「遊んでいるだけ」じゃない 子どもにとっては「すべてが学び」 保育士が記録する遊んで学ぶ子どもの姿

「遊んでいるだけ」じゃない 子どもにとっては「すべてが学び」 メインビジュアル
「遊んでいるだけ」じゃない 子どもにとっては「すべてが学び」 メインビジュアル

「子どもの学び」と聞いてどのような学びを想像しますか?絵本の読み聞かせや学習帳を通して文字を覚えたり、小学校への就学に向けて早い段階で算数や英語といった教材を取り入れたり、こういったことを思いつく人も多いはずです。これらも子どもの学びのひとつですが、それだけでなく、子どもたちは日々の生活の中で体験するすべての出来事や遊びからあらゆることを学んでいます。今回は子どもの遊びを通して学ぶということに焦点をあて、保育士が記録したドキュメンテーション(※)の事例を玉川大学教育学部教授 大豆生田先生の解説を交えご紹介します。


※2023年1月26日時点で、大豆生田先生監修のコドモンとベネッセコーポレーションが共同開発した「保育ドキュメンテーション」は4,200以上の施設に導入されています。

■子どもの学びってなんだろう? 「早期教育」と「遊びを通して学ぶ」の本質的な違い

2021年7月、文部科学省 初等中等教育分科会にて「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」が設置されました(※1)。幼児教育の質的向上および小学校教育との円滑な接続を目的としたこの委員会では、

「幼児教育」つまり「子どもの学び」について社会的に十分に理解されていない点が課題として挙げられました。

「子どもの学び」と聞くと、受験などを念頭に置いた知識のみの獲得を先取りする「早期教育」を思い描く人も多いですが、それだけではなく、子どもたちは「遊びを通じて学ぶ」ことで生涯にわたる学習の基礎を作っています。子どもたちにとって遊びは、外の世界に対する好奇心が育まれ、探索し、知識を蓄えるための基礎が形成されていく過程で重要なものです。また、幼児の発達にとって最も重要な自我が芽生えるとともに、人と関わる力や他人の存在に気づくなど、自己を取り巻く社会への感覚を養っています。

これらは幼児の内面に働きかけ、一人ひとりの持つよさや可能性を見いだし、その芽を伸ばすことをねらいとしているため、小学校以降の教育と比較して「見えない教育」といわれることもあります。施設の職員にとっては子どもたちの内面にひそむ芽生えを理解し、引き出し、伸ばすためには幼児の主体的な活動を促す適当な環境を計画的に設定する専門的な能力が求められます(※2)。名前のつかない日々の遊びのなかで子どもたちが何を学んでいるのか、具体的な事例をご紹介します。

※1 令和3年7月8日「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会の設置について」
https://www.mext.go.jp/content/20210720-mxt_youji-000016944_02.pdf
※2 架け橋特別委員会「第1章 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の方向性」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1420140.htm

■事例紹介 ~遊びを通して学ぶ子どもたちの記録~

実際に子どもたちが遊びを通して学んでいる様子を記録した保育園の事例をいくつか紹介します。子どもの興味や驚き、自分で考えて試行錯誤する遊びこそ、1つ1つが子どもたちの学びなのです。そんな毎日の些細な出来事から学ぶ子どもたちの姿を、先生たちの日々の記録からみていきます。

「園の畑へお散歩に!畑の近くの砂利道で見つけた遊びとは?」

※2022年11月18日(金) ベネッセコーポレーション主催「2022年度 ドキュメンテーションサポートプログラム(第3回)」 とりやまこども園の事例より抜粋

小石でお絵描きを始める子どもたち
小石でお絵描きを始める子どもたち

1歳児クラスの子どもたちがお散歩にいったときの出来事です。畑のそばにあった石に興味を持った子どもがいました。コンクリートブロックの上に石を一列に並べたり、いろんな色や形の石を楽しんだりして遊んでいたのですが、1人の子がコンクリートブロックに石をガリガリと擦りつけて遊び始めました。 すると、コンクリート上に白い跡がつくことに気がついたのです。そこで、先生から「お絵描きができるね」と声をかけると、その場でなぐり書きを始めました。それを見て周りの子どもたちも同じように石を持ってお絵描きを始めました。

先生が石を使って遊ぶ様子を見せたり、「石でこんな遊びができるよ」と声をかけたりしたわけではなく、子ども自身で遊び方を見つけ、子ども自身の気づきから遊びが発展していったのです。

大豆生田先生コメント

「この記録おもしろい!」ってすごく引き込まれました。子どもたちがこの集中してる感じが、圧倒的におもしろいと思います。子どもがまるでアーティストみたいに“並べる”ことをこんなに素敵に”楽しん”だり、「この石でこんな描けちゃうんだ」と”発見”したり、「僕もこれやってるよ」というように真似しながら描いてみたり…。この記録に子どもの発想やアイデアっておもしろい!ということが詰まっていて、それを先生も「愛おしいな」と思いながら書いてる感じがすごくいいです。やっぱり、保育で大事なのってこういう瞬間だと思うんですよね。

「青みかん『ぱっかーん』 0・1歳児クラスのお散歩から楽しさの共有へ」

※2022年5月24日(火) ベネッセコーポレーション主催「2022年度 ドキュメンテーションサポートプログラム(第1回)」 の事例より大豆生田先生の解説抜粋

お散歩の様子
お散歩の様子

これはある日の0・1歳児のお散歩の様子です。「トラックとフォークリフトを見に行こうか」と、わくわくしながらお散歩に向かっています。 お散歩は毎日行きますが、ただ行って帰ってくるお散歩とちょっと違うところも魅力的です。子どもたちはワクワクしながら、カタツムリやナスを見つけたりして、お散歩の中でも色々と発見をしています。子どもって、発見の天才みたいな感じですよね。

その日のお散歩の中で、子どもたちが一番興味・関心を示していたのが「途中で発見した青いミカン」。その子どもたちの姿から、先生は「明日お部屋に青ミカン飾ってみよう。どうなるかな」と、明日の計画を立てました。

青ミカンを「ぱっかーんしたい」と持ってくる子ども
青ミカンを「ぱっかーんしたい」と持ってくる子ども

そしたら翌日、案の定子どもが青ミカンを見つけて「これぱっかーんしたい!」って持ってきました。そこから青ミカンを子どもたちの前で切ってみようとなりました。

青ミカンに興味津々な子どもたちの様子
青ミカンに興味津々な子どもたちの様子
青ミカン
青ミカン

青ミカンを「ぱっか~ん」と切ってみると、みんな興味津々でした。大好きなお散歩の中にこんなドラマがいっぱいあるのです。お散歩で見つけた青ミカン、持ち帰ったら「食べてみたい」となり、みんなで切ってみて、それぞれ「すっぱい」「おいしい」「あげる」「いい匂い」と子どもたちは色々な反応をみせてくれました。いつものお散歩から、自然の中の「青ミカン」への関心につながり、青ミカンを切ってみたらどうなるか、青ミカンの味や匂いなどを知るという学びにつながりました。

「どうやって風を捕まえようか?」

※ベネッセコーポレーション「ホイクテラス」 コドモンの保育ドキュメンテーション活用実践事例集
「園と家庭を『つなぐ』対話促進型のドキュメンテーション」より抜粋
https://hoiku.benesse.ne.jp/hoikudmt/casehoikudmt/20211001-01/

風を捕まえる子どもたちの様子
風を捕まえる子どもたちの様子

この日は風が強い日で帽子が脱げたり、ハンカチを風になびかせたりして楽しんでいたので、急遽予定を変更し、みんなで「風を捕まえる」ことに。「どうやって風を捕まえようか?」と話し合い、ビニール袋とすずらんテープで風の捕獲器を作成しました。「捕まえた風の匂いは?! 色は?!」と捕まえるごとに確認する子どもたちの様子が印象的で、この年齢でしか出てこない発言を保護者にも届けたいと考え、連絡帳で公開しました。

保護者からは「持ち帰った捕獲器を見て、何もってきたのかと思ったけど、記録を読んで合点がいきました。一生懸命、家でも風の匂いや味の話してくれました、笑」という声もあり、ささいな写真とコメントでしたが、家庭での会話のきっかけにもなっているのかなと感じています。


今回は3つの事例を取り上げましたが、これらの事例からも分かるように子どもたちは日常の些細なひとコマからあらゆることを学んでいます。一見なんでもないような出来事でも、子どもにとっては今後の学びの基礎を作る大事な瞬間なのです。「ただお散歩しているだけ」「ただ石を見つけただけ」「ただ強い風にびっくりしただけ」で終わらせることなく、子どもたちがなにに気づき、なにに興味を持ち、なにに惹かれているのか、その芽生えの瞬間に気づき明日からの学びに繋げることが、子どもの学びにとって大切だといえます。

■保育ドキュメンテーションとは

これらの記録はすべて「保育ドキュメンテーション」を使って記録されたもので、子どもたちの遊びを通じた学びを可視化する手段の1つといえます。

「保育ドキュメンテーション」は、写真でカンタンに「記録・共有・振り返り」できるツールです。今日の子どもの興味関心を可視化し、記録・共有することで、日々子どもと接する保育者同士の対話を生み出すことができます。さらに、その内容をもとに子どもの姿を振り返り、子どものその日の興味や試行錯誤といった学びをもとに、その活動がさらに深まるように明日の保育を組み立てることもできるようになっています。この「保育ドキュメンテーション」を活用することで、「子ども主体の保育」のサイクルを負荷なく、自然に取り入れることができるとして、利用施設が増加しています(※)。

さらに、コロナ禍で保護者が保育の様子を知る機会が減ったことなどを受け、保育施設と保護者の情報共有についてはここ数年の大きな課題となったことを背景に、ドキュメンテーションを活用した保護者とのコミュニケーションもより進んでいます。

保育ドキュメンテーション
保育ドキュメンテーション

※ICT導入施設への利用調査2022にてドキュメンテーションに関する施設の声が2021年度は19件だったところ、2022年度は32件と増加。さらに、特にこれから活用したい機能として「ドキュメンテーション」の回答が2021年度の5.5%から19.6%と増加し、最多の回答数に。
【調査レポート】 ICT導入施設への利用調査2022にて 3年連続90%以上の施設が「業務省力化を実感」
https://newscast.jp/news/5244269

【玉川大学教育学部教授  大豆生田 啓友】

青山学院大学大学院修了後、幼稚園教諭等を経て、玉川大学教育学部の教授を務める。 現在は、日本保育学会理事、日本こども環境学会理事、内閣官房(こども家庭庁準備室)「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会委員(座長代理)、文部科学省「幼保小の接続期の教育の質的向上に関する検討チーム」委員、よこはま☆保育・教育宣言運用協議会委員などを務め、保育の質向上に向けた取り組みを行う。yahoo japan公式コメンテーター、 NHK・Eテレ「すくすく子育て」出演、テレビ静岡「テレビ寺子屋」出演など、コメンテーターとしても活躍されており、『保育ドキュメンテーションの作り方』(西東社、2023年2月発売)など著書も多数。

【株式会社コドモン 会社概要】

◆所在地:東京都港区三田3丁目13−16 三田43MTビル 3F
◆資本金:68,250,000円
◆代表者:代表取締役 小池義則
◆WEB:https://www.codmon.co.jp/
◆事業内容:子どもを取り巻く環境をより良くするための事業を手掛け、働く人にとっても働きやすい組織づくりを体現。子育てに優しい社会に変わるよう多角的に環境整備を行い、社会に貢献する。
◎こども施設職員の労働環境を整え、保育・教育の質向上を支える子育てインフラとしての保育ICTシステム「コドモン」の開発・提供。2022年12月時点で、全国約13,000施設、保育士約26万人が利用。全国約300の自治体で導入および実証実験の導入が決定。導入施設数・自治体導入施設数・契約自治体数でシェア1位(※)
◎保育士採用を支援するウェブサービス「ホイシル(https://www.hoicil.com/)」の提供。こども施設が簡単に施設の魅力を発信でき、保育学生や再就職希望者が採用情報にアクセスしやすいような情報提供を行う。
その他、保育園向け写真ネット販売「コドモンプリント(https://www.codmon.com/print/)」こども施設を対象とした専門のECサイト「コドモンストア(https://store.codmon.com/)」、現場で働く保育者の資質や専門性向上を目的としたオンライン研修サービス「コドモンカレッジ(https://college.codmon.com/)」、こども施設職員への福利厚生サービス「せんせいプライム」などを展開。
※(2023年1月株式会社東京商工リサーチ調べ)

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株式会社コドモン
広報
press@codmon.co.jp
080-7303-6026/080-4466-6738
TEL: 03-6459-4318
FAX: 050-3737-7471


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