊感情が有意に高いことがわかりました。また、月経前症状のうち「圧倒される、もしくは自分をコントロールできない感覚」が、eヘルスリテラシーの高い生徒では有意に低く、症状に起因して起こる「対人関係障害」の重症度も有意に低いことが明らかになりました。一方で、日本の高校生のeヘルスリテラシーの平均スコアは22.8点で、海外の同年代と比較すると2~5点低く、改善の余地があることがわかりました。
本研究成果から、学校の学習プログラムにデジタルヘルス教育を取り入れることで、高校生の心身の健康状態を改善できる可能性が示唆されました。
【論文掲載】
掲載誌:JMIR Pediatrics and Parenting(インパクトファクター:2.1@2024)
論文名:eHealth Literacy and Adolescent Health
in Japanese Female High School Students
in Sendai: Cross-Sectional Study
(仙台の女子高校生におけるeヘルスリテラシーと
思春期の健康に関する横断研究)
著者 :武田卓*、吉見佳奈、甲斐冴、井上史 *責任著者
所属 :近畿大学東洋医学研究所
【本件の詳細】
令和6年(2024年)12月中旬に、仙台市内の公立高校2校に在籍する女子高校生1,607人を対象として、eヘルスリテラシー評価尺度※2、月経前症候群症状評価尺度※3、孤独感尺度※4、心理的苦痛尺度※5、自尊感情評価尺度※6 を評価する調査を実施しました。月経周期が規則正しくあり、調査票に回答した909例を解析したところ、約3人に1人(32.1%)が高い「eヘルスリテラシー」を有していることがわかりました。eヘルスリテラシーが高い生徒は、孤独感が有意に低く(p=0.02)、自尊感情が有意に高い(p<0.001)ことも明らかになりました。また、月経前症状のうち「圧倒される、もしくは自分をコントロールできない感覚」が、eヘルスリテラシーの高い生徒では有意に低く(p=0.026)、月経前症状による対人関係障害が有意に低い(p=0.045)結果となりました。さらに、多変量解析を実施した結果、「高い自尊感情」が「高いeヘルスリテラシー」と独立して有意に関連している(p<0.0001)こともわかりました。
一方で、日本の女子高校生のeヘルスリテラシーの平均スコアは22.8点で、セルビアやブラジルの同年代と比較して2~5点低く、国際的に見ても改善の余地が大きいことが明らかになりました。
【研究者のコメント】
武田卓(タケダタカシ)
所属 :近畿大学東洋医学研究所
職位 :所長/教授
学位 :博士(医学)
コメント:本研究は、日本の高校生を対象にしたeヘルスリテラシーに関する調査としては初めてのものであり、これまで十分に明らかにされてこなかった思春期における実態を明らかにする点で意義のある取り組みです。また、月経随伴症状との関連を検討したのは、世界で初めての報告となります。
【用語解説】
※1 月経前症状:月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)に代表される、月経前の心身の不調。PMSは、月経前3~10日のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経とともに減少または消失する症状のこと。イライラ・おちこみ・不安感といった精神症状と、腹部膨満感・乳房症状といった身体症状が認められる。PMDDは、精神症状主体で重症型のPMS。
※2 eヘルスリテラシー評価尺度:インターネット上で健康情報を検索・理解・評価・活用する能力を測定する指標で、個人の情報活用能力を定量的に評価するために用いられる。評価には、eHEALSを使用した。
※3 月経前症候群症状評価尺度:月経前症候群の症状を測定する指標。評価には、PSQ(武田らが開発した月経前症候群症状11項目と社会生活3項目を評価する調査票)を使用した。
※4 孤独感尺度:UCLA孤独感尺度(第3版)短縮版3項目を用いて評価した。
※5 心理的苦痛尺度:心理的苦痛は、外的なストレスと、ストレスに対する脆弱性により、引き起こされる苦痛。うつや不安のリスクを増大させる。一般的に、心理的苦痛の評価にはK6(うつ病・不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発された調査票)が広く使用されており、本研究でも使用した。
※6 自尊感情評価尺度:自己価値感や自信の高さを把握するために用いる。評価には広く自尊感情の高さを数値化するRSES(Rosenberg Self-Esteem Scale)が用いられており、本研究でも使用した。
【関連リンク】
東洋医学研究所 教授 武田卓(タケダタカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/818-takeda-takashi.html